柳兎学園・江戸文化作法研究会 ~サムライ部での青春のワンシーン~

花山オリヴィエ

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 その日の放課後、ユキシロ曰く、徒手空拳の武術、更にその基礎の基礎。修練を始めていた。
「ほーら、ツライだろー。足腰の鍛錬だよー。ガンバレー」

 明らかに、生物的に無理を強いるその体勢に、早くもワキミズは悲鳴を上げていた。

「センパイ! ムリッス!!
 むりですよッッ!」
「ほーら、イイカライイカラー。んじゃ、エミィ。立ち方の説明をしてみなさいな」
「えーっと、まずは両足を肩幅より、少し広く取って…… 腰を落として、でも胸を張り、背中に一本、鉄の棒が通ったような上半身を維持する……でしたっけ?」

 この格好が地味にツライ。

「ハイ、セイカーイ。先ずは初歩の初歩、徹底的にその足腰をイジメぬいてやるよー」

 ニッと一笑。更にその怪しく光る眼はヒィヒィと喚いているワキミズに向けられる。

「んじゃあ、そこでつらそうにしているワキミズ君。『拳』を作ってみなさいな。いわゆる、ゲンコツよ」

 普段の生活では決して行うことのないような、身体に負荷を掛けるこの体勢を要求され、ただでさえ思考がまとまらないときに、意味も分からずグーを作るワキミズ15歳。

「えーっと……こ、こうですか?」

 グイと前方に手を伸ばし、先輩に合否を問う。

「ウン、バッチリマチガーイ。それじゃ、オマケ♪」

 ユキシロはググッとワキミズの肩に力を込めて押し下げる。これにより更に足に負荷がかかり、声にならない悲鳴が聞こえる。

 ~~~~~~ッッ。

「んじゃ、エミィ。アンタならどうだい?」
「そうですね。まずは小指から順に手の中に折り込み、親指は人差し指と中指に軽く添える形です」

 ――フンフン。

「当てる部分はその、親指を添えた二本の指の付け根、私たちの言葉で言うところの『ナックル』の部分です」
「オッシ、正解」
「さ、流石です。お嬢様」

 なぜか、そしてやっぱり、この人まで練習に参加させられている、かわいそうな人メィリオ。彼も彼なりにやっているのだろうが、プルプルと震える様は生まれたての鹿の子供のようで実に間抜けに見える。

 ――なんでそんなこと知ってるんだ?

 ワキミズの働かない脳にも疑問が浮かぶが、すぐに次の行動によって上書きされてゆく。

「んでだ、次はその拳での殴り方だ。オッシ、立ち方やめー」

 なんとか地獄の姿勢から解放された三人ではあるが、口々に不満を漏らす。

「ハァ、ハァ……ック。キッツー……」
「イヤ、なんでワタクシまでこんな……」

 この二人に相反して、エミィは至って平素な顔であった。

「んじゃあ、アタシの格好を真似てみ?」

 それまで4人は屋敷の外、いわゆる庭で修練を行っていたのだが、そこに屋敷の中からツクモがちょっかいを出す。

「おーおー、やっとるのぅ。ユキシロ、飽きたら代わってやんよ」
「ウールセィ。黙って見てろ。んでだ、まずはこう。両の足はこんな感じ。左手は前。そうミゾオチの真っ直ぐ先だな。右手は……そうそう。ウマイな」

 はにかむエミィに対して、ワキミズは相変わらずの様子だった。

「だーかーら、違うって!」
「そんなこと言ったって、出来ないもんは出来ないんですってば!」
「ほら、こうして、こうして、こう!」

 先輩は後輩のそばについて、実際に構えを正す。

「足は少し内側に、膝には余裕を持たせる。拳は握る!」

 ビシビシと指導と共に口も、手も出る。これにはそれまで体育会系のノリとは無縁であったワキミズの心と精神をグジグジと抉っていく。

「そう、それで、突く!」

 ためしに、とやってみたユキシロのその突きは空を切る。

 ――フォンッ!

「おぉ、すごいパンチですね!」

 そう、ただ空を切ったばかりのはずなのに、その拳圧から生まれた音はバットの素振りか、それ以上のモノであった。

「うわぁ、あんなので殴られたら……」

 身震いするはメィリオ。彼の臆病な性格がありありと浮き彫りとなる。

「んじゃ、やってみなサーイ」

 イチッ、ニッ……
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