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「ふんふくふ~ん♪」
本日の朝食の準備はワキミズの番であり、これは当番制で其々が受け持つことになっていた。最近は一から火を起こさずとも前日に使った火を炭に移し、灰の中に埋めることで火種として残す方法も教わり、格段に楽になった。
「最初からこの方法で教えてくれれば楽だったのに……」
飯を炊き、汁物の出汁を鰹節でとる様子は、火の扱いにも慣れ、様になっていた。鼻歌交じりに魚の干物らしきものを火で焙る。
「あ~、イイニオイだ。うん、うまそうだわ~」
えも言われぬ芳香がワキミズの鼻腔をくすぐり、脳に訴えかける。食欲中枢を刺激され自然とよだれが口中に廻りはじめていた。
至福の香りに、半ばトリップし始めていたワキミズに「オゥイ」と声を掛けたのは、ユキシロであった。
「ナニこのニオイ……」
ユキシロにとって干物の香りは、ワキミズとは別な方向で脳に作用したようだ。
「チョット、ナニよコレ。ヒドク臭いんだけど、どういうこと?」
「どうって、これですか?」
ワキミズが金網の上に置いていた魚の干物をべらんと、ユキシロの鼻っ面につきだす。すると向けられた方は思わず後ずさる。
「それ!
それだよ!」
臭気に眉をひそめ、訴えを続ける。
「あんまりにも臭くって、目が覚めたんだよ。
どーいうこと?」
「どうって、『クサヤ』ですけど、ウマイんですよ?」
「いや、マズイとかウマイとかじゃなくて、臭いっての!
アレだろ?
クサヤってトビウオなんかの魚をクサーイ漬け汁につけた、干物っていう……
とにかく禁止!
鼻の敏感なツクモなんて、自分の部屋で悶絶しとるぞ?」
「いやー、ホント、美味いんですけどね……」
こうして、その日一日、サムライ部の屋敷からはクサヤの匂いがとれず、以降、禁止されることになった。
「それから、アンタの飲んでるお茶。あれもクサイから禁止」
「え~……ハイ……」
自分の五感の内の一つを根底から否定され、しょぼくれるワキミズ。汁物を仕上げようと鍋に味噌を入れ、声を掛けた。
「あ、ユキシロセンパイ、朝食の準備ができましたよ」
「ん、あぁ、んじゃあ、みんなを呼んできなさいな」
「えー、センパイ、ヒマそうですから、どうぞどうぞ」
「なにぃ?
アタシをアゴで使おうなんざ、百年早いわ!」
ユキシロは気迫とげんこつで応酬。ワキミズは頭を押さえながら部員達を呼びに行ったが、戸の影にいたハクには気がつかなかったようだ。
「上出来だ」
「……いや、あんなもんでいいのか?
まぁ、クサイのは本当に、クサかったんだが……」
「あぁ、センセイにも伝えておくさ」
「ふ~ん、そんなもんかねぇ。ま、朝飯にするかね」
そういって、ユキシロはそそくさとお釜からおひつへと飯をうつし始めていた。
……クンクン。
昼休み、屋上で昼食をととろうと、ワキミズ、エミィ、メィリオにツクモがいた。エミィは自分の制服の匂いを執拗に確認していた。
「……メィリオ、どうですか? まだ匂ってはいませんか?」
意見を求められたメィリオも彼女の制服に鼻を近づける。
「だ、大丈夫ですよ、お嬢様」
これに対して、如何にも居心地の悪そうなのは匂いの元を作ってしまったワキミズ。
「ゴメン……どうやらオレが思っていた以上に臭かったらしくて……
で、でも、クサヤって美味しかったでしょう?」
「えぇ、ワキミズさん、それに対しては100点満点をあげます。ニオイはともかく、味は最高でした」
ツクモは未だに涙目のまま訴える。
「まぁ、味がいいのは認めるが、あの匂いは強烈すぎるってもんだろうよ。
おかげで、オレはまだ鼻が本調子じゃないんだからよぅ……」
忍者ゆえに鼻の良い事から今回の異臭騒ぎで一番の被害をこうむったツクモ。彼は更にワキミズを糾弾する。
「しっかし、ニンゲン、一つのことに秀でると、一つ悪いところがあるっていうが、その鼻の悪さに反比例するいいところも無いしなぁ」
ワキミズはハハハと乾いた笑いを浮かべることしかできなかった。
「あら、ツクモセンパイ。ワキミズさんにもすごいところはあるじゃないですか」
「ん? そんなとこ、あったっけ?」
「ほら、思い出してみてください。ワキミズさんと言えば部長さんとの試合で力任せにヒキハダシナイをぽっきりへし折ったり、先日の墓場での怪しいタキシードの女性にも負けず、腕力にものを言わせて、腕を振りほどいたじゃないですか。スゴイですよ」
「そんな……どちらも無我夢中でやったことだから、良く分からないんだけど……」
「まぁ、ワキミズの場合、部活の練習のほかにも自主練、まだ今でもやってるんだろ?
練習量から言えばあながちヘンな話でもないんじゃねぇの?」
「そう、ですかね?
アハ、アハハ」
「そうですよ!
さすが、ワキミズさんです!
力持ちなんですよ」
本日の朝食の準備はワキミズの番であり、これは当番制で其々が受け持つことになっていた。最近は一から火を起こさずとも前日に使った火を炭に移し、灰の中に埋めることで火種として残す方法も教わり、格段に楽になった。
「最初からこの方法で教えてくれれば楽だったのに……」
飯を炊き、汁物の出汁を鰹節でとる様子は、火の扱いにも慣れ、様になっていた。鼻歌交じりに魚の干物らしきものを火で焙る。
「あ~、イイニオイだ。うん、うまそうだわ~」
えも言われぬ芳香がワキミズの鼻腔をくすぐり、脳に訴えかける。食欲中枢を刺激され自然とよだれが口中に廻りはじめていた。
至福の香りに、半ばトリップし始めていたワキミズに「オゥイ」と声を掛けたのは、ユキシロであった。
「ナニこのニオイ……」
ユキシロにとって干物の香りは、ワキミズとは別な方向で脳に作用したようだ。
「チョット、ナニよコレ。ヒドク臭いんだけど、どういうこと?」
「どうって、これですか?」
ワキミズが金網の上に置いていた魚の干物をべらんと、ユキシロの鼻っ面につきだす。すると向けられた方は思わず後ずさる。
「それ!
それだよ!」
臭気に眉をひそめ、訴えを続ける。
「あんまりにも臭くって、目が覚めたんだよ。
どーいうこと?」
「どうって、『クサヤ』ですけど、ウマイんですよ?」
「いや、マズイとかウマイとかじゃなくて、臭いっての!
アレだろ?
クサヤってトビウオなんかの魚をクサーイ漬け汁につけた、干物っていう……
とにかく禁止!
鼻の敏感なツクモなんて、自分の部屋で悶絶しとるぞ?」
「いやー、ホント、美味いんですけどね……」
こうして、その日一日、サムライ部の屋敷からはクサヤの匂いがとれず、以降、禁止されることになった。
「それから、アンタの飲んでるお茶。あれもクサイから禁止」
「え~……ハイ……」
自分の五感の内の一つを根底から否定され、しょぼくれるワキミズ。汁物を仕上げようと鍋に味噌を入れ、声を掛けた。
「あ、ユキシロセンパイ、朝食の準備ができましたよ」
「ん、あぁ、んじゃあ、みんなを呼んできなさいな」
「えー、センパイ、ヒマそうですから、どうぞどうぞ」
「なにぃ?
アタシをアゴで使おうなんざ、百年早いわ!」
ユキシロは気迫とげんこつで応酬。ワキミズは頭を押さえながら部員達を呼びに行ったが、戸の影にいたハクには気がつかなかったようだ。
「上出来だ」
「……いや、あんなもんでいいのか?
まぁ、クサイのは本当に、クサかったんだが……」
「あぁ、センセイにも伝えておくさ」
「ふ~ん、そんなもんかねぇ。ま、朝飯にするかね」
そういって、ユキシロはそそくさとお釜からおひつへと飯をうつし始めていた。
……クンクン。
昼休み、屋上で昼食をととろうと、ワキミズ、エミィ、メィリオにツクモがいた。エミィは自分の制服の匂いを執拗に確認していた。
「……メィリオ、どうですか? まだ匂ってはいませんか?」
意見を求められたメィリオも彼女の制服に鼻を近づける。
「だ、大丈夫ですよ、お嬢様」
これに対して、如何にも居心地の悪そうなのは匂いの元を作ってしまったワキミズ。
「ゴメン……どうやらオレが思っていた以上に臭かったらしくて……
で、でも、クサヤって美味しかったでしょう?」
「えぇ、ワキミズさん、それに対しては100点満点をあげます。ニオイはともかく、味は最高でした」
ツクモは未だに涙目のまま訴える。
「まぁ、味がいいのは認めるが、あの匂いは強烈すぎるってもんだろうよ。
おかげで、オレはまだ鼻が本調子じゃないんだからよぅ……」
忍者ゆえに鼻の良い事から今回の異臭騒ぎで一番の被害をこうむったツクモ。彼は更にワキミズを糾弾する。
「しっかし、ニンゲン、一つのことに秀でると、一つ悪いところがあるっていうが、その鼻の悪さに反比例するいいところも無いしなぁ」
ワキミズはハハハと乾いた笑いを浮かべることしかできなかった。
「あら、ツクモセンパイ。ワキミズさんにもすごいところはあるじゃないですか」
「ん? そんなとこ、あったっけ?」
「ほら、思い出してみてください。ワキミズさんと言えば部長さんとの試合で力任せにヒキハダシナイをぽっきりへし折ったり、先日の墓場での怪しいタキシードの女性にも負けず、腕力にものを言わせて、腕を振りほどいたじゃないですか。スゴイですよ」
「そんな……どちらも無我夢中でやったことだから、良く分からないんだけど……」
「まぁ、ワキミズの場合、部活の練習のほかにも自主練、まだ今でもやってるんだろ?
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