柳兎学園・江戸文化作法研究会 ~サムライ部での青春のワンシーン~

花山オリヴィエ

文字の大きさ
15 / 54

15/54

しおりを挟む
 ユキシロが膳の説明を終え、話を繋げようとすると、部長がぼそりと呟く。

「江戸の人は、白米を何よりの御馳走と考えていたからなのさ」

 これにユキシロが補足を入れる。

「そう、白米を上等とし、おかずは質素。んだもんで、江戸では脚気やらの栄養素の不足に伴う病気が後を絶たなかったそうだ」

 ホホーン、と説明を聞いているワキミズを横に、エミィはガッツリと飯を口に運んでいた。

「!……美味しい!
 美味しいですよ、ワキミズさん!」

 そのあまりの喰いっぷりに、ワキミズも生唾を飲み込む。そして、椀に盛られた白飯に箸をつけ、かっ込む!

「ん~~~~、ンマイ!」

 朝早くから労働をし、空腹の絶頂にあった青少年の鼻を、舌を、胃袋を、炊きたての飯が大いに刺激する。
 米を口に含むと、最初は舌にも歯にも抵抗を感じる弾力を感じさせるが、後に口中でハラリと崩れ、噛みしめるたびに米本来のうまみが口いっぱいに広がる。そこに、さっぱりとした質素な味噌汁の塩分が滑り込み、甘味を引き立たせる。

 ――ふぅ。

 思わずワキミズの口からため息がこぼれる。

「どうよ?
 これが日本の米の旨さよ」

 ズズと味噌汁を啜りながら問うツクモ。

「んだねぇ。米を炊くのは手間がかかったろう?
 そう言う手間暇をかけてこそ、本当の旨さってものを味わうことができるのさ」

 説明もひとしきり終わり、ユキシロもいつの間にか己の膳に箸をつけていた。

「んで、エミィはどうよ。お口に合ったかい?」

 飯粒を鼻の頭につけながら、快活な答えが返ってくる。

「ハイ! ライスがこんなに美味しいなんて、信じられなかったですよ。それにコレ!
 この香ばしい所が特に気に入りました!」

「ほほ~ぅ、アレの旨さが分かるなんて……
 中々に通だねぇ」

 ワキミズは首を傾げる。

「アレッてなんですか?」
「アレってぇのは、コレのことさ」

 ツクモが橋でつまんで見せたのは、茶色の物体。

「オコゲのことさ。マキやらワラで飯を炊くと、どうしても火加減やら、お釜についたキズの具合からそういう部分が出来るのさ。まぁ、軽いもんならエミィの言うように香ばしくて旨いもんよ。せんべいの類を旨いと思えるならオコゲも美味しいわけよ」
「へぇ~」

 これにはワキミズだけではなく、メィリオも感嘆の意を表した。そしてツクモは続ける。

「まぁ付け足すとだ。今の電気炊飯器の類では、そうそう出来るモンでもないから知らなくても仕方は無いかね」

 隣にすわる少女の椀に、視線を落したままの少年に言葉を添える。

「ホレホレ、ゆっくりしてると授業に遅れるぜい」

 この言葉に、一同はワチャワチャと食事を終え、洗い物を済ませる。

「しっかし、美味かったですねぇ」
「ダロウ?」
「毎日こんな旨い飯が食えるんなら……」
「入部した甲斐があったってか?」
「いや……」
「まぁ、これから毎朝の飯炊きは、お前ら一年の仕事だしな♪」
「えぇ~~……」 

 ツクモのオチャラけた通告に、ワキミズの不満の声は通らなかった。

「そんなこと言ってさ~。
 毎朝、五時前には起きろってんだよ?
 ヒドいと思わない?」
「あー、確かに動画とか観てると尚更、起きられないもんねぇ」
「いや……Wi-Fiもないんだ……」
「……」

 気まずい沈黙が、他の生徒の喧騒にかき消される。
 時刻は昼休み。今朝の騒ぎを友人一号のマツダ君に愚痴っているのはサムライ部の新入り、ゲンノウワキミズ15歳であった。

「電波が届かないって……マジ?」
「マジマジ」
「PCとかは?」
「回線自体がないんだな、これが」
「うわぁ、それはツライねぇ……」
「だろ?」

 二人は一方の不幸を口にしながら、購買で買ってきたおにぎりを口にする。

「……」
「ん? どうかしましたか。
 ワキミズ氏、梅干しは苦手だった?」

 おにぎりを一口かじり、口をつぐんでしまったワキミズに、友人マツダが問う。

「いや、ウメボシが苦手ってわけじゃなくて、なんだろ……米がマズイって言うか……」
「そうかな? 別にフツーのご飯だと思うけど?」

 舌に残る水分の多い米、味のぼやけたその飯。

「そうか――」

 そう、今朝口にした、「極上の飯」に比べ、大量生産、効率を優先させたこのおにぎりはあまりにもお粗末すぎたのだ。

「こりゃあ、しばらくコンビニおにぎりは食えないなぁ……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら

普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。 そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...