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第77話 コミュ障の自問自答
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イズミに背中を押された夜、サイトウは眠れないまま天井を見つめていた。
「お前が、そういういい奴だからだ! お前の持ってる魅力なんだ!」
イズミの言葉が、何度も頭の中でこだまする。これまで、自分を肯定する言葉をまともに受け入れたことがなかったサイトウにとって、それはあまりにも衝撃的な、そして温かい響きを持っていた。
サイトウは、自分の人生を振り返ってみた。コミュ障ゆえに、人との会話はいつもぎこちなく、周囲からはどこか浮いた存在だった。学生時代も、職場に入ってからも、深く付き合う友人はイズミくらいしかいなかった。そんな自分に、宮内さんのような美人で仕事もできる女性が好意を向けているかもしれないと、イズミは言った。
「本当に……俺みたいなコミュ障を好きになってくれる女性がいるのか……?」
サイトウは、ベッドの上で小さく呟いた。今までもなぜか、周りが自分を好意的に見てくれることはあった。イトーヌの時もそうだったし、地域活性化プロジェクトでも同様だった。だが、それはあくまでサイトウが自覚していない「不思議な能力」の結果であって、素の「自分自身」が愛されることはないと、サイトウは頑なに信じていた。
しかし、イズミは違った。「お前が、いい奴だからだ」と、はっきりと言ってくれた。それは、サイトウの存在そのものを肯定する、たった一人の親友からのメッセージだった。
翌日からのサイトウは、どこか上の空だった。会社でも、宮内さんの顔を見るたびに、イズミの言葉が頭をよぎる。
(宮内さん……俺のこと、本当に気に入ってくれてるのかな……?)
宮内さんが他の人と話しているのを見ると、彼女の笑顔が自分に向けられた時と同じだと分かって、胸がチクリと痛む。そして、自分がコミュ障ゆえに言葉に詰まると、宮内さんが優しくフォローしてくれる。その優しさが、純粋な仕事上の配慮なのか、それともイズミの言う通り、特別な好意の表れなのか、サイトウには分からなかった。
サイトウは、誰かに恋をした経験が一度もなかった。だから、自分の胸の中に渦巻く、このもやもやとした感情が何なのか、自分でも理解できなかった。ただ、宮内さんのことを考える時間が、日に日に増えていくのだけは確かだった。
昼休み、イズミはサイトウの様子がおかしいことに気づいた。
「おい、どうした? ぼーっとしてるけど、宮内さんのことで頭がいっぱいか?」
イズミはからかうように言った。サイトウは、少し驚いたようにイズミを見た。
「いや、違う……ただ、考え事を……」
「フーン。まあいいけどよ。お前がそういう顔してるってことは、色々考え始めたってことだろ。別に無理して答えを出す必要はねぇ。お前のペースで、ゆっくり考えろ」
イズミは、そう言ってからかうのをやめ、優しくサイトウの肩を叩いた。イズミ自身も、親友の心がどう動くのか、興味と不安が入り混じった気持ちで、サイトウを見守っていた。
サイトウは、イズミの言葉に少しだけ心が軽くなった。無理に答えを出さなくていい。そう言われたことで、サイトウは初めて、自分の感情と向き合うための時間を得たのだ。
その日の夜、サイトウはスマホを手に取った。そこには、宮内さんから仕事の連絡が一件入っていた。
『サイトウさん、新しいプロジェクトの資料、確認しました。いつもありがとうございます。』
簡潔な文章だが、サイトウは何度も読み返した。いつもなら、事務的な返信をして終わりだが、サイトウの指は、別の言葉を打とうとしていた。
「ありがとうございます。また、よろしくお願いします」
結局、いつもの定型文を送ってしまったが、サイトウの心臓は激しく鼓動していた。サイトウは、自分の胸の中に、今まで感じたことのない、淡い期待と、かすかな恋心の芽生えを感じ始めていた。
「……宮内さん、本当に俺のこと……」
サイトウは、再び自問自答を繰り返す。しかし、その声には、以前のような絶望的な響きはなかった。
「お前が、そういういい奴だからだ! お前の持ってる魅力なんだ!」
イズミの言葉が、何度も頭の中でこだまする。これまで、自分を肯定する言葉をまともに受け入れたことがなかったサイトウにとって、それはあまりにも衝撃的な、そして温かい響きを持っていた。
サイトウは、自分の人生を振り返ってみた。コミュ障ゆえに、人との会話はいつもぎこちなく、周囲からはどこか浮いた存在だった。学生時代も、職場に入ってからも、深く付き合う友人はイズミくらいしかいなかった。そんな自分に、宮内さんのような美人で仕事もできる女性が好意を向けているかもしれないと、イズミは言った。
「本当に……俺みたいなコミュ障を好きになってくれる女性がいるのか……?」
サイトウは、ベッドの上で小さく呟いた。今までもなぜか、周りが自分を好意的に見てくれることはあった。イトーヌの時もそうだったし、地域活性化プロジェクトでも同様だった。だが、それはあくまでサイトウが自覚していない「不思議な能力」の結果であって、素の「自分自身」が愛されることはないと、サイトウは頑なに信じていた。
しかし、イズミは違った。「お前が、いい奴だからだ」と、はっきりと言ってくれた。それは、サイトウの存在そのものを肯定する、たった一人の親友からのメッセージだった。
翌日からのサイトウは、どこか上の空だった。会社でも、宮内さんの顔を見るたびに、イズミの言葉が頭をよぎる。
(宮内さん……俺のこと、本当に気に入ってくれてるのかな……?)
宮内さんが他の人と話しているのを見ると、彼女の笑顔が自分に向けられた時と同じだと分かって、胸がチクリと痛む。そして、自分がコミュ障ゆえに言葉に詰まると、宮内さんが優しくフォローしてくれる。その優しさが、純粋な仕事上の配慮なのか、それともイズミの言う通り、特別な好意の表れなのか、サイトウには分からなかった。
サイトウは、誰かに恋をした経験が一度もなかった。だから、自分の胸の中に渦巻く、このもやもやとした感情が何なのか、自分でも理解できなかった。ただ、宮内さんのことを考える時間が、日に日に増えていくのだけは確かだった。
昼休み、イズミはサイトウの様子がおかしいことに気づいた。
「おい、どうした? ぼーっとしてるけど、宮内さんのことで頭がいっぱいか?」
イズミはからかうように言った。サイトウは、少し驚いたようにイズミを見た。
「いや、違う……ただ、考え事を……」
「フーン。まあいいけどよ。お前がそういう顔してるってことは、色々考え始めたってことだろ。別に無理して答えを出す必要はねぇ。お前のペースで、ゆっくり考えろ」
イズミは、そう言ってからかうのをやめ、優しくサイトウの肩を叩いた。イズミ自身も、親友の心がどう動くのか、興味と不安が入り混じった気持ちで、サイトウを見守っていた。
サイトウは、イズミの言葉に少しだけ心が軽くなった。無理に答えを出さなくていい。そう言われたことで、サイトウは初めて、自分の感情と向き合うための時間を得たのだ。
その日の夜、サイトウはスマホを手に取った。そこには、宮内さんから仕事の連絡が一件入っていた。
『サイトウさん、新しいプロジェクトの資料、確認しました。いつもありがとうございます。』
簡潔な文章だが、サイトウは何度も読み返した。いつもなら、事務的な返信をして終わりだが、サイトウの指は、別の言葉を打とうとしていた。
「ありがとうございます。また、よろしくお願いします」
結局、いつもの定型文を送ってしまったが、サイトウの心臓は激しく鼓動していた。サイトウは、自分の胸の中に、今まで感じたことのない、淡い期待と、かすかな恋心の芽生えを感じ始めていた。
「……宮内さん、本当に俺のこと……」
サイトウは、再び自問自答を繰り返す。しかし、その声には、以前のような絶望的な響きはなかった。
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