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38. 諦めない男
しおりを挟む塩太郎2回目の挑戦。
「チッ! 3時間以内に、闘気を使わず木刀で、しかも素材を傷付けないように関節狙い。
自分で決めていながら、本当に出来るのかよ!」
塩太郎は、20階層階段フロアー付近で、ジャイアント・アントを叩き斬りながら、SSSS未攻略ダンジョンで身に付けた得意の独り言を言う。
「塩太郎。一応、シャンティー殿の課題は、1週間以内に、闘気を使わず木刀のみで、このA級ダンジョンを攻略する事じゃ。
無理だと思うなら、いつでも関節狙いは、止めていいんじゃからの!」
塩太郎の後ろで素材集めをしているムネオが、塩太郎の独り言に反応して答える。
「ふん。長州男児は、一度決めた事は絶対にやり遂げるんだよ!
絶対に無理だと分かってても、ガムシャラに突き進む。それが、師匠、松蔭先生の教え!
長州男児の、それも松下村塾門下の人間に、諦めるという言葉はないんだよ!」
塩太郎は、手を動かすスピードを上げる。
スピードと正確性、それが会心の一撃を連発するコツ。
一番、最適な場所に素早いスピードで、最短距離で刀を振るう。
まあ、簡単そうで、それが中々出来ないのだが、
カキン!
「チッ! ミスった!」
「塩太郎! 立て直すんじゃ!アリンコ共が押し寄せて来てるぞ!」
「分かってるって!」
塩太郎は、手の痺れをこらえて、自分の中で最適と思える、刀の通り道をなぞるように、刀を振るう。
カキン!
「チッ! また、ズレたか」
2回連続して、会心の一撃を発現できなかった事により、一気にジャイアント・アントの大軍が、塩太郎を数の暴力で飲み込んでしまう。
「塩太郎! 待っておれ!」
ムネオが、一気に闘気を解放し、大盾をジャイアント・アントに向けると、そのまま力任せに、ジャイアント・アントの大軍を、塩太郎が倒れて居る所まで押し退ける。
「ムネオさん……また、失敗しちまった……」
ジャイアント・アントに踏み付けられて、ボロ雑巾のようになってる塩太郎が、掠れた声でムネオに話し掛ける。
「まだ、死んでなかったようじゃな。ほれ、エリスポーションじゃ」
ムネオは、ジャイアント・アントの大軍を大盾でガードしながら、塩太郎にポーションを振り掛ける。
「ありがとう。復活したぞ」
塩太郎は、砂埃を払いながら立ち上がる。
「塩太郎、まだ、心は折れておらぬか?」
ムネオは、少し心配したのか、塩太郎に確認する。
まあ、普通の人間なら、一度、死にかけると、ひよってしまうものなのだ。
「ムネオさん。誰に言ってんだ?
俺は侍だぜ? 侍が、死を恐れる訳ないじゃねーか!
それに、侍の中で、一番気合いが入った長州男児が、少しばかり怖い思いをしただけで引く訳ねーだろ!」
塩太郎が、バカ言っちゃいけねーと、剣呑な目付きで、ムネオを睨みつける。
「侍とは、凄いもんじゃの……。確かに、南の大陸のハラダ家の連中もイカレた所があるが、塩太郎、お主の方が、もっとイカレてるように見えるぞい!」
「そんなの、俺が本物の侍で、長州男児だからだな!
俺が元いた世界で、一番イカレた侍集団は、長州藩の侍なんだぜ!」
塩太郎は、自信満々に言い放つ。
だって、師匠の吉田松蔭を筆頭に、高杉、久坂、伊藤、それにムネオに少し似ている来島又兵衛も、全員、頭のネジが1本、2本飛んだイカレた侍だったし。
「なるほどの~」
なんか、よく分からんが、ムネオが感心している。
「ムネオさん。感心してないで、少し下がりましょうよ!
こんなにキツキツじゃ、刀を振るう隙間もないんで!」
「おお。そうじゃったな! スマン!」
ムネオは、慌てて、塩太郎が刀を振るう空間が出来るくらいまで後退する。
「そんじゃあ、始めますんで、アリンコの素材集め、宜しくお願いしますよ!」
「ああ。分かっちょる!」
てな感じで、5日後。
塩太郎は、1週間待たずして、巨大なアリンコが巣食う、A級ダンジョンを見事攻略する事に成功したのだった。
そして、シャンティーに頼まれていたジャイアントアントの素材100体分を越える、素材100万個を回収してしまったムネオが、素材の処分に奔走したのは、また別の話。
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