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第2章 城塞都市グラードバッハ編
22. 黒豹
しおりを挟む今日のミノタウロスの力こぶ亭は、新商品、コッコの唐揚げが販売されて大盛況。
大分県の唐揚げをベースに、しっかりとタレの味をしみこませたコッコの肉を、薄い衣でカラッと揚げ、ジューシーな口当たりとなっている。
名古屋風の手羽先と合わせ、飛ぶように売れているのだ。
なんか、再び、女将から緊急クエストが発令され、クロメはミノタウロスの力こぶ亭のウェイトレスをやらされていたりする。
「矮小なお客様、ご注文をどうぞ!」
ウェイトレスをしても、設定は決してブレない。
まあ、クロメはお子様で、格好も格好なので、お客は全員クロメを受け入れてしまってる。
中二の痛い子なんだなって。大人になればそのうちマトモになるだろうなって。齢10歳で中二病なのもどうかと思うけど。
まあ、兎に角、ミノタウロスの力こぶ亭でウェイトレスのバイトをし、たくさんの人と接すれば、そのうちクロメ荒んだの心も懐柔してくるだろう。
今はまだ、強気な発言をして、自分自身を護ろうと思ってるだけなのだ。人に何も奪われないように。
でもって、クロメがウェートレスをして、もう1つ知った事。お客がクロメを見て話したのを盗み聞きした。
黒耳族って、どうやら猫の獣人ではないらしい。
客が、クロメを見て、伝説の黒耳族か、ただの猫耳族か、どっちだろう?って話してたのを盗み聞きしてたんだけど、たまたまその時、クロメがお客が落としたフォークを拾おうとしたら、トレイドマークの三角帽子が床に落ちたんだよね。
それで、客がクロメの耳を見て、完全に黒耳族だと発覚したのだ。
何でも黒耳族の耳は、黒く見えるんだけど、よく見ると豹柄があるみたい。
実を言うと、黒耳族って、黒豹の獣人だったのだ。
黒豹って、ネコ科の中でもトップクラスの俊敏性で、木登りや泳ぎもうまく、運動能力に優れている。しかも、一匹狼。
ハッキリ言うと、クロメそのもの。
子供の頃から、森で1人で生活し、森で寝る時は、安全の為に木の上で寝る。狩りがうまく。夜目もきく。
クロメの運動能力の高さは、俺から溢れる地球からの魔力で肉体強化魔法を自分に掛けてるだけではなく、元々、ネコ科の獣人の中でも身体能力が高い種族だったからみたい。
しかも、隔世遺伝で、数秒先の未来が分かる未来視眼まで発現しちゃったら、忍者をやる為に生まれた種族じゃないかと思えるよね。
まあ、クロメが持ってるのは、未来視眼じゃなくて、卍眼の俺なんだけどね。
「クロメちゃん。今日はありがとね!」
夜8時、お子様のクロメの仕事は終わり。
給金100万Gを、女将から貰う。勿論、コッコ2000羽の代金の一部も含めてね。
「クックックックックッ。卍様の一番の下僕である、このクロメ様にかかれば、ウェイトレスの仕事など動作も無い事! 身体強化魔法を使って、3倍速で働いてやりましたよ!」
なんか、クロメは一生懸命に仕事をするタイプみたいだ。口では偉そうな事を言ってるが、とても真剣に仕事をしていた。普通に、客が落としたフォークを自ら拾って、新しいフォークを出してあげたりしてたし。
「クロメちゃんが、3人分を1人で働いてくれて、本当に助かったわ!」
「フン! 私は、伝説の黒耳族。依頼を完璧に成し遂げるのは当たり前の事。黒耳族が、依頼を失敗する事など、絶対に有り得ないのだ! フッフッフッフッフッ……クワッハッハッハッハッ!」
クロメは、話してるうちにテンションが上がったのか、胸を反らしドヤ顔で高笑い。
多分、黒耳族としては出来損ないと言われてたクロメが、黒耳族として仕事を完璧に遂行できたのが嬉しかったのかもしれない。
黒耳族の村では、とても酷い扱いを受けてたというのに、自分が黒耳族だという事に誇りを持ってるのだ。
まあ、バイトを一生懸命やるのは良い事なので、敢えて何も言わないけど。
「凄いね~クロメちゃんは……」
女将は、クロメを抱き締める。
ちょっと、哀れみの気持ちもあるように見受けられる。
黒耳族の村は、魔物の大群に襲われて、数ヶ月前に滅亡したという事は、結構、知れ渡っている事実。
クロメは、その黒耳族の村の生き残りと認識されている。なので、ミノタウロスの力こぶ亭の客達は、クロメに対して、少し哀れみの目で、優しい目で接してくれているのであった。
クロメの中二的言動も、人に舐められないように、強気な事ばかり言ってるんだなと勘違いされてるようだし。
まあ、クロメの場合、弱肉強食。強者のみが正義という親の影響と、異世界アニメの影響なのだけど。
「フン! 優しくされても、給金は返さないからな!」
クロメは、顔を真っ赤にさせて強気な事を言っている。本当は、女将に抱き締められて嬉しい癖に。
「ハイハイ。クロメちゃんは可愛いから、つい、抱き締めたくなっちゃうだけよ」
女将は、クロメの頭をヨシヨシする。
「うわぁぁーー! やめろ~!!」
女将の行動に困惑するクロメは、女将の腕を振り解き、自分の宿の部屋に走って逃げて行った。
どうやらクロメは、優しくしてくれる人と、どのように接したら良いのか分からないみたいである。
今迄、接してきた者達は、クロメから奪う者ばかりだったから。
俺とクロメの関係も、ご主人様と奴隷という関係にして、俺の事を絶対的な強者という立場に敢えてしたのだと、今、考えると思えるし。その方がクロメにとって都合が良かったのだ。
強者にかしずくのは自然の事だし、両親の弱肉強食の教えも守れるし。
クロメは、宿のベッドの布団の中に潜り込み、フーフー言っている。
「卍様……女将に抱きしめられると、頭の中がどうかなってしまいそうです」
母親の愛情を知らずに育ったクロメは、初めて感情に戸惑ってるようである。
『そうだな……』
「頭が、ポ~として、沸騰して何も考えられなくなっちゃうんです……」
『でも、嫌な気分じゃないんだろ?』
「嫌ではないんですけど……女将に身を委ねて抱っこされてると、自分が自分で無くなってしまうような気がしてしまうんです」
クロメが、思いの丈をぶつけてくる。
まあ、俺には自分の気持ちを隠さずに、何でも伝えてくれるのは嬉しいけど、ちょっとこれは重症である。
まあ、親の愛情を知らずに育ったクロメにとって、人の無償の愛は重すぎるのだ。
また、それに対して、普通に受け入れられる心が育ってないのである。
それを克服するには、まだ、結構、時間がかかるだろう。
だけど、俺との旅を通じて、人とたくさん接し、少しづつ冷めた心を懐柔していけばいい。時間はたくさん有るのだから。
そして、最終的に、誰にに対しても、優しくできる思いやりがある人間になってくれると、俺は嬉しいのである。
ーーー
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