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25. 褒める女

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「エリス! そろそろ精霊達を出しなさい!」

「了解!」

 エリスは、シャンティーに言われて、何百体もの精霊軍団を召喚する。

「こりゃあ、百鬼夜行だな……」

 塩太郎は、その圧倒的な圧に驚愕する。

「精霊達は、私とエリスのガード! そして、景気付けに、敵軍に遠距離魔法攻撃を放っちゃって!」

 シャンティーの命令により、精霊達の周りに幾つもの魔法陣が展開する。

「放て!!」

 戦場から、1キロ程度離れた位置から、遠距離魔法攻撃が放たれる。

 チュドドドドド~ン!

「おい! 何だ! 今の! ガブリエルが放ってた隕石みたいなの、精霊達も放てるのかよ!」

「アンタね。本当に異世界大好き日本人? まさか、魔法も知らないの……」

 塩田郎は、幕末出身日本人。
 魔女の伝承があるヨーロッパじゃないので、魔法なんて知る由もないのだ。
 ただ単に、ガブリエルだけが使える必殺技か何かだと、本気で思っていたのである。

「というか、アンタの前で、私も何度か使ってるんだけど?」

「嘘だろ?!」

「ほら、こんなの!」

 塩太郎は、いきなり吹っ飛ばされた。

「痛てぇーな! 今の何なんだよ!」

「今のは、エアーバレット。空気の塊を飛ばす風魔法よ!」

「何か、たまに、人が吹っ飛ぶ奴か!」

 そう言えば、塩太郎も何度か覚えがある。
 最近では、ガブリエルに対峙してたアンが、いきなり吹っ飛ばされたのも、多分、このエアーバレットという奴だ。

「というか、アンタも、もう魔法使えるでしょ!
 その体に纏ってる闘気も、魔法の一種よ!」

「嘘?!」

「剣士とかは、剣から魔法を飛ばす、斬撃波を使ったりするわよ!」

「ん? こいつの事か?」

 塩太郎は、何気に刀を振り、斬撃を飛ばして見せる。

「嘘!? アンタ……。斬撃波を、もうマスターしてんの!」

「ああ。コッチの世界に来て、直ぐに覚えた!」

 塩太郎は、何気に答える。

「アンタ、どんだけ才能あんのよ!
 というか、こんな化け物みたいな奴、アマイモンがよく、異世界で見つけてこれたわね……」

 シャンティーは知らない。
 幕末伝説人斬り 佐藤 塩太郎をみつけられたのは、アマイモン一人の力で無い事を。
 ある歴史大好きな男と、歴史大好き幼女の助けがあった事を。
 ミッドナイトノベルズ、完結済年間1位を取った『骨から始まる異世界転生~裸の勇者は骨から成り上がる』を読んでない、シャンティーには、決して分からない事だったのだ。

 とか、やってると、

 ズドドドドドォーーン!

 敵陣から、無数の魔法攻撃が、塩太郎達に向けて飛んで来た。

「ほら! 来たわよ! 塩太郎、全て刀で弾き飛ばしなさい!」

「そんな無茶な!」

「斬撃波が放てるなら、可能よ!
 相手方の魔法は、上級魔法のみ!闘気を使える時点で、上級魔法なんて、ただのそよ風みたいなもんよ!
 その闘気を纏わせた刀で、叩き斬ればいいだけ!」

「嘘だろ!」

 シャンティーが、滅茶苦茶な事を言っている。
 どう見ても、ヤバそうな魔法攻撃を、刀で弾き返せる筈ないのだ。

「絶対に出来る! 相手はガブリエルじゃないのよ!
 アンタは、ガブリエルや、このシャンティー様に認められた男!
 その辺の、有象無象に負ける訳ないでしょ!」

 シャンティーは、自信満々。
 塩太郎を、信じて疑わない。

「あぁー! 分かったよ! やればいいんだろ!
 そしたら、やっちゃるよ!
 長州男子の生き様、よく見とけよ!」

 塩太郎は、シャンティーやエリス達の前に立ち、刀で全て魔法攻撃を叩き斬る。

「どうじゃーー!!」

「やっぱり想像以上ね……アンタ、一体、どんな動きしてんのよ……。
 それに、ブリトニーレベルじゃないけど、攻撃の約半分が、改心の一撃だったわよ……」

 シャンティーが、塩太郎を見て、ますます感心してる。

「満足か?」

「ええ! 満足よ! これならエリス要らないわね!
 じゃあ、塩太郎! このまま敵陣に突っ込むわよ!」

「エッ?! お前、何言ってんだ?」

 塩太郎は、驚き過ぎて、目を丸くする。

「エリスは、ここで待機! 精霊達とお茶でも飲んでいて!
 アンタは、このまま私と突っ込む。
 アンタがどんだけ出来るか、この目で見ときたいから!」

「お前、突っ込むったって、お前は大丈夫なのか?」

「何言ってんの? アンタが私を護るに決まってるじゃない?」

 シャンティーは、事も無げに言う。

「お前、分かってんのか? ヒトを護りながらの戦闘って、滅茶苦茶大変なんだぞ!!」

「まあ、私も上級程度の魔法攻撃なら、無傷で乗り切れるから、どう考えてもヤバい攻撃だけ、弾き飛ばして頂戴!」

「お前、滅茶苦茶だな……」

「それが、勇者を排出してる、名門ギルドパーティー『犬の肉球』のやり方よ!」

 シャンティーは、自信満々に言い切った。
 塩太郎的にも、一応、上司であるシャンティーに、やれと言われればやるしかない。
 京都での人斬り家業も、思えば、こんなだったし。

「ほんじゃあ、やっちゃるか!」

 塩太郎は、体に薄い闘気を纏わせ、敵軍に向けて走りだす。

「アンタ、もう、闘気の使い分けも出来るのね……」

 シャンティが、並走?並飛び?しながら話掛けてくる。

「闘気の使い分け?」

 塩田郎は、何の事やらと首を捻る。

「アンタが今使ってるのが、風の闘気で、スピードアップの効果があるの!
 そして、さっき、魔法を叩き斬ったのが、力の闘気。攻撃力を上げる闘気ね!」

「俺は、何も考えずに斬っただけなんだが……」

「だから、アンタは天才なのよ! 意識せずに闘気を使い分けてるんだから!
 普通、意識しても出来ない奴が、五万といるのよ!」

 なんかよく分からんが、シャンティーが褒めてくる。

「よく分からんが、ちゃんと出来てるんだな?」

「モチのロンよ!だから、アンタは何も考えずに、敵を倒せばいいのよ!
 というか、たまに日本人の中には、人を殺すの躊躇う子いるけど、勿論、アンタは大丈夫よね?」

「お前、誰に言ってんだ? 俺は京都に、その人ありと恐れられた、最凶の人斬りだぜ?」

 実際は、誰にも知られてない、最凶の人斬りだったのだけど、シャンティーが何も知らないのを良い事に、塩田郎は、見栄を張って嘯《うそぶ》いてみせたのだった。

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