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93. 不穏な空気を漂わせる男
しおりを挟むズザン! ズザザーン!!
戦況が進まず、硬直してた『犬の尻尾Dチーム』と、残りのタコ侍キング2匹の戦いの中に飛び込んだ、塩太郎は、そのままの勢いで、タコ侍キング2匹を瞬殺した。
「なっ!?」
『犬の尻尾Dチーム』の面々は、突然の出来事に驚愕している。
「京都の頃の勘が戻ってきたな……これも、薩摩示現流の奴らと相対したからか……」
塩太郎は、とても冷静なのだが、体の奥底から湧き上がる血の滾りが、抑えられなくなってきている。
そう。本当は、ハロハロの道場で、スエキチ爺さんと相対した時から、なんとなく気付いていたのだ。
スエキチ爺さんの構えは、上段でも、左足を前に出し、剣を持った右手を耳の辺りまで上げて、左手を軽く添えるという八相の構えにも似た、薩摩示現流が得意な、蜻蛉の構えだったのだ。
だけれども、塩太郎は、スエキチやハナ達が、薩摩の奴らではないと自分に言い聞かせていた。
塩太郎にとって、ハナやスエキチは、同じ日本から、この異世界にやって来た侍の末裔。
親近感みたいなものを感じてたのである。
まあ、日本からの異世界移転者や転生者は結構居るみたいだが、塩太郎と同じ侍の転移者は、この世界には、ハラダ家、ハラ家の者達しかいない。
それもあってか、塩太郎は、まだ知り合って間も無いというのに、ハラダ家、ハラ家の者達に急速に魅かれたのである。
だけれども、そのハラダ家、ハラ家の者達は、薩摩の侍の末裔。
塩太郎が最も忌み嫌い、何があっても、絶対に許せない裏切り者の薩摩藩の奴らなのである。
塩太郎が、薩摩を許せない理由を語れば、言葉では語り尽くせない。
蛤御門の変で、塩太郎が死ぬキッカケになったのも薩摩の奴らのせいだし、そもそも、薩摩の西郷や大久保とかの大物達は、攘夷志士のような振る舞いをして、大威張りで京都で暗躍してた癖に、大元の薩摩藩自体は、知らぬ存ぜぬで幕府の味方をしていた。
チョイチョイ様子を見て、幕府に背く素振りを見せるが、結局は、蛤御門の変で、幕府の味方をして、にっくき新撰組を運営する会津藩の奴らと組んで、長州藩を京都から追いやったのだ。
兎に角、薩摩の奴らは、その時、その時の強者に尻尾を振る風見鶏なのである。
塩太郎的には、そんな奴らは絶対に許せない。
それに比べ、長州藩は、一貫して、尊皇攘夷を貫いている。まあ、キッカケは、塩太郎の師匠である吉田松陰の暴走なのだけど……。
だけれども、長州の殿様は、「そうせい!」と、吉田松陰の思想に乗っかった。
まあ、元々、中国地方を治める大大名だったのに、関ヶ原で徳川方に負けて、本州の端っこに追いやられた恨みとかもあっただけなんだけどね。
兎に角、長州藩は、薩摩と違い、狡くないのである。
戦局が読めない、アホだとも言えるけど。
まあ、長州藩の場合、中枢で尊皇攘夷の旗を振ってるお偉いさんとかも、吉田松陰の思想に毒されてるのが影響かもしれないけどね。
だって、吉田松陰の辞世の句って、『かくすれば、かくなることと知りながら、やむにやまれぬ大和魂』だもん。
こういう行動をすれば、こうなる事はわかっているのだが、それでもやらなければならないのが大和魂というもの。
これを、長州藩自体が体現してしまってる。
負ける分かっててもやっちゃう。
死ぬと分かっててもやっちゃう。
自分の志。国の未来の為だと信じてやるのが、大和魂なのだ!
なので、長州藩士は狡い事などしない。
そもそも、そんな頭など、最初から使ってないのだ。
長州藩は、国を憂い戦っている。
薩摩藩は、自分の藩が優位になるように狡賢く暗躍している。
長州藩士は、殿様も含め、日本の未来、藩の順番で動き、
薩摩藩士は、殿様、藩、日本の順で動いてるのだ。
まあ、武士道では、主君に仕えるのが侍の本分だから、薩摩藩士の考えが、本来は正しいのかもしれないけど。
そんな理由もあり、長州藩と薩摩藩が、相容れないのは当然の事であった。
そして、塩太郎が死ぬキッカケになった、蛤御門の変により、長州藩と薩摩藩の決裂が、決定的になったのだ。
「俺は、薩摩のヤツらを絶対に許さねえ。それが、この世界で初めて気を許せた、ハナやスエキチ爺さんであってもだ……。
蛤御門の変で死んだいった仲間の恨みを、ハナやスエキチ爺さんの命で晴らさせて貰うぜ」
タコが斬り刻まれた血なまぐさいダンジョンで、不穏な空気が流れた。
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