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49. 何故か居る男

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 甘いか辛いかのか分からない名前の佐藤 塩太郎を、勇者候補に決めてから、更に1ヶ月が経った。

「やはり、塩太郎を越える勇者候補は居ませんでしたね……」

 日課の京都の夜廻りをしてると、シロが、何故かソワソワしながら話しかけてきた。

「ああ。坂本龍馬とか、桂小五郎とかも、剣の達人だが、二人とも剣を抜かないというか、殆ど戦わないからな……」

「達人ほど、戦いを避けるといいますしね!」

「まあ、今回は、聖剣にする日本刀も一緒に探してるから、2人は却下だな。
 坂本龍馬と桂小五郎の刀、全然、血を吸ってなさそうだし」

「と、すると聖剣候補の日本刀が見たくなって来ますよね!」

「お前、ただ、あのイベントが見たいだけだろ!」

「分かっちゃいます?」

「そりゃあ、分かるだろ! その為に、お前、蛤御門の変が始まる3ヶ月も前に、わざわざ幕末京都に異世界転移して来たんだろ!」

 そう、蛤御門の変が起こる、元治元年は、イベント目白押し。

 3月の水戸天狗党挙兵から始まり、
 6月は、池田屋事件。
 7月は、セドリック達が狙いを定めて訪れた蛤御門の変。
 8月は、四国連合艦隊下関砲撃事件。
 12月は、高杉晋作が決起する功山寺挙兵。

 と、ハッキリ言って、長州藩にとって、悪夢の一年といっていいほど、長州藩士が死にまくるのだ。

 何度も言うが、必死に日本を変えようと、幕末時代に血を流してたのは、長州藩だけ。
 薩摩藩は、何もやってなくて、美味しいとこ取りしただけ。

 蛤御門の変では、薩摩藩は幕府軍に味方して、長州藩士をたくさん殺してるし!

 まあ、その辺の所は置いといて、シロが狙うイベントとは、間違いなく池田屋事件。

 そして、シロが言う聖剣候補とは、新撰組局長、近藤勇の愛剣 長曽祢虎徹 に間違い無い。

 近藤勇が、池田屋事件の時に言ったという、

『今宵の虎徹は血に飢えている』

 という、名台詞は、余りにも有名。

「ご主人様、そろそろ事件が始まる22時ですよ!池田屋に向かいましょうよ!」

 シロは、セドリックを急かしてくる。

「仕方がねぇーーな! そこまで言うなら行ってやんよ!」

 とか言うセドリックも、本当は、今すぐにも見に行きたかった。
 しかしながら、セドリックからシロを誘うと、ミーハーだと思われそうで、シロの口から、池田屋に向かうと言わせたかったのである。

「ご主人様……分かってます? ご主人様の考えてる事、全て筒抜けなんですけど?」

 シロは、呆れながら指摘してくる。

「知ってるわい! それでも、お前の口から言わしたかったんだよ!」

 てな感じで、口喧嘩しながらも、セドリックとシロは、急いで、夜の京都の上空を飛んで、池田屋に向かったのだった。

「ご主人様! 新撰組いますよ!」

 池田屋に到着すると、今まさに、近藤勇率いる池田屋に踏み込む精鋭4人が、池田屋の玄関から中に入って行く所だった。

「史実通りだな!」

「ですね! 表玄関に3人。裏玄関に3人。過激派浪士達が逃げたして来た時に、捕縛する為に配置してますね!」

「池田屋に入ったのは、近藤勇と沖田総司、永倉新八、藤堂平助で、間違い無いな!」

「間違い有りませんね! 新撰組の主要人物の顔と名前は、バッチリ記憶してますので!」

「突入組は、この時代の剣の達人ばかり。じゃなければ、何人居るか分かりもしない敵のアジトに、4人だけで突入しないよな!」

「新撰組は、ちょっとイッちゃってますからね……」

 とか話してると、池田屋の2階の窓から、誰かが飛び降りてきた。

「あっ……。あの人、桂小五郎さんですね……」

 シロが、ポツリと呟く。

「桂小五郎って、池田屋の会合に出席する予定だったけど、『池田屋に行ったものの時間が早かったせいか誰もおらず、出直すつもりで別の場所にいたところ事件が起きていた』って、証言してたらしいけど、しっかり出席してるじゃんかよ!」

 セドリックは、呆れながらも、しっかり突っ込みを入れる。

「逃げの小五郎ですもんね!」

「逃げの小五郎つっても、早すぎだろ!
 近藤勇達が踏み込んでから、10秒も経ってねーぞ!」

「危機察知能力が凄いんじゃないですか?
 じゃなければ、死にたがりばかりの長州藩の中で、明治時代まで生き残れませんしね!」

「というか、逃げ足滅茶苦茶早くない?見張りの新撰組が、抜刀する間も無く、逃げってだぞ!」

「桂小五郎は、腐っても、江戸三大道場の一つ、練兵館の塾頭で、入門1年にして神道無念流の免許皆伝を得た天才ですからね!
 運動神経も、滅茶苦茶凄いんですよ!」

「その余り有る運動神経を、逃げ足に使ってる訳ね……」

 とか、やってると、池田屋の中から、怒号や剣激の音が聞こえるようになってきた。

「始まりましたね……」

「始まったな……」

「中で見たいですよね!」

 歴女のシロが、目を輝かさせて聞いてくる。

「流石に、この時代に関係無い、俺達が入ったら不味いだろ!
 俺、一応、松下村塾が誇る三秀、高杉晋作、久坂玄瑞、吉田稔麿のファンなんだけど。
 中に入っちゃったら、思わず、吉田稔麿助けちゃうかもしれないだろ!」

「助けて、不味いんですか?」

「そりゃあ、不味いだろ! 池田屋の変で死ぬ予定の吉田稔麿助けちゃったら!
 吉田稔麿ほどの大物助けちゃったら、時代が変わっちまうじゃねーかよ!」

 とか、シロと、ワイワイ言いながら、池田屋の上空で観戦してると、

「アッ! 今、佐藤 塩太郎が、人を掻き分け、池田屋の中に入って行っちゃいましたよ!」

「エッ! 嘘だろ! 何で、池田屋に塩太郎が来てるんだ!」

 勇者候補、佐藤 塩太郎。まさかの池田屋参戦!!

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