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29. 野球男

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「てやんでぇー! もうやけっぱちだ!!」

 塩田郎は、蛤御門の変での大火事の炎をイメージして、闘気を練り上げる。

 まあ、ついさっき、隕石で焼かれた時のイメージでも良かったのだが、やはり、塩田郎的には、蛤御門の変での大火事の方が、強烈にイメージとして、頭の中に残っているのだ。

 なにせ、長州の仲間もたくさん死んでるし、初めて死んだ時の炎である。
 記憶に全く残ってない方が、嘘である。

 ズドドドトドドドドーー!!

 隕石は、熱波と共に落ちてくる。

 塩田郎は、鞘から抜いていた刀を、再び鞘に戻し、居合の構えをして精神統一する。

 そして、隕石に合わせて一閃、

 カッキ~ン!!

 斬るというより、叩く感じ。

 ついでだから、ハマオカ軍に向けて、思いっきり叩き返してやった。

「どうじゃーー! 斬らずに叩き返してやったぜ!
 そして、自分が発する炎は、全然、熱くなかったぜ!」

 塩田郎が打った、球じゃなくて、隕石は、ハマオカ軍の陣地に向けて、ライナーで飛んで行く。

 そして、

  ドッカーン!!

 塩田郎が打った隕石が、敵陣の最後尾らへんで、何かに当たり、そして、真上に花火のように打ち上がった。

「なんか、よく分からんが、打ち上がったぜ! 玉屋ー!!」

 なんか、思いのほか上手くいって、塩田郎のテンションも上がる。

「やっぱり、アンタ、想像の斜め上を行くわね!
 というか、真っ直ぐライナーで飛んでいって、それから、真上に飛んだから、直角?」

 シャンティーは、感心する。
 というか、斜め上か、直角か、どうでも良い事で悩んでいる。

「オイ! 腹黒! これで良かったんだろ!」

 塩田郎は、どうだと言わんばかりに胸を張る。

「氷の闘気で相殺するのが正解だったけど、灼熱の隕石に、更に炎を足して獄炎にし、尚且つ、打ち返す事によって、スピードも3倍増し!
 しかも、指揮官のドラゴニュートに、当てちゃってんだから、二重丸を通り越して、花丸よ!!
 流石は、ガブリエルがわざわざ、異世界から呼び出した、勇者候補と言った所ね!」

「えっ!? あの隕石、ドラゴニュートに当たったのか?」

「ええ。当たってるわよ! あそこで、目を回して伸びてるわ!」

 シャンティーが、上半身丸焦げになった、ドラゴニュートを指差す。

「死んでないのかよ?」

「ドラゴニュートは、頑丈だからね。そのうち再生するんじゃない?」

「蜥蜴の尻尾かよ?」

「あんた、それ、ドラゴニュートに言ったら殺されるわよ!」

 シャンティーは、塩田郎に釘を刺す。
 まあ、塩田郎の場合は、赤龍アリエッタにも言ってるので、今更なんだけど。

「で? どうすんだ?」

「もうこれで終わりよ!」

「こんだけコテンパンにやられたら、もう暫くは、ハマオカ王国も、戦争なんてしようと思わないでしょ!」

「あの、黒焦げになってる、ドラゴニュートはどうするんだよ?」

「どうするもなにも、ほっとくわよ!
 下手に何かして、裏で糸を引いてる黒龍王国が出て来たら、事だしね!
 まあ、ドラゴニュートさえ、人質に取ったり、殺さなければ、黒龍王国は表に出てこないとは思うけど」

「そんなんでいいのかよ! 相手は、侵略者だぞ!」

 塩田郎は、納得いかない。
 何故なら、黒龍王国は、黒船に被るから。
 東の海から来る奴らは、全員、朝敵。
 少しでも隙を見せれば、不平等条約結ばされるかもしれないし。

「落とし所が大事なのよ! ガリム王国は、侵略してきたハマオカ王国と戦っただけ。
 相手方に、黒龍王国の人間。ましては、貴族のドラゴニュートなど、居なかった。それで、お終いよ!」

「だけど、また、攻めて来たら……」

「それは、もう、無いわね! 今回の事で、黒龍王国も、ガリム王国の事を徹底的に調べるでしょ!
 そして、塩田郎、アンタの存在に行き着くわ!」

 シャンティーは、ニヤリと笑い、塩田郎を見やる。

「えっ? 俺?!」

「そうよ! アンタは、南の大陸を牛耳る『漆黒の森』の女王、ガブリエル・ゴトウ・ツゥペシュが、異界の悪魔ベルゼブブ討伐の為に、わざわざ異世界から呼び寄せた勇者候補。
 その勇者候補のアンタが居る『犬の肉球』、即ち、ガリム王国に、黒龍王国は、もう手を出す事ができない」

「どういう事だ?」

 塩田郎は、全く、理解が追い付く事が出来ない。

「黒龍王国も、南の大陸には手が出せないと言ってるの!」

「何故に?」

 塩田郎は、頭を捻る。

「南の大陸には、冒険者ギルドの本部があるムササビ自治国家があるの!
 そのムササビ自治国家と冒険者ギルドを運営するのは、ギルドランキング10位以内に入ってる上位ギルド!
 その上位ギルドの半分以上が、現在、ガブリエルが団長をする『犬の尻尾』の傘下ギルドな訳!
 ガブリエルがその気になれば、『漆黒の森』だけじゃなく、ムササビ自治国家と、冒険者ギルド全体にまで敵に回すという事になるのよ!」

 シャンティーが、端折って説明する。

「ガブリエルって、そんなに権力有るのかよ!」

「そうよ。これも全て、ガブリエルのマスター。ゴトウ・サイトの仇を取る為。
 異界の悪魔ベルゼブブを、殺す為。
 350年間、ひたすら戦力を整えてるの。
 そして、現在の戦力は、例え世界最強の黒龍が相手だとしても、『漆黒の森』の方が、必ず勝つだろう言われてるのよ!」

「そんなガブリエルとタメを張る、ベルゼブブって、一体、どんな奴なんだよ!」

 塩田郎は、とても気になり質問する。
 だって、ベルゼブブは、そんなヤバ過ぎるほど強いガブリエルと、タメを張るほど強いという事だし。

「アンタと同じ世界から来た悪魔よ!」

「嘘だろ?」

 シャンティーの口から、まさかの答えが返ってきた。
 妖怪の類なら、龍とか、九尾の狐とか、一つ目小僧とかなら知ってるけど、蝿の悪魔ベルゼブブなんて、日本で聞いた事ない。

「アンタ、サタンとか、聞いた事ない?」

「伴天連の悪魔だろ? それくらい無学な俺でも知ってるぜ!」

 流石の塩太郎でも、サタンの名前は知っている。確か、伴天連の神様の敵だと認識している。

「ベルゼブブは、アンタが居た世界で、サタンの次に、位が高い悪魔。
 その悪魔が、この世界に来て、力を付けてるの!そう、アンタみたいにね!」

 シャンティーは、手の平に、風の渦巻きを作ってみせて、ニヤリと笑う。

「確かに、俺、この世界に来てから、闘気とかも覚えて、日本に居た時より爆発的に強くなったな……」

「そう、そういう事よ! この世界は魔力で溢れているの!
 そして、種族を問わず、この世界に来た異世界人は、魔力を帯びて強くなる。
 元々、魔力が使える者達にとって、この世界は魔力のリミッターが外れた世界。
 まさに、異界の悪魔にとって、天国なのよ!」

「そんな奴らを、ガブリエルは倒せるのかよ!」

「その為の戦力増強、異世界から、アンタを召喚したのよ!」

「というか、俺じゃなくて、赤龍アリエッタとかに、助けて貰えばいいんじゃないのか?
 赤龍アリエッタ、どう考えても強いだろ!」

「基本、アリエッタは中立。アンタ達が居た世界と、この世界は、兄弟世界みたいなものらしいから、アリエッタは干渉しないの。
 ただ、黒龍だけは別! アイツは、違う異世界からやって来た、イレギュラー。
 黒龍が関わる時だけ、アリエッタは動くの!」

「なんだそれ?」

「兎に角、この世界は、そういう世界なのよ!」

「なんかよく分からんが、黒龍王国は、もう攻めて来ないって事でいいんだよな?」

「そうよ! この話は、もうお終い! とっとと、ヤリヤル城塞都市に戻るわよ!
 アンタの冒険者登録も まだだし、『犬の肉球』の再登録もしなくちゃいけないんだから!」

 シャンティーは、塩田郎に、『犬の肉球』のアタッカーなら、隕石など簡単に弾き飛ばさければならないとか、なんとか講釈していたが、まだ、塩田郎は、『犬の肉球』どころか、冒険者にもなっていなかったようだ。

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