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第1話

031. 登場人物が増え始めます17

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「ここだ」

 目の前に、ひっそりと現れたのは人ひとりが通るのがやっとというような坑道の入り口だった。
 周りには草がボウボウと生え散らかしており、木の枠で入り口から中に至るまでを補強しているようだけど、その木の柱すらもちょっと押しただけで、坑道内事故が誘発されそうな見栄えをしている。
 なんなら一人で中を覗き込む自信もない。

「さて、いこっかー」
 
 のんきに、ちょっとコンビニまで歩いて行くくらいの語調でマグが先頭に立ったのを見て、ボクは慌てて駆け寄った。

「ちょっと待ってよ!
 いくら、このダンジョン? みたいな洞窟を通るのが目的地への近道だって言っても……
 正直、ムリじゃない?」

 この場合のムリというのは、ボクの心情的、体力的、そのほかにも言ってしまえばフゥやハクの身長や荷物の大きさなんかも加味してのことだ。

「慣れてるから大丈夫よ」
「中はほんの少し、暗くて湿ってて、色々いるけど、ハクの言う通り。
 大丈夫なのだ」

 アニーの根拠のない自信と「大丈夫」という語感がボクの背筋を凍らせる。

「そういうのは!
 危ないって言うの!
 それになに!?
 色々いるって!
 聞いてないよー!?」
「言ってないからな」

 まくし立てたボクの陳述ちんじゅつ(意見や考えを主張、事実を口頭などで述べること)に対するフゥの答えは、簡潔かんけつ極まりなかった。

「いや、言ってないからって……
 そういう意味じゃなくて……」

 見事なカウンターが決まり、両の手と膝を地について打ちひしがれているボク。

「あのね、出てくるのはムシとかコウモリばっかりで、危なくないんだよー。
 みんなイツキを心配させたりしないようにって、わざと教えてなかったんだ」

 マグがしゃがみこんでボクのかたをポンポンしながらなぐさめてくれる。
 なんだろう、逆にツラい。
 さめざめと泣いているボクを見かねて、フゥがひょいと持ちあげた。

「いい加減、はらくくれ!
 さっさと行くぞ」

 こうしてボクの人生初のダンジョン探検が始まった。


        ◇ ◇ ◇

「思ったより……
 中は広いんだね」

 各々が手にした松明たいまつの明かりで、壁と足元がボンヤリと照らされるほどの狭さだった。
 人が歩いて通るには差し障りはないけれど、ほぼ一方通行が約束されている。

「うわぁ!」

 こちらに来てから着たきりスズメのシャツの肩口がほつれる音で、間抜けな悲鳴を上げてしまった。

「壁の尖った場所にでもひっかけたのね」

 正直この服以外は着替えがない。

「後で何かつくろってあげるわ」
「ハクの事だから、きっと裁縫さいほうや針仕事も完璧なんだろうな」

 この優しいお姉さんのような男性は、なぜボクのことをこんなに気にかけてくれるんだろうか。

「下心のないニンゲンなんていないのよー
 お前だってそうだろう」

 壁から上半身だけを覗かせるようにしているエリィが言う。
 確かにそうかもしれない。
 ボクだってやましいことのない人間じゃない。
 でも――

「ボクは、ハクを信じてるからね
 そうして、壁と土に埋まって、世界のいしずえにでもなってるがいいさ」

 言い返してやると、しばらくエリィは黙っていた。

 暗い坑道の中を前に進むだけだった。
 一本道にほぼ間違いないこのダンジョンは、途中に宝箱があるわけでもなく、トラップと呼べるような危険なものもなかった。
 魔物、と言っていいのか天井からぶら下がるコウモリや足元をうごめくムシたちは流石に少し、その大きさに戸惑ったけど、こちらが手を出さなければ襲い掛かってくることもなかった。

 山一つを通り抜ける分。
 時間にして一時間もかからないほどのダンジョン攻略は、意外なほどスムーズに終わった。
 暗闇の終わりには明るい出口が待っていた。

「ほら、お日様だよ」
 
 それまで頼りにしていた松明の明かりが急にしおらしくなるほど、太陽の光に再会できたボクらは目を細めた。

「うんうん。
 黒熊まであと少しなのだ」

 アニーが松明のすすで汚れた鼻先をこすって、ボクの手を引いた。
 目的地は目の前に見えた。

「あそこに『クロクマ』が……」

「そう、ワシらの集まる仕事場で、帰ってくる宿なのだ」
「おぅ、前にも言ったが、オヤジの作る飯を食わねぇとな」
「もー、おなかぺこぺこだよー」

 キャラウッド地方の山岳地帯から人の多く住まう平原地帯をつなぐダンジョンはあっけなく終わり、ここからさきは光景が一気に変わる。

「お前が異世界に文字通り投げ込まれて、出会ったこれまでを、「始まり」とするならば、これからが物語の本番だ」

 ダンジョンを背にして、人里へと進んでいくボクら。

「イツキ・アメミツ。
 お前たちがここからどんな舞台を見せてくれるのか――
 楽しみだね」

 ボクたち5人が向かう先へと、エリィが目を細めていた。

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