柳兎学園・江戸文化作法研究会 ~サムライ部での青春のワンシーン~

花山オリヴィエ

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 八月に入り、ここ柳兎学園の生徒たちは部活に明け暮れる者、来る受験に備えて勉学に励む者、果ては限りある青春をバイトや夜遊びに費やす者等、実に高校生らしい日々を送っていた。
 そんな夏の最中、サムライ部の面々はいかにして過ごしていたかというと……竹林の中、屋敷にもセミの声が届く。

「サテ、こんなもんですかねー」

 エミィは自室にて、大きなトランクに衣服やら日本の土産品を突っ込み、荷造りを終えていた。

「お、おじょうさま~……いくらなんでも、そんなに持って帰るわけには……」
「あら、いいじゃない、メィリオ。どうせ帰るならジャパンの素晴らしい文化をお父様やお母様にもしっかりとアピールしておくべきだわ」
「し、しかし、その荷物を持つことになるのはワタクシなのですから、こう、もう少し容赦というものを……」

 メィリオは今にも泣き出しそうな困った顔をしているが、エミィはいつものことと受け入れるそぶりを見せない。さっきからこんなやり取りがしばらく続いている。

「なぁんだ、エミィちゃん、今日、実家……
 えーっとイギリスだっけ?
 帰っちゃうの?」
「えぇ、国の両親も心配してくれてはいるのですが、それ以上に心配なのは……」
「そっかぁ、妹さんだっけ?
 具合を見に帰ってあげなよ。
 エミィちゃんの顔を見れば安心することもあるんじゃないかなぁ」
「そ、そうですね。ワキミズさんはご実家に帰られないんですか?」

 声の調子を一段階落として応えるエミィ。左手の甲にある傷に右手を這わせて、その場を取り繕った。

「え?
 あ~、そのうちっていう風には考えているんだけど、なかなかね……」

 ここで二人の会話は一度止まり、ミーワミーワというセミの声のみがその場にとどまる。

(エミィちゃん、本当は家に帰りたくないのか?
 こー、人には言えないようなドロドロとした家庭関係の問題があったりするのかな)

 黒い疑念が胸の内で渦巻くゲンノウワキミズ15歳男子。彼はモンモンと思い悩む。

「お、おじょうさま~、そろそろ出発いたしませんと、飛行機に乗り遅れてしまいますよ」

 ハーイ、と一声。

「それじゃあ、ワキミズさん、行ってきますね」
「あ、校門まで? 荷物を持ってあげるよ」

 ワキミズはエミィの持つ陰りに違和感を覚え、荷物運びを買って出た。屋敷を後にし、竹林を通り、学園の校門までエミィのトランクを運ぶ。

「おぉ、高級そうなタクシーだ。なんだっけ、ハイヤーっていうんだっけ?」

 全長も長く、黒塗りのいかにもなタクシーにトランクや旅行鞄を積み込む。
 ンジャ、イッテラッシャイ。
 合成された人工音声で反応する機械のような声で彼女らを送りだしたワキミズ。

「実家……か
 ……普通なら、ね」

 そこに通りすがったのはユキシロだった。

「おぅい、ワキミズ。ちょっとセンセイが話があるそうだ」

 ワキミズが通されたのは屋敷の中央に位置する大広間だった。そこには中央寄りに三人の先輩、ハク、ユキシロ、ツクモがいつもの道着のまま正座していた。

(な、なんだぁ……?)

 ワキミズは三人の発する雰囲気と、その場の澄んだ空気に逆に違和感を覚えていた。

「そこに座れ」

 部長に勧められるままに部屋の中央、三人の正面に対して入口を背にする形で座る。すと、ドタドタと慌ただしい足音と共に現れたのが一人。

「おぅおぅ、待たせたな」

 部屋に入ってきたのはイトウセンセイだった。

「ん、あぁ、喉が渇いたわい。話はあとじゃ、ちと茶を貰うぞ」

 部屋の中央に、どっかと腰をおろし、その場の生徒が正座で構える中、一人胡坐(あぐら)をかいていた。ユキシロの差し出した、外側に露の付いた茶碗に口を付け、中の冷えた茶を一気に飲み干す。
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