『ハレの日』売ります

花山オリヴィエ

文字の大きさ
1 / 2

ハレの日売ります 前編

しおりを挟む
「まいったなぁ~……
 どうしようかなぁ~……」

 居酒屋で生ビールのグラスを片手に、マサヒロは唸った。
 それを見ていた同僚が彼に問う。

「どうしたんだよ。なにか悩みごとか?」
「そうか、アンドウはまだオレの『アレ』を知らないんだっけか……」

 アンドウと言われた同僚は、怪訝な顔をしてマサヒロに再度、疑問をぶつけた。

「あれだろ、週末はオマエ、この前マッチングアプリで知り合った女の子と初デートだって言ってたじゃないか。それなのによぉ、そんな浮かない顔して……
 なにがあったんだ?」

 ジョッキの中身を半分ほど、胃に流し込み、口火を切った。

「実は俺、雨男なんだよ……」

 そう、彼は自他共に認める雨男であった。
 彼の遍歴には目を見張るものがあった。
 小中高大学と、入学式も、卒業式も、運動会も、文化祭も、学園祭も、いわゆるイベントモノには必ずと言っていいほど雨が降った。

「そんなこんなで、こんどのデートもきっと雨が降るんだよ。
 そんで、そのあとどんなにフォロー入れてもLINEの既読はつかない。
 フフ、そう、今までもそうだったよ……」

 自嘲を含んだもの言い。
 その重みがマサヒロの運命を裏付ける様に、彼の影となって表われていた。

「あー、確かに、雨ばっかりじゃデートも嫌になるわなぁ。それじゃあ、こういうの知ってるか?」

 ムシャリ、と焼き鳥を食みながらアンドウは言った。

「なんでも、『晴れの日』を買えるらしいぜ?」
「なんだそれ?」
「いやいや、まじめな話だよ。どういう原理かは知らないけど、いついつの日を晴れにしてくれ。そう頼むと実際にその日、どんなに天気予報が雨でも、カラッとお日さまを出してくれるそうだ。オレもSNSでみた情報だから、詳しいことは分からんけどな」
「フーン、晴れの日を買うって……」

 その夜、帰り道にふらりと裏通りを通ると、タダでさえ狭い路地に、何者かが立っていた。
 その人は雨が降っているわけでもないのにビニール製のレインコートを頭からかぶり、少しうつむき加減だったために顔も見えない。

「なんだ……?
 変な人には関わらないほうがイイカ」

 口中に言葉をとどめ、スッとわきを通ろうとすると、声が聞こえる。
 いや、それはただの声ではなく、涙を流しながら自分を押し殺そうとしている嗚咽の声だった。

 ――!?

 いきなりのことにマサヒロは思わず、レインコートのほうを見てしまった。暗がりの中でも。よくよく見れば、その人は女性。それも少女と言った方がしっくりと来るであろう年齢を印象強くさせた。

「……あ、いらっしゃいませ」

 目があった。その次の瞬間には、泣きはらした目をマサヒロにむけ、言葉を掛ける少女。

「あ、あぁ……」

 思わず返事をしてしまったが、マサヒロは返答に困った。

「いらっしゃいって、なにも売るようなものは持ってるようには見えないし。
 まさか、何かの呼び込みか?
 アレなお店とか?
 いまのところそういうのは……」

 レインコートの少女は、グシグシと鼻をすすり答えた。

「『ハレの日』売ります……」

 ……?
 イマナンテイッタ?

 しばし、アルコールによって緩慢な動きしか出来ない思考回路が止まった。

 アレか? 
 アンドウの言ってた、アレなのか?

「しかし、晴れの日を売るっていったって……」
「ほんとです。今日もいい天気だったでしょう?
 他のお客さんに、アタシが売ったんです」
「いや、そんなアヤシイ話……」
「お代は、後日で結構です。お客さんの好きな日に、雨が降らないようにさせて見せます。いつがいいですか?」
「いや、いつって言われても……
 まぁ、ほんとに出来るんなら今度の土曜。やって見てくれよ」

 まいど……あり……

 深々と頭を下げられ、マサヒロは路地を後にする。

「まさか……な……」



 結果からいうと、土曜日は晴れた。
 天気予報は80%の確率で雨が降ると予報されていたのに、だ。
 ちなみに予断ではあるが、「降水確率」というものは、降る雨の量や時間には関係なく、過去のデータをもとにして算出される、雨の降る確率のことだ。
 それがどんなに大雨だろうと小さな雨粒だろうと。

 土曜の夜、マサヒロは女性との食事を終えた足で、あの路地裏に急いだ。
 そこには先日と同じく道端で俯いたままのレインコートの少女がいた。

「今日はありがとう!
 おかげで楽しい一日を過ごすことが出来たよ」

 少女はマサヒロのほうへ顔を向ける。彼女は相変わらず、ぐしぐしと涙を流しているようあった。

「それはよかったですね。お代は……」

 言われるままに紙幣を二枚、少女へ手渡しながら問う。

「あの……さ、なんで、涙を?
 花粉症? 
 それとも、なにか悲しいことがあった?」

 目元の涙を拭い、赤い目でマサヒロを視認すると少女は答えた。

「私が、空に代わって雨を降らせているんです」、
「あー……
 雨の代わりに涙を、ってこと?」

 口を開かずに頷くのみ。

 ――ヤバイ?
 これってイタイ人?
 えーっと……
 えーっと…………

 動揺を隠せないままマサヒロは語尾を濁す。

「そっか、そうだね。アリガトね!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...