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8. 殺気を飛ばす男

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 塩田郎は、痙攣した足に、自ら脇差しを突き刺す。

「グッ! 痛てーー! ちょっと刺し過ぎたか?
 でも、震えは止まったな。これで、戦える」

 もう、塩田郎は後先考えてない。
 目の前の、紫タコ侍を倒す事だけを考えている。

 まあ、何とか紫タコ侍を倒す事が出来ても、紫タコ侍の後ろにある下り階段が、出口じゃなければジ・エンド。
 多分、出血多量で数時間後には死んでしまうだろう。

 塩田郎には、時間が無い。
 そのまま紫タコ侍に、ラッシュを仕掛ける。

 カキン!カキン! カキン! カキン!

「チッ!四刀流なんて、反則だろ!」

 やはり、紫タコ侍は強い。
 塩太郎の攻撃は、全て弾き返される。
 最近では、普通のタコ侍など、難なく倒せるようになってたのに、紫タコ侍には、全く通用しない。

「スピードも速くなってるし、斬撃も重い。四刀流だから、死角もねーし!
 一体、どうすりゃいいんだ?」

 塩太郎は、一旦、後ろに飛び下がり、仕切り直す。

「ちきしょーめ! 倒せる気がしねーーぜ!」

 そんな、困った様子でボヤいてる塩太郎を見て、紫タコ侍はニヤリと笑う。
 そして、何を思ったのか、一番上の右腕に持った刀を、何気に振り下ろす。

 ズザーーン!

「何、今の!?飛ぶ斬撃?」

 なんと、紫タコ侍は、塩太郎に向けて斬撃を飛ばしたのだ。

「これ、初見殺しだろ! まつ毛がピクつかなかったら、死んでただろ!」

 とか、言ってる間にも、紫タコ侍は、全ての刀を振りかぶってる。

「嘘だろ……」

 ズザーーン! ズザーーン! ズザーーン! ズザーーン!

「滅茶苦茶じゃねーか! 火縄銃かよ!
 というか、玉じゃねーから、弾き返せるかも解らねーー!」

 塩太郎は、転がりながらも、何とか避ける。

「て、チョイ待て!」

 やっとこさ、避けたというのに、紫タコ侍はもう振りかぶっている。

 塩太郎は、まだ、片膝付いた状態。

「チッ! 避けられねー!」

 ズザーーン!

「えっ!? 弾け返せれた……」

 塩太郎が、ヤッケパチで振り抜いた刀に、斬撃波がヒットし、どうやら相殺されたようである。

「どういう事だ?」

 塩田郎が、考える隙を与えず、紫タコ侍は、斬撃波を連発してくる。

 しかしながら、塩太郎には余裕が有る。
 何せ、塩太郎は、火縄銃の玉をも刀で弾く男であるのだ。
 斬撃波が弾き返せると解れば、それ程、脅威は無いのである。

「なんか、体に纏った紫の殺気が、刀にも纏っていて、それを飛ばしてるのか?」

 塩太郎は、紫タコ侍を観察する。

「というか、俺も赤黒い殺気、体と刀に纏ってるよな……」

 ズザーーン! ズザーーン! ズザーーン! ズザーーン!

 塩太郎は、思考しながら、紫タコ侍の斬撃波を弾き続ける。

「これって、もしかして、俺にもできるんじゃね?」

 塩太郎は、取り敢えず、やってみる事にする。

「えい! て、飛ばねーや!でも、何か出来そうな気がする」

 ズザーーン! ズザーーン! ズザーーン!

 塩太郎は、紫タコ侍の斬撃波を弾きながら、深く深く考える。

「こうか?」

 なんか、刀に纏った赤黒い殺気が伸びた気がした。

「もう少し、もう少しなんだよな……」

 塩太郎は、深く深く熟考する。

「イメージだ。イメージ。紫タコをよく見ろ。そのまま真似すればいいんだよ」

 塩太郎は、全集中で紫タコ侍の動きをトレースする。

 ズザーーン!

「プギューー!」

「えっ?! 当たった?」

 まさかの成功。
 紫タコ侍が、左下腕の刀を落として痛がっている。

「スゲーな、この世界……殺気を刀に乗せて飛ばせる事が出来るんだな」

 塩太郎は知らない。
 塩太郎の刀からは、殺気など飛んでない事を。そして、飛ばしてるのは、魔力を帯びた闘気だという事を。

 塩太郎は知らない。
 闘気を飛ばす斬撃波は、普通、剣士の上の上級職、剣豪がLv.30越えで、やっと覚える技だという事を。

 そして、塩太郎は知らない。
 自分の職業が、まだ、普通職の剣士であり、上級職の剣豪ではない事を。

 幕末出身で、異世界に疎い佐藤 塩太郎は、知らなかったのだ。

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