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男、もとい少年は赤面し、振りかぶった拳をエミィに向けた。
ゴキィッッ
鈍い打撃音が、男の拳が何かに当たったことを告げていた。が、その拳の感触は、少女の柔肌ではなかった。
「イタタ……
なかなか、アニメやマンガの様には……
いかないな」
少年の暴力はエミィに降りかかることなく、その間に割って入ったワキミズの、それも彼の額によって受け止められていた。その頃のエミィと言えば、その場で衿を掴まれていたYシャツだけを抜けがらにし、トンボを切って宙空へと避けていたのだった。空中に逃げた彼女。
その上半身はブラジャー以外に何も身に着けておらず、ワキミズの視線は素早くその一対の桃を捕捉する。そして彼女が着地したのを見届けて、ワキミズは涙を這わせつつライダースーツの少年の腕をキリキリと締め上げていた。
「テメェ……
なんてぇ、握力だ……」
「先ずはボクらのほうが聞きたいんだが、君、何しにこの学園にきたんだ?」
「ん~、なぁに、ちょっとした探し物なんだが……ぬしのほうが熱くてイイナ!」
赤髪の少年は左手にしたエミィのYシャツをワキミズにかぶせ眼隠しとして利用。
これに慌てたワキミズに拳打を浴びせる。右手を握られたままではあったが、片手であってもその拳は確実にワキミズの肉体を穿つ。
「オルァッ!
わっしのボックシングはどうよ!
地獄の拳闘士、ミツク様の拳はアッツィだろうがぁっ!」
言われるがまま、されるがままのワキミズであった。最初の二発をモロにボディに食らい、足元がぐらついていた。ミツクと名乗った少年はそこを見逃すはずもなく、ワキミズに執拗に浴びせられる拳は確実に彼の体を打ち抜いていく。
「このままじゃ……」
ミツクは狼狽したエミィを横目で捉えた。
「まってな。テメェの順番は、この若造の後よ!」
若造と称されたワキミズ、彼にとどめを刺さんと、左手を置きく振りかぶると、先程から掴まれていた右手に激痛が走った。その一瞬、ミツクの動きが止まり、右手と同じく、振りかぶった左手もワキミズによって捕捉された。ギリギリという肉と骨の軋む音。
「あぁーん?
なんだぁ?
まぐれでわっしの拳を止めたのはいいが……
わっしはここも固いのよッ!」
ミツクは両手を封じられたまま、大きくその上体を仰け反らせ、頭を振りかぶる。そして次の瞬間――勢いよく鈍器を振り落とした。
バッカァァアンッッ!
重い、オモイ頭突きであった。
硬いものと硬いもの、いや、形容すればそれはスイカの果実を高い所から落として割った時の音に似ていただろうか。
これを食らい、ワキミズはその場に膝をつき、捉えていたミツクの両手を放してしまう。
「――っくぅ~~……」
「へっへへ……どうでぇ、わっしの頭突き(パチキ)は?
マァ、ボックシングじゃあ、反則だがな――
……ん?」
自分の視界が紅く染まるのを不思議に思ったミツクは思わず左手で目を拭う。それに伴い自分が額から出血していることを認識した。
「な、なんだぁ?
テメェ……額に鉢金でも仕込んでやがったのかァッ」
ワキミズはそれまでの打撃と頭突きの衝撃から片膝をつくが、それ以上にミツクはダメージを受けている。額からは鮮血が流れ出て、頭髪やマフラーと同じく、その顔を赤く染めていく。その血糊はワキミズの額にも付着していたが、その紅い液体の下、前髪の間にキラリと光る突起が隠れていた。
「今です!
ワキミズさん!」
エミィの声に我に帰ったワキミズは、目を見開く。ミツクの重心が崩れていることを感じとり、腕をとって投げにもっていく。
――っりゃああああっっ
ミツクの体は宙に浮き、半ば力任せであったがそのまま校庭に叩きつけられる形となった。
「受け身も取れないなんて……
ワキミズさん!
やりましたね!
ん?
どうしました?
ワキミズさんっ?」
其の体を投げられ、背から地面に叩きつけられたはずのミツク。投げただけのはずのワキミズはそれを追う形でその場に倒れた。
遠目にこれを見ていたユキシロ、その動体視力は一瞬の出来事を見抜いていた。
「ミツクってぇ野郎……
投げられた際に、空中でワキミズの無防備な後頭部に一撃入れてやがったな?」
これを傍観していただけのツクモもやっとのことで校庭に駆けつける。
ミツクが砂埃を払いながら立ち上がると、目の前にはユキシロ、ツクモ、ハクといったサムライ部の先輩がそろっていた。ミツクは鼻をスンスンと動かし、確認した。
「おぉ、ぬしらからは匂いが一段とするなぁ……
まぁ、これだけのやつらに囲まれてるってのは……
チョットなぁ。今回はこの辺にしといてやるさ。
そこでノビてるボーズにも、次は手加減してやらねぇって伝えとけや!」
バイクにまたがり、来た時と同じく爆音を響かせながら去っていく突然の客ミツク。
一同はコレを大人しく見送った。ユキシロは倒れているワキミズに言葉を掛ける。
「よくやった方だな。やっと本性を現し始めたってところか?」
ユキシロに肩を借り、後頭部を押さえながら立ち上がるワキミズ。その言葉の意味するところに心当たりがあったわけではないが、自分の中にたまり始めた、「チカラ」に満更でも無い表情であった。
ゴキィッッ
鈍い打撃音が、男の拳が何かに当たったことを告げていた。が、その拳の感触は、少女の柔肌ではなかった。
「イタタ……
なかなか、アニメやマンガの様には……
いかないな」
少年の暴力はエミィに降りかかることなく、その間に割って入ったワキミズの、それも彼の額によって受け止められていた。その頃のエミィと言えば、その場で衿を掴まれていたYシャツだけを抜けがらにし、トンボを切って宙空へと避けていたのだった。空中に逃げた彼女。
その上半身はブラジャー以外に何も身に着けておらず、ワキミズの視線は素早くその一対の桃を捕捉する。そして彼女が着地したのを見届けて、ワキミズは涙を這わせつつライダースーツの少年の腕をキリキリと締め上げていた。
「テメェ……
なんてぇ、握力だ……」
「先ずはボクらのほうが聞きたいんだが、君、何しにこの学園にきたんだ?」
「ん~、なぁに、ちょっとした探し物なんだが……ぬしのほうが熱くてイイナ!」
赤髪の少年は左手にしたエミィのYシャツをワキミズにかぶせ眼隠しとして利用。
これに慌てたワキミズに拳打を浴びせる。右手を握られたままではあったが、片手であってもその拳は確実にワキミズの肉体を穿つ。
「オルァッ!
わっしのボックシングはどうよ!
地獄の拳闘士、ミツク様の拳はアッツィだろうがぁっ!」
言われるがまま、されるがままのワキミズであった。最初の二発をモロにボディに食らい、足元がぐらついていた。ミツクと名乗った少年はそこを見逃すはずもなく、ワキミズに執拗に浴びせられる拳は確実に彼の体を打ち抜いていく。
「このままじゃ……」
ミツクは狼狽したエミィを横目で捉えた。
「まってな。テメェの順番は、この若造の後よ!」
若造と称されたワキミズ、彼にとどめを刺さんと、左手を置きく振りかぶると、先程から掴まれていた右手に激痛が走った。その一瞬、ミツクの動きが止まり、右手と同じく、振りかぶった左手もワキミズによって捕捉された。ギリギリという肉と骨の軋む音。
「あぁーん?
なんだぁ?
まぐれでわっしの拳を止めたのはいいが……
わっしはここも固いのよッ!」
ミツクは両手を封じられたまま、大きくその上体を仰け反らせ、頭を振りかぶる。そして次の瞬間――勢いよく鈍器を振り落とした。
バッカァァアンッッ!
重い、オモイ頭突きであった。
硬いものと硬いもの、いや、形容すればそれはスイカの果実を高い所から落として割った時の音に似ていただろうか。
これを食らい、ワキミズはその場に膝をつき、捉えていたミツクの両手を放してしまう。
「――っくぅ~~……」
「へっへへ……どうでぇ、わっしの頭突き(パチキ)は?
マァ、ボックシングじゃあ、反則だがな――
……ん?」
自分の視界が紅く染まるのを不思議に思ったミツクは思わず左手で目を拭う。それに伴い自分が額から出血していることを認識した。
「な、なんだぁ?
テメェ……額に鉢金でも仕込んでやがったのかァッ」
ワキミズはそれまでの打撃と頭突きの衝撃から片膝をつくが、それ以上にミツクはダメージを受けている。額からは鮮血が流れ出て、頭髪やマフラーと同じく、その顔を赤く染めていく。その血糊はワキミズの額にも付着していたが、その紅い液体の下、前髪の間にキラリと光る突起が隠れていた。
「今です!
ワキミズさん!」
エミィの声に我に帰ったワキミズは、目を見開く。ミツクの重心が崩れていることを感じとり、腕をとって投げにもっていく。
――っりゃああああっっ
ミツクの体は宙に浮き、半ば力任せであったがそのまま校庭に叩きつけられる形となった。
「受け身も取れないなんて……
ワキミズさん!
やりましたね!
ん?
どうしました?
ワキミズさんっ?」
其の体を投げられ、背から地面に叩きつけられたはずのミツク。投げただけのはずのワキミズはそれを追う形でその場に倒れた。
遠目にこれを見ていたユキシロ、その動体視力は一瞬の出来事を見抜いていた。
「ミツクってぇ野郎……
投げられた際に、空中でワキミズの無防備な後頭部に一撃入れてやがったな?」
これを傍観していただけのツクモもやっとのことで校庭に駆けつける。
ミツクが砂埃を払いながら立ち上がると、目の前にはユキシロ、ツクモ、ハクといったサムライ部の先輩がそろっていた。ミツクは鼻をスンスンと動かし、確認した。
「おぉ、ぬしらからは匂いが一段とするなぁ……
まぁ、これだけのやつらに囲まれてるってのは……
チョットなぁ。今回はこの辺にしといてやるさ。
そこでノビてるボーズにも、次は手加減してやらねぇって伝えとけや!」
バイクにまたがり、来た時と同じく爆音を響かせながら去っていく突然の客ミツク。
一同はコレを大人しく見送った。ユキシロは倒れているワキミズに言葉を掛ける。
「よくやった方だな。やっと本性を現し始めたってところか?」
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