琴音と鈴 ~心理学実験が目覚めさせたもう一人の私~

枢名ゆい

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変化の兆し_1

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木曜日の午後、私は再び実験室に向かった。
前回のセッション以来、なぜか教授の声が頭から離れなかった。講義中でも、ふとした瞬間に『鈴さん』と呼ばれた時の感覚を思い出してしまう。

「鈴さん、今日もよろしくお願いします」

教授の声を聞いた瞬間、下腹部の奥がじんわりと温かくなった。前回と同じ、あの安らぎに満ちた感覚が蘇ってくるような気がする。

「はい、よろしくお願いします」

私は椅子に座り、先日と同じように呼吸に意識を集中させる。教授の穏やかな声に導かれるまま、意識を深いところに沈めていった。

「とても良いですね、鈴さん。今日はもう少し深いところまで行ってみましょう」

教授の声が、まるで体の中に直接響いてくるような感覚だった。心地よい振動が骨の髄まで伝わってくる。

「鈴さんは今、とても安全で快適な場所にいます。ここでは何も恥ずかしがることはありません」
「はい……」
「今日は、あなたの本当の気持ちについて話しましょう。普段は隠している本当の欲望について、きちんと声に出して教えてください」

教授の言葉一つ一つが耳元をくすぐる。
本当の欲望……?私にそんなものがあるのだろうか。でも、教授の言葉を聞いていると、心の奥で何かがざわめく感覚があった。

「鈴さん、素直になってください。欲望に正直になってください」

教授の言葉が、まるで命令のように心の深いところに響いた。

「あなたは今まで、自分の気持ちを抑えすぎているようです。でも、ここでは違います。ここでは、あなたは自由です」

自由……その言葉に、胸の鼓動が激しくなるのを感じた。
今まで感じたことのない解放感が、全身を包み込んでいく。

「鈴さん、あなたは恋人との関係で物足りなさを感じることはありませんか?」
「……はい」

自分でも驚くほど素直に答えていた。普段なら絶対に口にしない気持ちが、自然に溢れ出てくる。

「どのような時に物足りなさを感じますか?」
「彼は……とても優しい人です。でも、時々……」
「時々?」
「もっと……強引でもいいのに、と思うことがあります」

そんなことを考える自分が恥ずかしくて、普段は心の奥に押し込めていた気持ちだった。

「それは自然な感情です、鈴さん。女性として当然の欲求です」

教授の言葉に、ふっと心が軽やかになった。
こんな気持ちを抱く自分は変なのではないかと思っていたけれど、そうではないのかもしれない。

「鈴さんには、もっと深い快感を味わう権利があります」
「深い……快感……」

その言葉を復唱していると、体の奥がぞくっと締まるような感覚があった。今まで知らなかった、新しい感覚。

「鈴さん、これからは素直になってください。欲望に正直になってください。それがあなたの本当の姿です」
「はい……」
「今日学んだことを、決して忘れないでください。あなたの体は、もっと多くのことを求めています」
「はい……」
「素直な自分を開放してあげてください。そうすれば、あなたの人生はより豊かになります」
「はい……」

その瞬間、心の奥底にあった何かが外れてしまった気がした。今まで閉じ込められていた感情が一気に溢れ出てくる。

「もっと……気持ちよくなりたいです……」
「今日は前回より素直になれたようですね」

ふわふわとした感覚に包まれながら、頭の中が真っ白になっていくのが分かった。

「今日はこのくらいにしておきましょう」

パンと手拍子が遠くで聞こえ、ハッと我に返った。意識が現実に戻り、心臓が激しく脈打っていることに気づいた。

(あれ……私……)

教授と会話していたのは覚えてるけど、途中から記憶が曖昧になっていた。ただただ気持ちの良い空間に身を任せていたことしか覚えていない。

「お疲れさまでした。次回は来週の火曜日にお願いします」
「はい、ありがとうございました」

(私……なんの話してたんだっけ……?)

教授と会って、この間みたいに深呼吸して、それからーーーーー。
思い出せない。いや、思い出してはいけない気がする。あまり考えても仕方がない、そう自分の気持ちを整理しながら実験室を出て廊下を歩いていると、急に下腹部に熱いものが込み上げてきた。

(え……?)

体の芯から湧き上がってくる、今まで感じたことのない感覚だった。

トイレに駆け込むと、下着がかなり濡れているのに気づいた。前回よりもずっと多く、粘り気のある液体が布地を濡らしている。

(なんで……?)

鏡に映る自分の顔は、頬が赤く上気していた。瞳も潤んでいて、まるで熱でもあるかのようだ。
でも、体調が悪いわけではない。むしろ、体の奥が切なく疼くような、今すぐ何かを欲しているような感覚。

(これって……まさか……)

私は慌てて個室に入った。こんな場所で、こんなことを考えるなんて。でも、体の反応は止められない。
無意識に手が下腹部に向かった。スカートの上からそっと触れてみる。

(だめ、こんなところで……)

でも、止められなかった。体の奥から湧き上がる衝動に、理性が負けてしまう。
構内のトイレで、こんなことをしている自分が信じられない。でも、止められない。

「はあっ……はあっ……」

『あなたは今まで、自分の気持ちを抑えすぎているようです。もっと自由になっていいんです』

教授の声が脳内に響き渡った。
自由……その言葉に全身の細胞が震えた。

しばらく個室で息を整えてから外に出た。鏡を見ると、さっきよりも顔が赤くなっている。

(誰にも見られてないよね……)

幸い、トイレには誰もいなかった。私は急いで身だしなみを整えて、その場から逃げるように立ち去った。

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