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第2章 城塞都市グラードバッハ編

23. 地獄門

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 翌日、冒険者ギルドに、クエストを受けに行く。

 ギルドの受け付けのお姉さんの話によると、G級冒険者は、月に1度はクエスト受けないと、冒険者の権利を剥奪されるという話だ。
 因みに、D級冒険者になると、その括りが無くなるらしいので、とっととこの街でD級まで上げてしまおうという算段なのである。

 てな訳で、ギルドの依頼書が貼ってある掲示板で、G級クエストを物色する。

 G級クエストは、グラードバッハ城塞都市の中のクエストばかり。
 ドブ掃除や、汲み取り式の便所掃除、庭のお手入れやら、猫の捜索。まあ、街の何でも屋って所だ。

 結構、子供も冒険者になっていて、危ない事故を無くす為の対策みたいだ。
 因みに、20回クエストを成功させると、自動的にF級冒険者になれるらしい。

 という訳で、作戦通りに、クロメは捜索系のクエストを全て掲示板から剥がす。
 そう、俺の透視眼と千里眼の力を使えば、捜索など簡単に出来てしまうのだ。
 俺の透視眼ってよく出来ていて、見たいもの以外を透視する事が出来るのだ。

 まあ、覗きする時に、服だけ透視する感じだよね。エロはやはり、技術を進歩させるのである。

 天然物の使い勝手が悪い透視眼より、イカれジジイが作った透視眼の方が売れるのが、この理由。イカれジジイが作った透視眼は、透視する物を選別できちゃうのである。

 話によると、この透視眼を開発した事により、イカれジジイは巨万の富を築いたとか。

 俺は、その透視眼を標準装備。まあ、眼帯越しに物が見えるようにするには、透視眼を付けないといけなかったのが、主な理由だと思われる。

 だって、俺って、卍の文字や複雑な魔法陣まで眼球に刻まれてるから、結構、怖いんだよね。俺を直で見ると呪われそうな気がするし。流石のイカれジジイでも、俺を装着した時は、眼帯付けようと思ってたようだし。

 そんな訳で、俺とクロメは捜索を開始する。
 まずは、子猫ちゃん。子猫の捜索は結構あって5つもあった。
 しかし、俺とクロメに掛かればなんて事ないのだ。俺の千里眼は見たいものを、どんなに遠くでもロックオンしてくれる。
 まあ、ロックオンしても目の前に障害物があると見えない仕様。

 何も遮蔽物が無い場所だと使えるんだけど、建物がたくさん建ってる場所とかは全く使えないんだよね……
 船乗りには人気があるみたいだけど。

 そんな感じで、透視眼と千里眼を持ってる俺は、最強なのだ。

 迷い猫の特徴を指定してロックオン。他の遮蔽物は全て透視するので、直ぐに見つかる。
 後は捕まえるだけ。普通は、素早い猫を捕まえるのも大変なのだが、狩りが得意なクロメにかかれば、一瞬で捕まえる事が出来てしまう。

 身体強化魔法も使ってるのだが、クロメはそれだけではないのだ。元々、小さな時から狩りをしてるから動きに全く無駄がないし、猫の動きの先読みもしてるようである。

 クロメには、未来視眼が発現しなかったが、黒耳族は元々、先読みが得意な種族なのかもしれない。それがドンドン進化していき、未来視眼が、突然変異で発現したのだと思われる。

 そんな感じで、子猫探しはあっという間に終了。30分で5つのクエストを完遂してしまった。

 続いて、落し物クエスト。
 これも結構あって、12ものクエストがあった。

 まあ、俺の透視眼と千里眼があれば、簡単なんだけどね。
 だけれども、これには一悶着あった。

 12のクエストのうち半分は、普通に見つける事が出来たのだが、残りのクエストのうちの4つのクエストで一悶着あったのだ。
 簡単にいうと、悪い人に盗まれていたのである。

「フッフッフッフッフッ。 遂に、私の力を見せる時が来たのです」

 犯人を尾行しながら、クロメがほくそ笑んでいる。

『程々にしろよ』

「殺しはしませんよ。ただ、お灸を据えるだけです」

『取り敢えず、捕まえたら衛兵に引き渡そうな』

「承知!」

 クロメは返事をすると、ジャンプし、クルクル2回転してから、犯人の前に、ストン!と、着地する。

「ウワッ! 何だお前!?」

「クックックックックッ。私か?私は、我が主、卍様に仕えるただの下僕だよ」

 クロメは、相当、俺の下僕設定を気に入ってるようだ。

「卍だと? そんな奴聞いた事ねーよ!」

 あ~言っちゃったよ。クロメ、怒ってるよ。
 基本、俺の事を小馬鹿にされると、クロメは怒りが沸点まで沸き上がり、手が付けられない状態になっちゃうんだよね。

「我が主、卍様を愚弄するとは許せん……」

 なんか、クロメ、顔をまっかにさせて、プルプル打ち震えてるし。
 まあ、俺の事を知らないだけで、何故、これ程までに怒るのかは謎だけど。
 まあ、俺的には、俺を大切に思ってくれて嬉しい。
 しかしながら、今回は、俺に止められるか?
 クロメの溢れんばかりの感情の昂ぶりが、シンクロ率100%の俺に、直に伝わってきてるし。

「オイオイ。何、怒ってるんだよ? それより、今の状況が分かってんのか?
 こんな人通りが居ない路地に、子供1人は、危ないんだぜ」

 盗人の男は、ニヤニヤしながら、どうやらクロエを攫おうとしてるようだ。
 というか、本題の落し物探しはどうなった?クロメも、落し物探しの用件を盗人に伝えてないし。

「卍様を知らないとは笑止。ならば、とくと見るがよい! 我が主、卍様の偉大なる御姿を!」

 クロメは、眼帯を取り払い、卍眼を、盗人に見せつける。

「何だ! その目? 何で、目に落書きを書いてやがるんだ!」

 ああ……こりゃあ、もう駄目だ。なんか、クロメの奴、怒りを通り越して、なんかブツブツ言ってるし。
 というかこれは、もしかして魔法の詠唱か!?
 俺、メチャクチャ輝いてるんだけど! これ、完全に大魔法放つ気だろ!

『オイ! クロメ! 落ち着けって! こんな街の中で、大魔法放っちゃ駄目だぞ!』

 俺が、いくら言っても、クロメの魔法の詠唱は止まらない。

 というか、もう、盗人の人、逃げ出してるし。
 そりゃあ、幼女が魔眼持ってたらビビるし、その魔眼が、突然、光だしたらヤバいと思うよね。

 そんでもって、クロメは、大魔法無差別テロをしようとしてるし、俺は、ただの目玉なのでクロメを止める事もできないし。

 ああ。本当に、どこで間違えたんだろう。
 俺は、クロメに良い子に育って欲しかったのだ。その為に、クロメに色々と優しく言い聞かせてきたのに……

 やはり、もっと、厳しくビシバシ言った方が良かったのか?そもそも、俺、子育てなんかした事ないんだよ。そんな俺に答えなんか、分かる筈がない。

 というか、詠唱長過ぎない?クロメは、どんな極大魔法を放つ気なんだよ!

 まさか、この街、消滅させないよね?俺、結構、この街気に入ってたのに。もっと、ミノタウロスの力こぶ亭の女将の巨乳に抱き締められたかったのに!

「ゲヘナゲヘナゲヘナヘル~あぁぁぁ~ゲヘナゲヘナゲヘナヘル……」

 何なの?ゲヘナゲヘナゲヘナヘルって?どんだけ、邪悪な呪文を唱えてるんだよ!
 これ、もしかしたら、ヤバい禁呪目録とかに書かれてる、封印されし魔法かなんかじゃないのか……

 糞ーー! 何で、俺には体が無いんだよ!
 体があったら、死んででもクロメを止める事が出来たのに。体が無い事が、こんなにももどかしいとは……俺は、クロメを優しい子に育てたかったんだよ!
 今のクロメのように、笑いながら邪悪な呪文をブツブツ唱えるような危ない子には、なって欲しくなかったんだよ!

 そんな、俺の気持ちも知らないで、クロメの魔法の詠唱は、終わりを迎えようとしていた。

「ゲヘナゲヘナゲヘナヘル。地獄の門よ開け! そして、屍肉を喰らいし地獄の番犬を呼び醒ませ!我が主、卍様の名において命ずる。召喚!地獄の番犬ケルベロス!!」

 クロメの詠唱が終わると、上空に巨大な魔法陣が現れ、そこから、青白い地獄の炎を纏った巨大な地獄の門が現れる。

「クワッハッハッハッハッ! 矮小な人間どもよ! 泣け! 逃げまどえ!そして、命乞いをしろ! 地獄の門番が、地獄からやって来ましたよ!!」

 なんか、クロメは、テンションがハイになって、俺の言葉なんか、もう届きそうもない状態だ。
 俺は、どこで、クロメの教育を間違えてしまったのだろう……

『糞……俺には、どうする事も出来ないのかよ!』

 体が無い眼球だけの俺は、最早、悔し涙を流す事しかできない。

 ギギギギギギギギィ~

 そして、溢れ出る涙で視界が見えにくなってる中、固く閉ざされていた分厚い地獄の門が、ゆっくりと、そして不快な音を響かせ、開かれたのだ。

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