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74. ギャフンと言わせたい女
しおりを挟む「おっ! 研ぎ屋があるじゃねーか!」
塩太郎は、武器屋で心が折られ凹んでいたのだが、たまたま刀の研ぎ屋を見つけた。
「異世界の研ぎ師の実力も見ときてーな!」
そう、塩太郎は、なんやかんや言っても日本刀オタクなのである。
「研ぎ屋なら、日本刀持ってない時点で営業掛けてこねーだろうし、安心して見学できるしな!」
これが本心。最初の店で、ポッキリ心を折られてしまった後、何軒か良さそうな店を見つけたのだが、もう恐ろしくて武器屋に入れなくなってしまっていたのだ。
「よぉ! 少し、見学させて貰ってもいいかい?」
塩太郎は、軽い気持ちで、研ぎ屋の暖簾を潜る。
「あっ! 塩太郎さん! こんにちは! こんにちは!こんにちは!」
何やら聞き覚えのある、元気な女の声が聞こえる。
「てっ! てめぇーは、オイドン・トラデアルじゃなくて、虎子!
ていうか、何で、こんな所に居るんだ!
さては、てめぇー、俺のストーカーだな!」
塩太郎は、いきなり現れた、オイドン・トラデアル改め、虎子に驚愕する。
「え? 何言ってるんですか? この店は僕の実家ですよ!」
「実家って、ここ研ぎ屋じゃねーか!
お前って、新進気鋭の刀鍛冶じゃなかったのかよ!」
「そうですよ! 僕は新進気鋭の刀鍛冶で、秘密のベールに包まれた天才刀鍛冶オイドン・トラデアル改め、虎子です!」
「じゃあ、何で研ぎ屋なんかやってるんだよ!」
「研ぎ屋をやってるのは、色んな刀を見て、勉強する為ですよ!
ハラハラって、侍の本拠地ハロハロの隣街だから、上物の刀の研ぎ依頼がたくさん来るんですよね!
ほら、僕、天才刀鍛冶だから、刀を研ぐのも物凄く上手いんです!」
虎子は、エッヘンとする。
「というか、名前を隠して研ぎ屋をやってるのか?」
「ですね! 僕ってとても有名ですから、刀屋なんか開いたら、大変な事になっちゃいますし!」
「でも、普通に、店に出て、刀を研いでるんだろ?」
塩太郎は、疑問を口にする。
「僕って、誰にも顔を知られてないんですよ!
見た目もドワーフじゃないし、オイドン・トラデアルって、男のような名前だと言われるので、誰もが、オイドン・トラデアルの正体は、男だと思ってるんですよ!」
「お前、素性を隠して刀鍛冶やってたのかよ?」
「まあ、刀鍛冶の世界は、女だと舐められるので、最初は、男のフリをして刀を売った方が良いって、師匠に言われたんです!
それが、ずっと続いて、今に至ってるという訳ですね!
お陰で、侍が結構居る、このハラハラ城塞都市でも、オイドン・トラデアルと、バレずに研ぎ屋ができちゃうんですよね!」
虎子は、プルルン!と、塩太郎にアピールするように、まあまあたわわな胸を揺らす。
「で、ヤッパリ、塩太郎さんは、未来の妻であるこの僕に、寂しくて会いに来ちゃった訳ですよね!」
虎子は、少しだけたわわな胸を、塩太郎の腕に擦り付けくる。
「そんな訳あるか! それより、貸してる村正を、ちょっと寄越せ!」
「えっ? 塩太郎さん。急に何言っちゃってるんですか?」
「今、直ぐ必要なんだよ! 俺の侍としての尊厳を守る為に。
今のままでは、俺の侍としてのプライドがへし折られたままなんだよ!」
「ちょちょちょ、話に付いていけませんよ!
ちょっと、詳しく話して下さい!」
塩太郎は、虎子に、武器屋での一件を詳しく話す。
「な……なんて、失礼な店主なんですか!
僕の未来の旦那様に、失礼過ぎますよ!
塩太郎さんは、正真正銘の本物の侍なのに!
分かりました! ギャフンと言わせましょう!
ちょっと、待ってて下さいよ!
今、村正持ってきますから!」
なんか、虎子が、塩太郎以上に怒り心頭になっている。
というか、いつ、塩太郎は虎子の未来の旦那になったのであろう。
いつもだったら、塩太郎も言い返す所だが、現在は、知っての通り、塩太郎は心に深い傷を負ってる。
そのせいか、虎子の妄言を自然に受け入れてしまっていた。
まあ、この何も言い返さずにいた事が、後に禍根を残す事となるのだが、それは、もう少し未来の話。
ーーー
虎子、再び登場!
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