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64. 決して卑怯じゃない男

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「ほんじゃあ、ここから本番な!」

 腹黒シャンティーの腹黒ショーが終わったのを見計らって、塩太郎が、筋肉ダルマの前に立つ。

「チッ。何だお前。今までの俺達のやられっぷり見てなかったのかよ?
 今更、何かしようたって、俺らには出せる物なんか、何も残ってねーぞ?」

 プライドも自信もズタボロにされてしまった筋肉ダルマが、目の前に立つ塩太郎に吐き捨てるように言う。

「出せる物はあんだろ。お前が持ってる剣王の称号だよ!」

 塩太郎は、獲物を狙う狼のように、目をギラつかせながら言う。

「剣王の称号たって、アンタ、ハラダ家かハラ家の侍かなんかだろ?
 ハラダ家とハラ家は、末席の剣王の称号を、敢えて放置してるんじゃなかったのか?」

 筋肉ダルマは、不思議そうな顔をして聞いてくる。

「俺は、ハラダ家の人間じゃねーよ!」

「何言ってやがるんだ? 侍で、ハラダ家以外の侍なんか居る訳ないだろ?」

「ここに居るだろうが! というか、ハラダ家なんか、本物の侍じゃねーだろうが!
 正真正銘、現役の気合いが入った侍は、この佐藤 塩太郎様だけだっちゅーの!」

 塩太郎は自信満々に言い放つ。
 本物の侍は、長州藩の侍だけ。
 まあ、水戸藩や土佐勤王党の奴等、敵である会津藩の奴等の中には、少々気合いが入った奴等も居たが、死にたがりの長州藩士ほど、気合いが入った侍集団は居ないと、塩太郎は本気に思っている。

「お前は、ハラダ家の人間じゃないから、俺様から剣王の称号を奪いに来たと言うんだな?」

「分かってんじゃねーか! お前を倒して、剣王の称号を奪わねーと、ハラダ家の奴等を、ぶっとばせーねーんだろ?」

 塩太郎は、ニヤリと笑いながら言う。

「そういう事なら勝負してやる。殺されても恨むなよ」

 どうやら、筋肉ダルマも合点がいったのか、殺る気になったようだ。

「死ぬのはお前だっちゅーの!
 アッ! それから死んでも、この俺が持ってる姫ポーションで助けてやるから安心しろよ!」

 塩太郎は、異世界転移と同時に持たされていた、魔法の鞄の中に大量に入っていた姫ポーションを取り出して見せてやる。

「ひ……姫ポーション……」

 筋肉ダルマ達は、口をアングリ開ける。

「なんか知らんが、俺、姫ポーションたくさん持ってるんだよね!」

 塩太郎の言葉に、筋肉ダルマ達は、塩太郎とシャンティーを何度も交互に見やる。

「あの……同じパーティーメンバーなのに、エリスポーションじゃなくて、姫ポーションを使っていいのか……。俺、エリスポーションを使ってないってんで、何度も殺されたのに……」

 筋肉ダルマは、恐る恐る質問してくる。

「ん? 俺、これ使った事ねーけど。
 ずっと、腐った水だと思ってたし。
 今は怪我しても、シャンティーが治してくれるしな!」

「人さえも生き返せる姫ポーションを、腐った水だって……」

 塩太郎の、斜め上行くぶっ飛んだ答えに、筋肉ダルマ達は絶句する。

「そういうこった! 俺は別に姫ポーション使わんから、安心して、ドン!と、掛かってきやがれ!姫ポーションの在庫なら、腐るほどあんからな!」

 そう。心配性のガブリエルは、気に入った者に、姫ポーションを腐るほど渡す習性があるのだ。
 なので、傾向的に、ガブリエルに好かれてる者は、大体、姫ポーションを腐るほど持ってたりする。

「金が掛からんのは、良い事だ。散々、お前の仲間にいたぶられたからな!
 そのいたぶられた苦しみを、全てお前に返してやる!」

 なんか知らんが、筋肉ダルマは滅茶苦茶ヤル気になっている。
 シャンティーから受けた恨みを、全て塩太郎に返すつもりであるようだ。

「お前の気持ちなんてどうでもいいから、早く掛かってきやがれ!」

 塩太郎は、筋肉ダルマに向けて右手を突き出し、ブルース・リーののうに、指でクイクイする。

「馬鹿が! 剣士が、柄から手を離すなんて、どんだけド素人だ!」

 筋肉ダルマは、チャンスとばかりに、巨体な身体に似つかわしく無いスピードで塩太郎の懐に飛び込み、バスターソードを上段から振り落とす。

 それを完全に見切っている塩太郎は、伸ばしていた右手で器用に相手が振り上げてた腕を掴み、そのまま反転し、一本背負いの要領で、相手を石床に向けて思いっきり叩きつける。

「グワッ!!」

 思いっきり、石床に叩き落とされた筋肉ダルマは、口から血を吐き出す。

「ヤッパリ、石床の破壊力は抜群だよな!
 というか、剣士なら、受け身取りやがれ!
 お前、それでも剣王かよ?」

 幕末出身の塩太郎は知らなかった。
 日本の侍以外の剣士は、柔術が使えない事を。
 当たり前のように、剣術道場で柔術も習う日本の侍とは根本的に違う事を、幕末出身の塩太郎は、知らなかったのである。

「グフ……お前、侍じゃなかったのかよ……」

「だから、侍だって! 普通、侍は柔術使うだろ?
 戦いの最中に、刀を落とす事も有るんだし。
 素手でも、戦わんと行けないシュチュエーションなんて、死にほど有るんだし」

 そう、侍は刀が無くても戦えるのだ。
 柔道だって、侍が使ってた柔術が発展してスポーツになったもの。
 まあ、当時の侍が使ってた柔術は、今の柔術より実践的で、地面に落ちてる砂を拾って、相手の目に浴びせる目潰しなんかも立派な技だったりする。

 塩太郎は喋りながらも、流れるようなスピードで、仰向けで横たわる筋肉ダルマの上に座り、現在で言うマウントポジションの姿勢から、筋肉ダルマの両目を、人差し指と中指で躊躇無く突く。

「痛てー! 貴様! なんて事するんだ!」

「ん? 目潰しなんて普通だろ?」

 塩太郎は涼しい顔。
 そんでもって、顔面をタコ殴り。

 筋肉ダルマは、顔面を拳で、後頭部を石床に何度も叩きつけられて、5分程で絶命した。

「これで、剣王になったのか?」

 塩太郎はシャンティーに聞く。

「自分の冒険者ブレスレットを見て見なさいよ!」

 シャンティーに言われて、自分の左手首に付けてる冒険者ブレスレットを確認すると、拳王の称号がいつの間にか彫り込まれていた。

「ん? 拳王?」

 まさかの拳王。意味が分からない。
 塩太郎が、筋肉ダルマの仲間の方を見ると、筋肉ダルマの仲間達が、死んでいる筋肉ダルマの代わりに、筋肉ダルマは剣王の他にも拳王の称号を持っていたと説明してくれた。

「アンタ、拳王も狙ってたんでしょ?結果オーライじゃん!」

 なんかよく分からんが、シャンティーが凄く喜んでいる。
 シャンティー的には、『犬の肉球』に箔が付く称号なら、なんでも欲しいというのが正直な所かもしれないけど。

「まあ、貰って嬉しいけど、本命は剣王の称号なんだよな……。
 やっぱり、殴り殺したんじゃ、剣王の称号は貰えないのか……」

 塩太郎は、喋りながら、筋肉ダルマに姫ポーションを振り掛けて生き返らせる。

「お前ーー! 侍なのに、なんて卑怯な事するんだー!!
 お前のような奴が、侍とは、俺は絶対に認めんぞ!」

 生き返った筋肉ダルマが、飛び起き、絶叫する。

「はぁ~お前、何言ってんだ? 正真正銘の侍の俺が、卑怯な事なんかする訳ねーだろ?」

 塩太郎のまさかの言葉に、筋肉ダルマと、その仲間達。それから、仲間のシャンティーやムネオやエリスまで、嘘だろ?ていう顔をしたのは、言うまでも無い事だった。

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