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第1話

032. 初めての街です1

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「ここが『ソルトイルの街』だよっ」

 陽の光をたっぷりと浴びたオレンジの様な笑顔でマグが紹介したのは、坑道のダンジョンを抜けてすぐにあった壁を指していた。

「これが、一つの街、なの?」

 目の前には山の斜面に寄りかかる様に張り巡らされた壁。
 そしてそれが守る多くの人々が住まうコミュニティが寝そべっているように見えた。

「平原地帯に出るって言うからダンジョンを出た先に、てっきりなだらかな地面があるもんだと思ってたよ」
「そう、はるか向こうにある王都に荷物を運ぶ中継地点として栄えたのが、このソルトイルなんだな。
 今まで通ってきた山々の資材や、その向こうからも王都に届けたいものはそれこそ山のようにある。
 それらを捌いたり、集めたりするのには、街があったほうが良かった。
 だから――」

 ここまでフゥが説明したのをひったくるようにアニーがボクの腕を引っ張った。

「だから、いっそ街を作ってしまったらしいのだ。
 山のすそにわざわざね。
 さ、黒熊に帰ろう」
「お、おい。オレの話をとるんじゃねぇっ」

 アニーやマグが急ぐようにボクをつれて壁の内へと走っていく。

「街には壁があって、入るためには門をくぐるけど、そこまで物々しいわけでもないんだな」
「そこまで肩ひじ張ってるわけじゃないけど、一応ね。
 ここに来るまでにも魔物や獣はいたでしょう?
 自分たちの身を守るためには必要なのよ」

 その後ろをハクとフゥが荷物を担いでついてくる。
 駆け足でボクは引きずられてるけど、あの二人はそれに平気な顔して歩いてついてくるな。
 その気になったらもっと早く歩けるのかな。

 しばし連れられるままに――といっても彼女たちの足は一直線に大通りを通っていく。

「中に入ってみると街並みは、本当によくある中世ヨーロッパ風の建物ばっかりだな。
 看板もある。
 絵と文字で……ふんふん。
 宿屋に、銀行――武器屋とか魔法の道具店もあるんだ。
 やっぱり、異国の文字や絵なんだろうけど理解できるな」
「お店に興味があるのー?」
「いや、やっぱりそういうのがあるんだなって」
「? ふーん」

 マグとのやり取りでも、これが日常と言わんばかりだったが、ボクからしてみればゲームやマンガの中でのファンタジーの街並みそのものだった。

 だって、現代には武器屋や魔法の道具店は流石になじみがないからなぁ。

「あれは?」

 目に飛び込んだのは街にあたり前にいるようなコスプレをした人々。

「あの子たちは獣人だよ。
 あっちのが犬系獣人、そっちは猫系。 その隣はトカゲ系かな」
「あー、生まれつきってわけか。
 ますますファンタジーなんだね。
 あ、いや、こっちのことだから」

 柴犬のようなクルリとした巻尾を服の裾から覗かせる男性や、猫そのもののような下半身をした人。トカゲの人に至っては全身が緑のウロコでおおわれているし頭もトカゲそのものだ。

「って言うことは……」
「うんっ。マグも猫系の獣人だよ。
 いろんなタイプがいて、マグは耳としっぽがこうなんだ」

 そういってマグはその場で、ひらりとスカートを揺らして見せた。
 虎縞の丸い耳がピコピコと動き、尻尾もまた愛くるしいしぐさをとった。

 うん、イイ。
 
「そろそろ着くのだ!」

 アニーがいう待ち焦がれた黒熊についた。
 大分、大通りから離れたところに洋風レンガ造り二階建ての一軒家が立っていた。

「でも、ここ……結構……」

 そう、大きさこそソレなりだが中々に味がある佇まいをしていた。
 そして、岩山の剥き出しの肌そのものがすぐそばにある。

「街の端だけど、それなりにいいところなのよ」

 最後尾のハクがボクの隣に立つ頃には皆それぞれ、建物の中に入ったり、裏へ回ったり、自由解散していた。

「さ、入りましょう」

 正面は、実にわかりやすい。

「こんなの、西部劇でしかみたことないドアだね。
 両開きで、中からも外からも押して通ると元の位置に戻る扉、か」

 恐る恐る、中を覗く。
 キィ、と手をかけた扉が唸った。

「けっこう、中は……広いんだな……」

 戸をくぐるとそこには板敷いたじきの大きなフロアが広がっていた。
 腰の高さほどの丸いテーブルがいくつも並んでおり、奥にはカウンターと厨房ちゅうぼうらしき設備も見えた。
 一見すると薄暗いが、昼間だから窓からは陽が差し込んでいるし、暖炉だんろもある。
 歩いていると、こつんと足元に何かがぶつかってバランスを崩した。

「イタタ……
 転んじゃったよ。でも、床は、綺麗にみがかれてるな。
 もっと外見みたいに汚いと思ってたけど……」

「悪かったな、キタナくて」

 突如としてボクに覆いかぶさった大きな影。
 見上げるとそこには毛むくじゃらの獣がいた。
 ぼうぼうの毛、野太い声、大きな体格。

「クマぁ!?」

 見たこともないような黒い大きな熊が、今まさにボクの目の前に立って声をかけてきたのだ。
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