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ユキシロが膳の説明を終え、話を繋げようとすると、部長がぼそりと呟く。
「江戸の人は、白米を何よりの御馳走と考えていたからなのさ」
これにユキシロが補足を入れる。
「そう、白米を上等とし、おかずは質素。んだもんで、江戸では脚気やらの栄養素の不足に伴う病気が後を絶たなかったそうだ」
ホホーン、と説明を聞いているワキミズを横に、エミィはガッツリと飯を口に運んでいた。
「!……美味しい!
美味しいですよ、ワキミズさん!」
そのあまりの喰いっぷりに、ワキミズも生唾を飲み込む。そして、椀に盛られた白飯に箸をつけ、かっ込む!
「ん~~~~、ンマイ!」
朝早くから労働をし、空腹の絶頂にあった青少年の鼻を、舌を、胃袋を、炊きたての飯が大いに刺激する。
米を口に含むと、最初は舌にも歯にも抵抗を感じる弾力を感じさせるが、後に口中でハラリと崩れ、噛みしめるたびに米本来のうまみが口いっぱいに広がる。そこに、さっぱりとした質素な味噌汁の塩分が滑り込み、甘味を引き立たせる。
――ふぅ。
思わずワキミズの口からため息がこぼれる。
「どうよ?
これが日本の米の旨さよ」
ズズと味噌汁を啜りながら問うツクモ。
「んだねぇ。米を炊くのは手間がかかったろう?
そう言う手間暇をかけてこそ、本当の旨さってものを味わうことができるのさ」
説明もひとしきり終わり、ユキシロもいつの間にか己の膳に箸をつけていた。
「んで、エミィはどうよ。お口に合ったかい?」
飯粒を鼻の頭につけながら、快活な答えが返ってくる。
「ハイ! ライスがこんなに美味しいなんて、信じられなかったですよ。それにコレ!
この香ばしい所が特に気に入りました!」
「ほほ~ぅ、アレの旨さが分かるなんて……
中々に通だねぇ」
ワキミズは首を傾げる。
「アレッてなんですか?」
「アレってぇのは、コレのことさ」
ツクモが橋でつまんで見せたのは、茶色の物体。
「オコゲのことさ。マキやらワラで飯を炊くと、どうしても火加減やら、お釜についたキズの具合からそういう部分が出来るのさ。まぁ、軽いもんならエミィの言うように香ばしくて旨いもんよ。せんべいの類を旨いと思えるならオコゲも美味しいわけよ」
「へぇ~」
これにはワキミズだけではなく、メィリオも感嘆の意を表した。そしてツクモは続ける。
「まぁ付け足すとだ。今の電気炊飯器の類では、そうそう出来るモンでもないから知らなくても仕方は無いかね」
隣にすわる少女の椀に、視線を落したままの少年に言葉を添える。
「ホレホレ、ゆっくりしてると授業に遅れるぜい」
この言葉に、一同はワチャワチャと食事を終え、洗い物を済ませる。
「しっかし、美味かったですねぇ」
「ダロウ?」
「毎日こんな旨い飯が食えるんなら……」
「入部した甲斐があったってか?」
「いや……」
「まぁ、これから毎朝の飯炊きは、お前ら一年の仕事だしな♪」
「えぇ~~……」
ツクモのオチャラけた通告に、ワキミズの不満の声は通らなかった。
「そんなこと言ってさ~。
毎朝、五時前には起きろってんだよ?
ヒドいと思わない?」
「あー、確かに動画とか観てると尚更、起きられないもんねぇ」
「いや……Wi-Fiもないんだ……」
「……」
気まずい沈黙が、他の生徒の喧騒にかき消される。
時刻は昼休み。今朝の騒ぎを友人一号のマツダ君に愚痴っているのはサムライ部の新入り、ゲンノウワキミズ15歳であった。
「電波が届かないって……マジ?」
「マジマジ」
「PCとかは?」
「回線自体がないんだな、これが」
「うわぁ、それはツライねぇ……」
「だろ?」
二人は一方の不幸を口にしながら、購買で買ってきたおにぎりを口にする。
「……」
「ん? どうかしましたか。
ワキミズ氏、梅干しは苦手だった?」
おにぎりを一口かじり、口をつぐんでしまったワキミズに、友人マツダが問う。
「いや、ウメボシが苦手ってわけじゃなくて、なんだろ……米がマズイって言うか……」
「そうかな? 別にフツーのご飯だと思うけど?」
舌に残る水分の多い米、味のぼやけたその飯。
「そうか――」
そう、今朝口にした、「極上の飯」に比べ、大量生産、効率を優先させたこのおにぎりはあまりにもお粗末すぎたのだ。
「こりゃあ、しばらくコンビニおにぎりは食えないなぁ……」
「江戸の人は、白米を何よりの御馳走と考えていたからなのさ」
これにユキシロが補足を入れる。
「そう、白米を上等とし、おかずは質素。んだもんで、江戸では脚気やらの栄養素の不足に伴う病気が後を絶たなかったそうだ」
ホホーン、と説明を聞いているワキミズを横に、エミィはガッツリと飯を口に運んでいた。
「!……美味しい!
美味しいですよ、ワキミズさん!」
そのあまりの喰いっぷりに、ワキミズも生唾を飲み込む。そして、椀に盛られた白飯に箸をつけ、かっ込む!
「ん~~~~、ンマイ!」
朝早くから労働をし、空腹の絶頂にあった青少年の鼻を、舌を、胃袋を、炊きたての飯が大いに刺激する。
米を口に含むと、最初は舌にも歯にも抵抗を感じる弾力を感じさせるが、後に口中でハラリと崩れ、噛みしめるたびに米本来のうまみが口いっぱいに広がる。そこに、さっぱりとした質素な味噌汁の塩分が滑り込み、甘味を引き立たせる。
――ふぅ。
思わずワキミズの口からため息がこぼれる。
「どうよ?
これが日本の米の旨さよ」
ズズと味噌汁を啜りながら問うツクモ。
「んだねぇ。米を炊くのは手間がかかったろう?
そう言う手間暇をかけてこそ、本当の旨さってものを味わうことができるのさ」
説明もひとしきり終わり、ユキシロもいつの間にか己の膳に箸をつけていた。
「んで、エミィはどうよ。お口に合ったかい?」
飯粒を鼻の頭につけながら、快活な答えが返ってくる。
「ハイ! ライスがこんなに美味しいなんて、信じられなかったですよ。それにコレ!
この香ばしい所が特に気に入りました!」
「ほほ~ぅ、アレの旨さが分かるなんて……
中々に通だねぇ」
ワキミズは首を傾げる。
「アレッてなんですか?」
「アレってぇのは、コレのことさ」
ツクモが橋でつまんで見せたのは、茶色の物体。
「オコゲのことさ。マキやらワラで飯を炊くと、どうしても火加減やら、お釜についたキズの具合からそういう部分が出来るのさ。まぁ、軽いもんならエミィの言うように香ばしくて旨いもんよ。せんべいの類を旨いと思えるならオコゲも美味しいわけよ」
「へぇ~」
これにはワキミズだけではなく、メィリオも感嘆の意を表した。そしてツクモは続ける。
「まぁ付け足すとだ。今の電気炊飯器の類では、そうそう出来るモンでもないから知らなくても仕方は無いかね」
隣にすわる少女の椀に、視線を落したままの少年に言葉を添える。
「ホレホレ、ゆっくりしてると授業に遅れるぜい」
この言葉に、一同はワチャワチャと食事を終え、洗い物を済ませる。
「しっかし、美味かったですねぇ」
「ダロウ?」
「毎日こんな旨い飯が食えるんなら……」
「入部した甲斐があったってか?」
「いや……」
「まぁ、これから毎朝の飯炊きは、お前ら一年の仕事だしな♪」
「えぇ~~……」
ツクモのオチャラけた通告に、ワキミズの不満の声は通らなかった。
「そんなこと言ってさ~。
毎朝、五時前には起きろってんだよ?
ヒドいと思わない?」
「あー、確かに動画とか観てると尚更、起きられないもんねぇ」
「いや……Wi-Fiもないんだ……」
「……」
気まずい沈黙が、他の生徒の喧騒にかき消される。
時刻は昼休み。今朝の騒ぎを友人一号のマツダ君に愚痴っているのはサムライ部の新入り、ゲンノウワキミズ15歳であった。
「電波が届かないって……マジ?」
「マジマジ」
「PCとかは?」
「回線自体がないんだな、これが」
「うわぁ、それはツライねぇ……」
「だろ?」
二人は一方の不幸を口にしながら、購買で買ってきたおにぎりを口にする。
「……」
「ん? どうかしましたか。
ワキミズ氏、梅干しは苦手だった?」
おにぎりを一口かじり、口をつぐんでしまったワキミズに、友人マツダが問う。
「いや、ウメボシが苦手ってわけじゃなくて、なんだろ……米がマズイって言うか……」
「そうかな? 別にフツーのご飯だと思うけど?」
舌に残る水分の多い米、味のぼやけたその飯。
「そうか――」
そう、今朝口にした、「極上の飯」に比べ、大量生産、効率を優先させたこのおにぎりはあまりにもお粗末すぎたのだ。
「こりゃあ、しばらくコンビニおにぎりは食えないなぁ……」
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