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第一章 魔眼転生

8. クロメのトラウマ

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 俺とクロメは、宛のない旅に出る事にした。
 だって、クロメが居心地の良かった家を消し炭にしちゃうんだもん。

 しかも、旅の準備なんて何もしてないし、地図もない。

 俺、鑑定眼の筈なのに、この世界の事、何も知らないんだよね。
 結局は、この世界の事、イカれ爺さんの家にあった書物に書かれてた事しか知らないし。

「クックックックックッ。遂に、卍様の世界を総べる為の覇道の旅が始まるのですね!」

 クロメは、中二チックな言動を気に入ってるのか、いつもこんな感じ。
 なので、保護者の俺が頑張らないといけないのだ。俺って千里眼の機能も備わってるので、一応、街や村がある場所はチェックしてる。

 取り敢えず、ジジイの家から、歩いて1時間ぐらいの距離に、小さな村がある事が分かってるので、今日は、そこでなんとか頼みこんで、馬小屋にでも泊めて貰おうと思っている。

 何故に馬小屋? だって、クロメの奴、イキナリ家を燃やしちゃうんだよ。なので、お金も何も持ち出せ無かったのである。
 あのジジイ。結構、溜め込んでたのに、本当に勿体無い。

 でもって、1時間後。予定通り、寂れた村に到着した。

 クロメは、第1村人の素朴な少女に話し掛ける。

「矮小なる人間よ! 我が主、卍様の御前である。頭を地べたにくっ付けて、虫けらのように命を乞うが良い!」

「へ?」

 第1少女が、戸惑っている。
 そりゃあ、そうなるよね。年端もいかない幼女が、訳の分かんない事、言ってるし。
 そもそも、卍様って、誰って話だよね。
 しかも俺、眼帯で隠れてるし……

「貴様! 卍様を前に恐れをなさぬとは、まさか、この世界の魔王の手先か!
 うむ。なるほど、そういう事か! 異世界の大魔王であらせられる卍様の力を、この世界の魔王が調べる為に、お前のような矮小な手先を寄越したという事だな!
 クックっクックックッ。我が主、卍様も舐められたものだな。この世界の魔王は、物の道理が分からぬ大バカ者のようだ。
 ならば、貴様! お前には、我が主、卍様の真の力を分からせる為の供物になってもらおうか!」

 なんか、クロメが、第1村人の少女とお話して興奮してるようだ。
 多分、旅の道すがら、一生懸命、第1村人と会った時の台詞を考えてたのだろう。
 だって、旅の途中、ずっとブツブツ台詞の練習してたし。

 だけれども、これはイカンな。
 少女は、ビックリを通り越して引いてるし。
 俺達は、この村で、寝る為の馬小屋を貸して貰わないといけないというのに。

『クロメよ。少女が引いてるではないか』

 俺は、興奮冷め止まぬクロメに、横槍を入れる。

「しかし、卍様。この物の不遜な態度を許して良いのでしょうか?卍様に対して、全くひれ伏さないのですよ!」

『俺にひれ伏さないって、俺、そもそも眼帯で隠れてるし……』

「アッ……」

 クロメは、やっと気付いたようだ。
 なんか、顔を真っ赤にして恥ずかしがってる。
 眼帯外すの忘れてた事より、中二チックな台詞の方が恥ずかしくないのだろうか。

 そんな事より、ずっと独り言を言ってる幼女が恐ろしくなったのか、第1村人の少女は走って自分の家の中に隠れていってしまった。

『オイオイ! どうするんだよ!第1村人行っちまったぜ!』

「フフフフフ。お任せ下さい。この村は大灼熱地獄《ヘルファイア》で、燃やし尽くしますので、証拠は何も残りません!」

 また、クロメがおかしな事を言ってる。

『証拠って?』

「私が、失態をしてしまった証拠でございます。既に、第1村人の少女が、父親に私の事を告げ口したとしても、村全体を燃やしてしまえば、証拠は何も残りませんので!」

『ダメです! そんな事で、村を1つ燃やそうとするんじゃありません!』

 俺は、慌てて、クロメに注意する。

「しかし……」

『しかしも、へったくれも有りません!これからは、人間を殺そうとするのは禁止にします!』

「何故ですか! 私の生まれ故郷では、強い者が正義と教えてこられました!強者は、弱者に何をしても良いのです!」

 クロメは、興奮気味に俺に訴えてくる。

『そんな訳ないだろ? 人はみんな平等だろ?』

 俺は、クロメを諭すように、地球の、日本の価値観を、本当は違うだろうが建前を話す。

「人が平等な事なんて有りません!この世界は弱肉強食なんです! だから、自分も、父様、母様に……」

 どうやら、クロメの過去のトラウマは、相当、根が深いらしい。
 俺は、クロメの過去を見て、黒耳族の族長の娘なのに、未来視眼が発現せずに、家族から虐げられてきた過去も知っている。

 クロメという名前も、未来視眼を持ってない、ただの穀潰しの黒目の無能を意味する名前なのだ。

 過去の映像を見て、クロメが大人しく感じていたのも、多分、クロメが、黒耳族の村で弱者だったからだろう。

 そして今現在、俺の力。卍眼のお陰で力を得た。

 クロメは、その力に見合う、強者として尊大な態度を取らないといけないと、勘違いしてしまっているのだ。

 多分、自分の父や母。兄や妹が、そうだったように。

 だけれども、俺は、そんなの絶対に許さない。
 クロメには、人の心が分かる優しい子になって欲しいのだ。
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