柳兎学園・江戸文化作法研究会 ~サムライ部での青春のワンシーン~

花山オリヴィエ

文字の大きさ
34 / 54

34/54

しおりを挟む
 パチパチと手を叩いて称賛するエミィ。これにワキミズは気を良くしたのか、自分が飲み終えたペットボトルを手に取る。

「――ッフン!」

 ボトルを縦に握り潰そうとコンクリの地面に置き、手を乗せて力を込めるが、炭酸飲料がはいっていたプラスチックは思ったよりも硬く、形を変えることはない。

「フン……ギギギ……」

 今度は両の手で圧力を加える。

「潰れない……?」

 力を誇示して見せようと思い、やってみたことだったが、実に恥ずかしい。

「じゃ、じゃあ、オレ、ユキシロ先輩に呼ばれてたんだった。アハ、アハハ……」

 そそくさとその場を後にした。

「逃げたな」
「逃げましたね」

 ツクモとメィリオの冷静な意見が一致した。


「~ってな事があったんですよ」
「あぁ、そりゃ、『火事場の馬鹿力』ってやつだろ」
「あ、それ、聞いたことあります」

 3年生の教室のある学舎の2階、ワキミズはユキシロに呼ばれ、そこを訪れていた。辺りには上級生しかおらず、またその風体も1年生とは違って見えた。

(こうしてみると、2つしか歳が離れてないのに3年生って大人に見えるんだよなぁ。それに比べてオレはなんでこうも子供っぽいのかなぁ……)

 ワキミズが年齢差に劣等感を抱いていると、そこにユキシロが現れ、先ほどの会話に繋がったのであった。

「人間のチカラってのは元来すごいもんで、その力をフルに使うと肉体が物理的に壊れちまう。
 これを防ぐために制御装置がついてるんだが、いわゆる、本能的な危険に直面した時には、脳の制御装置が外れて本人にも思いもよらない力が引き出される。
 ってぇのが現代科学の通説なんだが……」
「だが?」
「まぁ、そんなこともあるってもんさ。そうそう、話ってのはアレだ、近々、先生とハクから話があるだろう、ってことさ」
「ハァ……でも、なんでユキシロ先輩がそんなことを俺に? むしろ、今この場で済ませられないことなんですか?」
「なにごとも、準備ってもんがあるだろうさ。アンタにも、な。さぁ、アタシも昼飯食うかな」
「ハァ……」

 狐につままれたように、呼び出された意図も分からず、ぼんやりとしたまま話は終わった。

「なんだったんだろう?
 そのうちに分かる事って……
 ま、そのうち、か。
 さぁて、残りの休み時間、屋上でダラダラするかなぁ」

 屋上へ戻る途中、ふと階段の踊り場にある自販機に目がとまった。正確には自販機で売られている飲み物に。

 オーゥ、どうだった?
 イヤ、ベーツニー。

 そんなやり取りを続けていると、ワキミズは手にしたパック入りの飲み物を見せてみる。

「ほら、買ってみましたよ。『青虫も唸るこの苦さ! 100%ゴーヤジュース』です」

 目を輝かせ、自分の買い物に称賛を求めるワキミズ。彼はパコっと外した付属のストローを、銀の差し込み口につき刺し、中身を吸う。

 じるじる……

「ん~、苦みが足りない、かな?」
「どれどれ?
 ヒトクチ、クダサーイ」

 ゴーヤジュースの苦みに対して、物足りなさを訴えるワキミズ。それを一口すすったエミィ。

「なんですかこれ……
 口にするものじゃないですよ!」
「アハハ、ひどいなぁ。ほら、オレ、今朝ユキシロ先輩に言われたんだよ。あのいつも飲んでるお茶、あれをしばらく控えろってさ。んでもやっぱりあの味、あの苦みがほしくって。そんで、これを買ってみたんだけど……」
「満足には至らなかった……と?」

 ――ソウナンデスヨネー……

 傍からこれを見ていたメィリオはツクモに耳打ちをする。

「ワキミズさんて、オハナがオバカなんですか?」
「いや、ハナだけじゃなくて、舌もバカっぽいな」
「そうそう、屋上に来るときにまたマツダが噂話を仕入れたとかで楽しげに話しかけてきたんだよ」
「へぇ、どんな噂ですか?」
「なんでも、駅前の商店街にある喫茶店にイケメンの外国人がアルバイトではいったとかどうとかって話だった」
「へぇ~、それは一度みてみたいデスネー」
 そんなやり取りをしていた最中であった。

 ――バオンッ
 ……バオンッッ
 ……バオオオオォォンッッ

 突如、何かの炸裂するような、地震の様な、はたまた、ケダモノの慟哭の様な音が鳴り響いた。屋上にはワキミズ達のほかにも数名の学生が思い思いの方法で昼休みをくつろいでいたが、その全員、恐らくは校舎の中にいた者たちも、その音で驚いたことであろう。

「な、なんだぁっ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...