ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

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夢見る瞳

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「…婚約者って…アンタ、何いってんの……」
 
 ユリメさんは何か嫌そうな顔をして僕を一瞥するなり、同じ顔をそのまま、僕の肩を抱いて堂々としているソンジュさんへと向けた。
 
「何って…何か問題でも? 俺はを紹介したまでですけれど」
 
「……、…、…」
 
 婚約者、とは…さすがに先走っていやしないか。
 いやあるいはソンジュさん、、して…なんてな…――。
 そこでモグスさんがククク…と喉で堪え笑い、料理を取り分ける手元を見ながら。
 
「…大きく出たよなぁコイツ、なあソンジュ。…はは、まあまあユリメ。自分で決めたんだってよ、このボクちゃんは、そういう風に。」
 
「はあ? アンタもこんな…わかってて、…」
 
 ユリメさんは信じられない、とモグスさんを睨み付けているが――そのような中でも平然としているソンジュさんは、僕にこう優しく。
 
「さあユンファさん。紹介も済んだことですし、どうぞお掛けになって」
 
「ぁ…ぁは、はい……」
 
 澄ましているソンジュさんはスッと椅子を引き、僕の腰の裏に添えた大きな手をわずかに押して、僕に着席を促してくる――ので、僕はユリメさんの懐疑的な視線から顔を隠すよう俯きながら、「どうも…」とそれに浅く腰掛ける。…はっきりいって居心地は悪い。
 ユリメさんのじろじろと見てくる視線は今も尚、僕の顔中にチクチクと刺さるようだ。
 
「……いや…まあ別にアタシゃ知ったこっちゃないよ…、そりゃそうよ、そんな…でもアンタ、冗談にしちゃあちょっと……」
 
「冗談? クク、そんな…冗談なんかではありませんよ。本当に彼は、です。――です。」
 
「……、…、…」
 
 俯いてはいるが、僕はあまりのことにあんぐりと口が開いた。…凄く…凄く勝手に、が立っている(らしい)。
 
「お節介は結構。…美味しい食事が不味くなるような話題は避けましょう」
 
 そう澄ました声で言いつつ、僕の隣の椅子に腰掛けたソンジュさん――一方のユリメさんは訝しげな鋭い視線で、僕、ソンジュさん、僕、ソンジュさんと見比べているような気配がする。
 
「……、…」
 
 ため息が出そうになるのを、息を一瞬止めて堪え、緩やかに鼻からそれを逃してゆく僕は――。
 婚約者はさすがに、大きく出過ぎではないだろうか。と、頭が痛くなってきた。というか、一週間以内に婚姻届も出す予定だ…?
 彼氏ならまあ、まだともかくとしてもだ――お互いの気持ちなどを一旦抜きにして考えても、“恋人契約”とはいえ確かに僕は、少なくとも一週間は彼の恋人だ――が、まさか先ほど結婚するしないで揉めた上で「婚約者だ」と紹介されてしまうとは、いや、「一週間以内に婚姻届を出す予定だ」とまで言われてしまうとは。
 
 それじゃああたかも僕たち、近い内に結婚するカップルというように捉えられてしまう。いや近い内というか、一週間以内に結婚するカップルか…。
 しかし、それこそ僕たちはまだ結婚予定とも、あるいは“婚姻契約”を結ぶとも取り決められていない仲なんじゃないか、と…――思ったが、僕はそう認識してはいるものの、そもそもソンジュさん的には、このだという。――つまりソンジュさんの中ではもう、僕はいよいよという認識なのかもしれない。
 
「お節介ね…まあお節介よね…、だけどアンタさぁ…大丈夫なの? おい、この子もなんか困ってねえか?」
 
「…結婚とは、人生における大きなターニングポイントですからね、やはり不安もあるのでしょう。いわゆるというヤツですよ。――ましてやユンファさんは、少し人見知りなところがある人ですので、どうぞお手柔らかに。」
 
「……、…」
 
 人見知りはまあ本当のことだが――いや、思えば僕の不安は確かに結婚した先のことではあるか…広義的に見れば僕のコレもまあマリッジブルーと言えなくは…いや――待て。
 また(勝手に)丸め込まれそうになっている。
 今僕が複雑に思っているのは人見知りだからとかマリッジブルーだからとかではない、貴方が勝手に「俺の婚約者です(一週間以内に籍も入れます)」なんて僕のことを紹介したからだ。
 
「てかいつの間にアンタ…いつから付き合ってんのよ」
 
「約十一年前から」
 
「……っ?」
 
 は゛…? いかめしく眉が寄る。十一年前って僕まだ高校生だぞ、何いってんだコイt…いや。
 適当なことを言うソンジュさんに呆れた僕は、目の前の(何の罪もない)黄色いオムレツをめつけている。
 
「何いってんだお前、馬鹿じゃねえの」
 
「……、…」
 
 僕の代わりにユリメさんがツッコんでくださった、ちょっと胸がスッとした。
 とにかくこのようにユリメさんはどうやら、僕たちの仲をそうすんなりとは認められない、というようである。
 正直そういった人ばかりかと思いきや、意外にもここまでに出会ったのは、モグスさんにしろレディさんたちにしろ、僕らのことを祝福してくださっているような人たちばかりであった。
 しかしここにきて、僕たちの交際、果ては結婚を認めるわけにはいかない。…そういった人に僕は、ここでやっと出会ったんじゃないだろうか――。
 
 
 
 
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