琴音と鈴 ~心理学実験が目覚めさせたもう一人の私~

枢名ゆい

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変化の兆し_2

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その夜、直樹が部屋に来た。

「今日も例の実験だったんだっけ」
「うん、2回目かな」
「琴音はすごいよなー。俺、そんな毎日真面目になんてできないわ」
「何言ってるのよ」

食べ終わった食器を洗いながら直樹との会話を続ける。何気ない日常、平和な日常。

「でも、うん、きっといい経験させてもらってるんだと思う」
「ま、ほどほどにな」

直樹は私の隣に座り、いつものように肩を抱いてくれた。でも、今日は不思議とその優しさが物足りなく感じられた。

「琴音……」

直樹が私の唇にキスをしてくる。いつもなら心地よく感じるキスなのに、今日は何かが違った。
もっと激しく、もっと強引に……そんな気持ちが湧き上がってくる。

「直樹……」

私は自分から直樹の首に腕を回し、深くキスを求めた。

「わっ、琴音?どうしたの?」

直樹が驚いたような声を上げる。自分でも分からなかった。ただ、体の奥底から溢れてくる衝動を抑えることができなかった。

「なんでもない……ただ、今日は……」

私は直樹の手を取り、自分の胸に当てた。

「琴音……?」
「お願い……」

自分でも驚くほど、欲求が湧き上がってくる。昼間トイレで感じた感覚が蘇り、体の奥が疼いて仕方がない。
直樹は一瞬戸惑いの表情を見せたあと、応じてくれた。でも、彼の触れ方はいつものように優しく、慈しむようなものだった。

(もっと……もっと強く……)

心の中でそう叫んでいるのに、声に出すことはできなかった。直樹は私を大切にしてくれているのに、こんなことを求める自分が恥ずかしかった。

でも、体はどんどん昂っていく。いつもより、強く、激しく……その刺激を求めている自分がいた。

結局、直樹を送り出してからも、体の熱は収まらなかった。
ベッドに一人残された私は、昼間の感覚を思い出しながら、また同じことを繰り返してしまった。

***

翌朝、目が覚めると体が筋肉痛のようにだるかった。
昨夜のことを思い出すと、頬が熱くなる。

(私、どうしちゃったんだろう……)

鏡の前で身支度をしていると、ふと下着に目が留まった。いつものシンプルな白い下着ではなく、レースの付いた薄いピンクのものを身に着けている。

(あれ……?こんな下着、いつ買ったっけ?)

記憶を辿ってみても、思い出せない。でも確かに私のサイズだし、タンスの中に入っていた。きっと前に買って忘れていたのだろう。

大学に向かう電車の中で、直樹からメッセージが届いた。

『昨夜はありがとう。無理もほどほどに』

その文字を見ると、胸の奥がざわついた。嬉しいような、恥ずかしいような、複雑な気持ちだった。

講義中、高瀬教授の姿を見かけた。廊下ですれ違った時、教授と目が合った。

「佐倉さん、調子はいかがですか?変なところとかないですか?」

変、という言葉に一瞬ドキッとしたが、すぐに冷静さを取り戻す。高瀬教授はいつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべている。

「いえ、大丈夫です」
「それは良かった。次回のセッションも楽しみにしています」

教授の言葉に、心臓がドキドキした。次のセッションまで、まだ数日もある。なぜか、とても長く感じられた。

昼休み、友人の紗和と一緒にランチを食べていた。

「琴音、なんか最近雰囲気変わったよね」
「え?そうかな?」
「うん、なんていうか……大人っぽくなったというか」

紗和の言葉に、ドキッとした。

「そんなことないよ」
「そんなこと言って。直樹くんとはどう?最近ラブラブじゃない?」

紗和の指摘に、頬が熱くなった。昨日の夜のことを見透かされているような気がして、慌てて話題を変える。

その後の講義もほとんど頭に入らなかった。

午後の講義が終わって帰宅する途中、またあの感覚が襲ってきた。下腹部が熱くなり、体の奥が疼くような感覚。

(また……?)

今度は我慢しようと思ったけれど、その感覚はどんどん強くなっていく。電車の中で、周りの人に気づかれないよう必死に耐えた。

家に着くと、カバンを放り出しベッドに倒れ込む。

『変なところとかないですか?』

昼間の教授の質問が蘇る。

(これは……何なんだろう……)

自分の体の変化に不安を抱きながらも、不思議と嫌悪感はなかった。むしろ、この新しい感覚に興味を持っている自分もいるような気もする。

スマホが鳴った。確認すると直樹からだった。

「今度の週末、映画でも見に行かない?ほら、あの続編」
「うん!いこいこ!私も誘おうって思ってたの」

でもそう言いながらも、心の底からそう思えない自分がいた。映画を見るより、もっと違うことがしたい。でも、それが何なのか、自分でもはっきりとは分からない。

電話を切った後、私は鏡の前に立った。

映っているのは確かに私だけれど、何かが違う。瞳の奥に、今まではなかった何かが宿っているような気がした。
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