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パチパチと手を叩いて称賛するエミィ。これにワキミズは気を良くしたのか、自分が飲み終えたペットボトルを手に取る。
「――ッフン!」
ボトルを縦に握り潰そうとコンクリの地面に置き、手を乗せて力を込めるが、炭酸飲料がはいっていたプラスチックは思ったよりも硬く、形を変えることはない。
「フン……ギギギ……」
今度は両の手で圧力を加える。
「潰れない……?」
力を誇示して見せようと思い、やってみたことだったが、実に恥ずかしい。
「じゃ、じゃあ、オレ、ユキシロ先輩に呼ばれてたんだった。アハ、アハハ……」
そそくさとその場を後にした。
「逃げたな」
「逃げましたね」
ツクモとメィリオの冷静な意見が一致した。
「~ってな事があったんですよ」
「あぁ、そりゃ、『火事場の馬鹿力』ってやつだろ」
「あ、それ、聞いたことあります」
3年生の教室のある学舎の2階、ワキミズはユキシロに呼ばれ、そこを訪れていた。辺りには上級生しかおらず、またその風体も1年生とは違って見えた。
(こうしてみると、2つしか歳が離れてないのに3年生って大人に見えるんだよなぁ。それに比べてオレはなんでこうも子供っぽいのかなぁ……)
ワキミズが年齢差に劣等感を抱いていると、そこにユキシロが現れ、先ほどの会話に繋がったのであった。
「人間のチカラってのは元来すごいもんで、その力をフルに使うと肉体が物理的に壊れちまう。
これを防ぐために制御装置がついてるんだが、いわゆる、本能的な危険に直面した時には、脳の制御装置が外れて本人にも思いもよらない力が引き出される。
ってぇのが現代科学の通説なんだが……」
「だが?」
「まぁ、そんなこともあるってもんさ。そうそう、話ってのはアレだ、近々、先生とハクから話があるだろう、ってことさ」
「ハァ……でも、なんでユキシロ先輩がそんなことを俺に? むしろ、今この場で済ませられないことなんですか?」
「なにごとも、準備ってもんがあるだろうさ。アンタにも、な。さぁ、アタシも昼飯食うかな」
「ハァ……」
狐につままれたように、呼び出された意図も分からず、ぼんやりとしたまま話は終わった。
「なんだったんだろう?
そのうちに分かる事って……
ま、そのうち、か。
さぁて、残りの休み時間、屋上でダラダラするかなぁ」
屋上へ戻る途中、ふと階段の踊り場にある自販機に目がとまった。正確には自販機で売られている飲み物に。
オーゥ、どうだった?
イヤ、ベーツニー。
そんなやり取りを続けていると、ワキミズは手にしたパック入りの飲み物を見せてみる。
「ほら、買ってみましたよ。『青虫も唸るこの苦さ! 100%ゴーヤジュース』です」
目を輝かせ、自分の買い物に称賛を求めるワキミズ。彼はパコっと外した付属のストローを、銀の差し込み口につき刺し、中身を吸う。
じるじる……
「ん~、苦みが足りない、かな?」
「どれどれ?
ヒトクチ、クダサーイ」
ゴーヤジュースの苦みに対して、物足りなさを訴えるワキミズ。それを一口すすったエミィ。
「なんですかこれ……
口にするものじゃないですよ!」
「アハハ、ひどいなぁ。ほら、オレ、今朝ユキシロ先輩に言われたんだよ。あのいつも飲んでるお茶、あれをしばらく控えろってさ。んでもやっぱりあの味、あの苦みがほしくって。そんで、これを買ってみたんだけど……」
「満足には至らなかった……と?」
――ソウナンデスヨネー……
傍からこれを見ていたメィリオはツクモに耳打ちをする。
「ワキミズさんて、オハナがオバカなんですか?」
「いや、ハナだけじゃなくて、舌もバカっぽいな」
「そうそう、屋上に来るときにまたマツダが噂話を仕入れたとかで楽しげに話しかけてきたんだよ」
「へぇ、どんな噂ですか?」
「なんでも、駅前の商店街にある喫茶店にイケメンの外国人がアルバイトではいったとかどうとかって話だった」
「へぇ~、それは一度みてみたいデスネー」
そんなやり取りをしていた最中であった。
――バオンッ
……バオンッッ
……バオオオオォォンッッ
突如、何かの炸裂するような、地震の様な、はたまた、ケダモノの慟哭の様な音が鳴り響いた。屋上にはワキミズ達のほかにも数名の学生が思い思いの方法で昼休みをくつろいでいたが、その全員、恐らくは校舎の中にいた者たちも、その音で驚いたことであろう。
「な、なんだぁっ?」
「――ッフン!」
ボトルを縦に握り潰そうとコンクリの地面に置き、手を乗せて力を込めるが、炭酸飲料がはいっていたプラスチックは思ったよりも硬く、形を変えることはない。
「フン……ギギギ……」
今度は両の手で圧力を加える。
「潰れない……?」
力を誇示して見せようと思い、やってみたことだったが、実に恥ずかしい。
「じゃ、じゃあ、オレ、ユキシロ先輩に呼ばれてたんだった。アハ、アハハ……」
そそくさとその場を後にした。
「逃げたな」
「逃げましたね」
ツクモとメィリオの冷静な意見が一致した。
「~ってな事があったんですよ」
「あぁ、そりゃ、『火事場の馬鹿力』ってやつだろ」
「あ、それ、聞いたことあります」
3年生の教室のある学舎の2階、ワキミズはユキシロに呼ばれ、そこを訪れていた。辺りには上級生しかおらず、またその風体も1年生とは違って見えた。
(こうしてみると、2つしか歳が離れてないのに3年生って大人に見えるんだよなぁ。それに比べてオレはなんでこうも子供っぽいのかなぁ……)
ワキミズが年齢差に劣等感を抱いていると、そこにユキシロが現れ、先ほどの会話に繋がったのであった。
「人間のチカラってのは元来すごいもんで、その力をフルに使うと肉体が物理的に壊れちまう。
これを防ぐために制御装置がついてるんだが、いわゆる、本能的な危険に直面した時には、脳の制御装置が外れて本人にも思いもよらない力が引き出される。
ってぇのが現代科学の通説なんだが……」
「だが?」
「まぁ、そんなこともあるってもんさ。そうそう、話ってのはアレだ、近々、先生とハクから話があるだろう、ってことさ」
「ハァ……でも、なんでユキシロ先輩がそんなことを俺に? むしろ、今この場で済ませられないことなんですか?」
「なにごとも、準備ってもんがあるだろうさ。アンタにも、な。さぁ、アタシも昼飯食うかな」
「ハァ……」
狐につままれたように、呼び出された意図も分からず、ぼんやりとしたまま話は終わった。
「なんだったんだろう?
そのうちに分かる事って……
ま、そのうち、か。
さぁて、残りの休み時間、屋上でダラダラするかなぁ」
屋上へ戻る途中、ふと階段の踊り場にある自販機に目がとまった。正確には自販機で売られている飲み物に。
オーゥ、どうだった?
イヤ、ベーツニー。
そんなやり取りを続けていると、ワキミズは手にしたパック入りの飲み物を見せてみる。
「ほら、買ってみましたよ。『青虫も唸るこの苦さ! 100%ゴーヤジュース』です」
目を輝かせ、自分の買い物に称賛を求めるワキミズ。彼はパコっと外した付属のストローを、銀の差し込み口につき刺し、中身を吸う。
じるじる……
「ん~、苦みが足りない、かな?」
「どれどれ?
ヒトクチ、クダサーイ」
ゴーヤジュースの苦みに対して、物足りなさを訴えるワキミズ。それを一口すすったエミィ。
「なんですかこれ……
口にするものじゃないですよ!」
「アハハ、ひどいなぁ。ほら、オレ、今朝ユキシロ先輩に言われたんだよ。あのいつも飲んでるお茶、あれをしばらく控えろってさ。んでもやっぱりあの味、あの苦みがほしくって。そんで、これを買ってみたんだけど……」
「満足には至らなかった……と?」
――ソウナンデスヨネー……
傍からこれを見ていたメィリオはツクモに耳打ちをする。
「ワキミズさんて、オハナがオバカなんですか?」
「いや、ハナだけじゃなくて、舌もバカっぽいな」
「そうそう、屋上に来るときにまたマツダが噂話を仕入れたとかで楽しげに話しかけてきたんだよ」
「へぇ、どんな噂ですか?」
「なんでも、駅前の商店街にある喫茶店にイケメンの外国人がアルバイトではいったとかどうとかって話だった」
「へぇ~、それは一度みてみたいデスネー」
そんなやり取りをしていた最中であった。
――バオンッ
……バオンッッ
……バオオオオォォンッッ
突如、何かの炸裂するような、地震の様な、はたまた、ケダモノの慟哭の様な音が鳴り響いた。屋上にはワキミズ達のほかにも数名の学生が思い思いの方法で昼休みをくつろいでいたが、その全員、恐らくは校舎の中にいた者たちも、その音で驚いたことであろう。
「な、なんだぁっ?」
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