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39. ニコル・カスタネット(2)

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 フルート侯爵家の使いの者の話によると、トトがマール王立学園と掛け合ってくれて、ニコルをマール王立学園に編入する手続きをしてくれたという事だった。

 その編入に必要な費用も不要、学費も不要との事。多分、トトが肩代わりしてくれたのであろう。

 それを聞いた時、ニコルは嬉しさのあまり、思わず膝から崩れ落ちて号泣してしまう。

 ニコルは、元々、勉強も好きで、マール王立学園にも入学したかったのだ。
 それなのに、家の事情で、マール王立学園に入学する事が叶わなかったのだ。(ほぼ、長男カークのせいで)

 元々、カスタネット準男爵領は、裕福な領地ではないので税収も少ない。
 1つだけ街があるのだが、王国の主要道路に隣接する街ではないので、人の往来も少なく経済も停滞してる。
 極めつけに、小さな領地なので田畑もなく、穀物による税収も全くないのである。

 そんな貧乏領地の税収で、何とか捻出した、なけなしの金を使って、長男カークはマール王立学園に入学したのだが、僅か半年で学園を辞めてしまったのだ。

 そのような事情もあり、ニコルは学園に入学させて貰えなかったのである。

 カークの時と同じように、丸々、入学金をドブに捨てるような事があったらいけないし、そもそもニコルは、家を継げない次男なのでマール王立学園に行く必要もない。

「俺、学校に行けるのか……」

 とめどなく涙が溢れてくる。
 心の底から、マール王立学園に行きたかったのだ。
 トトは、そんな俺の気持ちをよく知っていたので、マール王立学園に編入できる手配してくれたのであろう。本当に、感謝してもしきれない。

 だけれども、問題もある。

 折角、弟のトトが、フルート侯爵の養子になったツテを使って、自分をマール王立学園に編入させる手続きを取ってくれたのだが、カスタネット準男爵家では、父親であるカスタネット準男爵の考えが絶対なのだ。

 カスタネット準男爵が、マール王立学園に編入してもよい。と、首を縦に振らないと、例え、マール王立学園に編入する為の全ての段取りが整っていても、編入する事が出来ないのである。

 ニコルは恐る恐る、直立不動でフルート侯爵の使いの話を聞いている父、カスタネット準男爵の顔を見る。

「喜んで、その申し出お受け致します。
 どうか、ニコルをよしなに」

 父、カスタネット準男爵は、フルート侯爵の使いに深々と頭を下げたのだった。

『良かった……俺、トトのお陰で、学園に行けるぞ!』

 その後は、本当に早かった。

 すぐに旅の準備をし、そのままフルート侯爵家の使いの馬車に乗せて貰って、マール王立学園がある王都に、数日かけて到着したのだが、到着した場所が、何故かマール王立学園の学生寮ではなくて、王都の貴族街。
 しかも、上級貴族が住む区画の、またまた一際大きな御屋敷だったのだ。

 最初は、フルート侯爵の王都の別館か何かだと思ってたのだが、どうやら違って、フルート侯爵の馬車は自分を置いてどっか行ってしまう。

 それから、この御屋敷の白髪の執事だという人に、

『只今、全てを知ってる主が留守にしていますので、主が帰ってくる夕方までこの部屋にお待ち下さい』

 と、広いリビングルームに案内されて、一人ポツンと待つ羽目に……

 もう、メチャクチャ心細い。
 ここは、どこで、誰の家なんだ!
 全ての話は、この家の主が帰って来たらしてくれるらしいのだけど、まだ午前中だし、夕方まで時間は、まだまだあるのだ。

 見た事もない高そうなカップに入れられたお茶や、これまた高価そうお菓子とかもたくさん出て来たが、そんなのノドを通るような精神状態ではないのだ。

 自分には、身分相応だし、コレ、勝手に食べちゃたら、後で怒られてしまうかもとか、もしかして上位貴族の作法として、出された茶菓子は食べてはいけないものかも知れないとか、訳の分からない事を考えあぐねて、要らない神経ばかり使ってた所に、トトが御屋敷にやって来てくれたのである。

「トト~!」

 本当に、トトが来てくれて助かった。

 トトの説明によると、この御屋敷は、マール王立学園長の御屋敷である事。
 そして、そのマール王立学園長が、自らニコルの家庭教師になってくれるとの事……

 本当に、意味不明である。

 それから、トトが肩代わりして、入学金とか全て払ってくれてるとか思ってたのだが、要約すると、

『ニコル兄は、マール王立学園の入学金無料の特待生として編入する予定だから、編入試験で良い点数を取ってね!』

 との、事だった。

『トトが、全ての金を払ってくれてたんじゃなかったのかよ!』

 どうやら、俺は盛大な勘違いをしてたようだ。
 まあ、学園長の御屋敷の下宿代とか、家庭教師代は、学園長の善意で全て無料との事で良かったのだけど。

 でもって、この御屋敷が、俺を成績優秀な特待生に仕立てる為の場所であり、俺が死に物狂いで勉強する場所なのだとか。

 話によると、マール王立学園の学園長は、トトの婚約者であるサクラ姫の叔母さんで、サクラ姫の婚約者であるトトの為に協力してくれたとの事。

 やはり、トトの人脈のお陰って事か……

「て?! トトは、この国のお姫様の婚約者になってしまったのかよ!」

 俺は、驚愕の新事実にビックリ仰天。
 目ん玉が飛び出るほど驚いて、トトと、茶菓子を美味しそうに食べてる幼女を、交互に見やる。

「うん。成り行きでね!」

 トトは、事も無げに答える。

 フルート侯爵の使いの人に、馬車の中で一通りの説明は聞いてたが、トトがサクラ姫の婚約者になってる事は、完全に伏せられてた。

 これはもしかして、トップシークレット?!

 確かに、トトが連れてる女の子は、王族の象徴である銀髪だし、テーブルに置かれた高そうなお菓子をパクパク食べてるし。

 でもって、トトとの話がある程度終わると、改めて、サクラ姫に挨拶されてしまった。

「お初にお目にかかります。ニコルお兄様。私は、トト・カスタネット子爵の婚約者。サクラ・フォン・マールでございます!」

 やっぱり、本物のお姫様。その立ち居振る舞いは、上品で高貴な者だけが発せられオーラを感じられる。

「ハハー! サクラ姫様、こちらこそお初にお目にかかります! トトの兄である、ニコル・カスタネットでございまする!」

 高貴な人、ましてやお姫様になんか挨拶した事なんかないから、思わず土下座をして挨拶してしまった。

「お兄様。頭を上げて下さいませ! ニコル様は、トトのお兄様なので、私のお兄様でもあるのです!どうか、サクラと呼び捨てにお呼び下さいませ!」

「ハハー! 分かり申しました~!」

 こんな感じで、ニコル・カスタネットの夢のような王都での生活が始まったのだ。

 ーーー

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