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ハレの日売ります 前編
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「まいったなぁ~……
どうしようかなぁ~……」
居酒屋で生ビールのグラスを片手に、マサヒロは唸った。
それを見ていた同僚が彼に問う。
「どうしたんだよ。なにか悩みごとか?」
「そうか、アンドウはまだオレの『アレ』を知らないんだっけか……」
アンドウと言われた同僚は、怪訝な顔をしてマサヒロに再度、疑問をぶつけた。
「あれだろ、週末はオマエ、この前マッチングアプリで知り合った女の子と初デートだって言ってたじゃないか。それなのによぉ、そんな浮かない顔して……
なにがあったんだ?」
ジョッキの中身を半分ほど、胃に流し込み、口火を切った。
「実は俺、雨男なんだよ……」
そう、彼は自他共に認める雨男であった。
彼の遍歴には目を見張るものがあった。
小中高大学と、入学式も、卒業式も、運動会も、文化祭も、学園祭も、いわゆるイベントモノには必ずと言っていいほど雨が降った。
「そんなこんなで、こんどのデートもきっと雨が降るんだよ。
そんで、そのあとどんなにフォロー入れてもLINEの既読はつかない。
フフ、そう、今までもそうだったよ……」
自嘲を含んだもの言い。
その重みがマサヒロの運命を裏付ける様に、彼の影となって表われていた。
「あー、確かに、雨ばっかりじゃデートも嫌になるわなぁ。それじゃあ、こういうの知ってるか?」
ムシャリ、と焼き鳥を食みながらアンドウは言った。
「なんでも、『晴れの日』を買えるらしいぜ?」
「なんだそれ?」
「いやいや、まじめな話だよ。どういう原理かは知らないけど、いついつの日を晴れにしてくれ。そう頼むと実際にその日、どんなに天気予報が雨でも、カラッとお日さまを出してくれるそうだ。オレもSNSでみた情報だから、詳しいことは分からんけどな」
「フーン、晴れの日を買うって……」
その夜、帰り道にふらりと裏通りを通ると、タダでさえ狭い路地に、何者かが立っていた。
その人は雨が降っているわけでもないのにビニール製のレインコートを頭からかぶり、少しうつむき加減だったために顔も見えない。
「なんだ……?
変な人には関わらないほうがイイカ」
口中に言葉をとどめ、スッとわきを通ろうとすると、声が聞こえる。
いや、それはただの声ではなく、涙を流しながら自分を押し殺そうとしている嗚咽の声だった。
――!?
いきなりのことにマサヒロは思わず、レインコートのほうを見てしまった。暗がりの中でも。よくよく見れば、その人は女性。それも少女と言った方がしっくりと来るであろう年齢を印象強くさせた。
「……あ、いらっしゃいませ」
目があった。その次の瞬間には、泣きはらした目をマサヒロにむけ、言葉を掛ける少女。
「あ、あぁ……」
思わず返事をしてしまったが、マサヒロは返答に困った。
「いらっしゃいって、なにも売るようなものは持ってるようには見えないし。
まさか、何かの呼び込みか?
アレなお店とか?
いまのところそういうのは……」
レインコートの少女は、グシグシと鼻をすすり答えた。
「『ハレの日』売ります……」
……?
イマナンテイッタ?
しばし、アルコールによって緩慢な動きしか出来ない思考回路が止まった。
アレか?
アンドウの言ってた、アレなのか?
「しかし、晴れの日を売るっていったって……」
「ほんとです。今日もいい天気だったでしょう?
他のお客さんに、アタシが売ったんです」
「いや、そんなアヤシイ話……」
「お代は、後日で結構です。お客さんの好きな日に、雨が降らないようにさせて見せます。いつがいいですか?」
「いや、いつって言われても……
まぁ、ほんとに出来るんなら今度の土曜。やって見てくれよ」
まいど……あり……
深々と頭を下げられ、マサヒロは路地を後にする。
「まさか……な……」
結果からいうと、土曜日は晴れた。
天気予報は80%の確率で雨が降ると予報されていたのに、だ。
ちなみに予断ではあるが、「降水確率」というものは、降る雨の量や時間には関係なく、過去のデータをもとにして算出される、雨の降る確率のことだ。
それがどんなに大雨だろうと小さな雨粒だろうと。
土曜の夜、マサヒロは女性との食事を終えた足で、あの路地裏に急いだ。
そこには先日と同じく道端で俯いたままのレインコートの少女がいた。
「今日はありがとう!
おかげで楽しい一日を過ごすことが出来たよ」
少女はマサヒロのほうへ顔を向ける。彼女は相変わらず、ぐしぐしと涙を流しているようあった。
「それはよかったですね。お代は……」
言われるままに紙幣を二枚、少女へ手渡しながら問う。
「あの……さ、なんで、涙を?
花粉症?
それとも、なにか悲しいことがあった?」
目元の涙を拭い、赤い目でマサヒロを視認すると少女は答えた。
「私が、空に代わって雨を降らせているんです」、
「あー……
雨の代わりに涙を、ってこと?」
口を開かずに頷くのみ。
――ヤバイ?
これってイタイ人?
えーっと……
えーっと…………
動揺を隠せないままマサヒロは語尾を濁す。
「そっか、そうだね。アリガトね!」
どうしようかなぁ~……」
居酒屋で生ビールのグラスを片手に、マサヒロは唸った。
それを見ていた同僚が彼に問う。
「どうしたんだよ。なにか悩みごとか?」
「そうか、アンドウはまだオレの『アレ』を知らないんだっけか……」
アンドウと言われた同僚は、怪訝な顔をしてマサヒロに再度、疑問をぶつけた。
「あれだろ、週末はオマエ、この前マッチングアプリで知り合った女の子と初デートだって言ってたじゃないか。それなのによぉ、そんな浮かない顔して……
なにがあったんだ?」
ジョッキの中身を半分ほど、胃に流し込み、口火を切った。
「実は俺、雨男なんだよ……」
そう、彼は自他共に認める雨男であった。
彼の遍歴には目を見張るものがあった。
小中高大学と、入学式も、卒業式も、運動会も、文化祭も、学園祭も、いわゆるイベントモノには必ずと言っていいほど雨が降った。
「そんなこんなで、こんどのデートもきっと雨が降るんだよ。
そんで、そのあとどんなにフォロー入れてもLINEの既読はつかない。
フフ、そう、今までもそうだったよ……」
自嘲を含んだもの言い。
その重みがマサヒロの運命を裏付ける様に、彼の影となって表われていた。
「あー、確かに、雨ばっかりじゃデートも嫌になるわなぁ。それじゃあ、こういうの知ってるか?」
ムシャリ、と焼き鳥を食みながらアンドウは言った。
「なんでも、『晴れの日』を買えるらしいぜ?」
「なんだそれ?」
「いやいや、まじめな話だよ。どういう原理かは知らないけど、いついつの日を晴れにしてくれ。そう頼むと実際にその日、どんなに天気予報が雨でも、カラッとお日さまを出してくれるそうだ。オレもSNSでみた情報だから、詳しいことは分からんけどな」
「フーン、晴れの日を買うって……」
その夜、帰り道にふらりと裏通りを通ると、タダでさえ狭い路地に、何者かが立っていた。
その人は雨が降っているわけでもないのにビニール製のレインコートを頭からかぶり、少しうつむき加減だったために顔も見えない。
「なんだ……?
変な人には関わらないほうがイイカ」
口中に言葉をとどめ、スッとわきを通ろうとすると、声が聞こえる。
いや、それはただの声ではなく、涙を流しながら自分を押し殺そうとしている嗚咽の声だった。
――!?
いきなりのことにマサヒロは思わず、レインコートのほうを見てしまった。暗がりの中でも。よくよく見れば、その人は女性。それも少女と言った方がしっくりと来るであろう年齢を印象強くさせた。
「……あ、いらっしゃいませ」
目があった。その次の瞬間には、泣きはらした目をマサヒロにむけ、言葉を掛ける少女。
「あ、あぁ……」
思わず返事をしてしまったが、マサヒロは返答に困った。
「いらっしゃいって、なにも売るようなものは持ってるようには見えないし。
まさか、何かの呼び込みか?
アレなお店とか?
いまのところそういうのは……」
レインコートの少女は、グシグシと鼻をすすり答えた。
「『ハレの日』売ります……」
……?
イマナンテイッタ?
しばし、アルコールによって緩慢な動きしか出来ない思考回路が止まった。
アレか?
アンドウの言ってた、アレなのか?
「しかし、晴れの日を売るっていったって……」
「ほんとです。今日もいい天気だったでしょう?
他のお客さんに、アタシが売ったんです」
「いや、そんなアヤシイ話……」
「お代は、後日で結構です。お客さんの好きな日に、雨が降らないようにさせて見せます。いつがいいですか?」
「いや、いつって言われても……
まぁ、ほんとに出来るんなら今度の土曜。やって見てくれよ」
まいど……あり……
深々と頭を下げられ、マサヒロは路地を後にする。
「まさか……な……」
結果からいうと、土曜日は晴れた。
天気予報は80%の確率で雨が降ると予報されていたのに、だ。
ちなみに予断ではあるが、「降水確率」というものは、降る雨の量や時間には関係なく、過去のデータをもとにして算出される、雨の降る確率のことだ。
それがどんなに大雨だろうと小さな雨粒だろうと。
土曜の夜、マサヒロは女性との食事を終えた足で、あの路地裏に急いだ。
そこには先日と同じく道端で俯いたままのレインコートの少女がいた。
「今日はありがとう!
おかげで楽しい一日を過ごすことが出来たよ」
少女はマサヒロのほうへ顔を向ける。彼女は相変わらず、ぐしぐしと涙を流しているようあった。
「それはよかったですね。お代は……」
言われるままに紙幣を二枚、少女へ手渡しながら問う。
「あの……さ、なんで、涙を?
花粉症?
それとも、なにか悲しいことがあった?」
目元の涙を拭い、赤い目でマサヒロを視認すると少女は答えた。
「私が、空に代わって雨を降らせているんです」、
「あー……
雨の代わりに涙を、ってこと?」
口を開かずに頷くのみ。
――ヤバイ?
これってイタイ人?
えーっと……
えーっと…………
動揺を隠せないままマサヒロは語尾を濁す。
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