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88. 高級果物
しおりを挟む「美味いやないかーい!」
俺は思わず立ち上がり、絶叫する。
「ヤッパリ美味しいですよね! 新鮮なミノタウロスの心臓の刺身は!」と、ヨネンさんは心臓の刺身を、モグモグ食べながら話しかけてくる。
「美味しいクモ!」
美食家で料理上手なクモは、躊躇なくミノタウロスの心臓の刺身を食べている。
よく考えたら、俺達より年上のクモは、元々ダンジョンで魔物の生肉を食べていた。
クモは俺達と出会う前は、野生のフロアーボスだったのだ。
今では考えられないが、初めて俺達とダンジョンで狩りをした時など、魔物を見て、ヨダレを垂らしていた程だ。
それに比べて、俺とビー子は、狩った魔物をそのまま生で、むしゃぶりついた事など無い。
俺は、産まれた時から前世の記憶を持っていた為、最初から魔物を食べる時は、普通に火を通して食べていたのである。
「ウゥ……ビー子、食べられないよぉ……」
ビー子は、ピクピク動いている心臓の刺身が、怖くて食べられないようだ。
見た目には、クールビューティーな悪魔っぽい悪魔なので、血が滴る心臓を鷲掴みにして、がぶり付く絵が一番似合いそうなのだが、如何せん、ビー子は温室育ちの お子様舌悪魔なのだ。
「食べれないのならば、僕が食べてあげますよ!」と、ヨネンさんはビー子の心臓の刺身の皿を、ヒョイっと取って、「美味美味」と、言いながらニャックハイボールの酒の肴にしてしまった。
「これは確かに、大人の味よね。
ピクピクは少し気持ち悪いけど、ピリッと辛いニンニク醤油につけて食べると、お酒が進むわ!」
アナ先生は酒豪なので、お酒に合う食べ物は何でも好きなようである。
最初は、ぶつくさ言っていたが、ヨネンさんがお酒を飲みながら、美味そうに食べているのを見て、思わず手をつけようだ。
他の前菜類も、殆ど前世の高級焼肉店と変わらない美味しさである。というか、完全に前世の味と一緒である。
ミノタウロスの味は、完全に牛肉と同じなのだ。
顔が牛なので、想像できるといえばできるが、そんな事よりも、『ミノ一番』自体が、完全に前世の焼肉店に模して作られている。
普通に、前菜の後は、塩タン、ネギタン、上カルビ、上ロース、特上カルビ、特上厚切りロース、シャトーブリアン、ホルモン、上ホルモン、石焼ビビンバ、冷麺、レカンシャーベットと、前世の焼肉店と同じ様なメニューが出てきたのだ。
ヨネンさんによると、400年前の『ミノ一番』は、肉のつけダレなどの味が若干違ったらしいのだが、サンアリさんが、大魔王ゴトウ·サイトの配下になり、そして、『漆黒の森』の総料理長にガリクソンさんがスカウトされた事が切っ掛けで、一気に大魔王ゴトウ·サイトの舌に合わせる形で、今のメニューと味になったと言う事だ。
そんな事情で、南の大陸、特に『漆黒の森』では、異世界の、それも俺が慣れ親しんでいる日本食が今やスタンダードなのだとか。
この事だけでも、『漆黒の森』にとって、在位たった半年だと言われている大魔王ゴトウ·サイトの影響力が、どれだけ大きかったかが分かるだろうと言うものだ。
「「「ご馳走様でした!」」」
俺達は食事が終わり、食後のお茶を飲んでいると、サンアリさんがやってきたので立ち上がり、60度のお辞儀をして、お礼をする。
アナ先生は、元々騎士の家系なので、礼儀作法に五月蝿いのだ。キチンとビー子やクモにも礼儀作法を教えている。
「これはこれは、食べて頂き有難うございます。」と、サンアリさんは90度のお辞儀で返してきた。
ヤバすぎるぞ。サンアリさん。
どれだけ腰が低いのだ。
「サンアリさん! 異世界の果物の注文は宜しかったのですか?」
俺達がサンアリさんのお辞儀に怯んでいると、俺の代わりにヨネンさんが、サンアリさんに果物の件を聞いてくれた。
「誠に、申し訳ないのですが……
先程 頂いた果物全てを、毎週500個づつ買わせて頂きたいのですが……」
サンアリさんが申し訳無さげに、お願いしてきた。
「500個づつですか……」
アナ先生は、自分の想像していた量と全く違っていたのか、言葉に詰まって固まってしまった。
「ダンジョンに戻って、アドに生産できるか聞きにいきたいんですが……」と、俺は、サンアリさんに時間をくれるように、お願いする。
「エーサクさん。アドさんなら大丈夫ですよ!
ここに来る前に、僕がどれくらいの生産量なら大丈夫か、聞いておきましたから!
アドさんが言うには、毎日100個でも1000個でも問題無いと言ってましたよ!」と、ヨネンさんが教えてくれた。
流石は、南の大陸のドワーフ王国直営店の総支配人を任されている商売人である。
商売に関しては、頼りになる人物というか、抜け目がない。
「あのぉ……価格なんですけど、私達、どれくらいの価格にすれば良いのか分からないのですけど……」と、アナ先生は申し訳無さげに話す。
「そうですね……そしたら、この世界の標準的な仕入れ価格の3倍の値段なんてどうでしょうか?」と、サンアリさんは提案してくれた。
「さ……3倍ですか!!」
アナ先生は、目を白黒させている。
まだこの世界では、甘くて美味しい高級フルーツが浸透していないので、フルーツの値段が3倍にものなる事に、どうやら驚いているようだ。
「当然でございます!
このような貴重な、異世界のフルーツを安い値段で売るなんて論外でございます。
先程、頂いたフルーツは全て種無しでした。
なので、異世界のフルーツは、世界樹の森がある『鉄血の乙女』の皆様方のダンジョンでしか、生み出す事ができないのです!
但し、3倍で買い取らせて頂く代わりに、一つだけお願いがあります。
異世界のフルーツは、サンアリコーポレーション以外には、卸さないで頂きたい。
異世界のフルーツの価値が分からない他の業者が、サンアリコーポレーションより、安い値段で異世界のフルーツを世に出してしまっては、値崩れが起こってしまいます。
その代わり、私どもが責任を持って、異世界のフルーツの価値をこの世界に浸透させてみせますので!」
と、サンアリさんは、自信を満ちた表情で、俺達に説明した。
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