コミュ障なのにコミュ力MAXで困ってます

西東キリム

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第78話 自覚する、初めての恋

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 数日後。地域活性化プロジェクトは、いよいよ佳境に入っていた。サイトウは、宮内さんと連日打ち合わせを重ね、プレゼン資料の作成に追われる日々を送っていた。

 忙しさの極みの中で、サイトウはイズミの言葉を考える余裕もなくなっていた。しかし、その代わりに、宮内さんの仕事に対する真摯な姿勢を間近で見る機会が増えた。
 宮内さんは、チームメンバーの一人ひとりの意見を尊重し、丁寧に耳を傾ける。時には、厳しい決断を下さなければならない場面もあったが、その決断には必ず明確な理由と、プロジェクトを成功させたいという強い情熱があった。

 ある夜遅く、サイトウと宮内さんの二人が市役所の会議室に残って作業をしていた。サイトウは、宮内さんの手伝いをしていたが、彼女の集中力に圧倒されていた。

「宮内さん、もう遅いので、今日はこの辺にしませんか?」

 サイトウが恐る恐る声をかけると、宮内さんはハッと我に返ったようにサイトウを見た。

「あ、ごめんなさい。つい夢中になってしまって。サイトウさんも、もう帰って大丈夫ですよ」

 宮内さんは、サイトウに優しい笑顔を向けた。サイトウは、その笑顔に心が締め付けられるような感覚を覚えた。

「い、いえ、大丈夫です。手伝わせて、ください……」

 サイトウは、宮内さんの役に立ちたい、という強い気持ちを抱いていた。それは、これまで感じたことのない、特別な感情だった。

 翌日。プレゼン本番を翌日に控えた夜、サイトウはイズミと家にいた。サイトウの顔には、疲労の色が濃く出ていた。

「おい、顔色悪いぞ。大丈夫か?」

 イズミが心配そうに声をかけると、サイトウは、いつものようにどもりながら、しかし、しっかりとした目でイズミを見た。

「イズミ……俺、宮内さんが……」
「なんだ? やっぱり、美人さんと二人きりは、コミュ障にはキツイか?」

 イズミはからかうように言ったが、サイトウの真剣な表情に、すぐに口をつぐんだ。

「宮内さん、仕事に、すごく真面目なんだ。どんなに忙しくても、笑顔を絶やさなくて……みんなのことを、ちゃんと見てくれて……」

 サイトウは、言葉を選びながら、宮内さんのことを話し始めた。イズミは、サイトウの言葉から、サイトウが宮内さんに尊敬の念を抱いていることを感じ取った。

「その、頑張っている姿を見ていたら……俺も、宮内さんを応援したいって、宮内さんの力になりたいって、強く思うようになって……」

 サイトウは、そこで言葉を詰まらせた。自分の胸の中にある感情が、何なのかを、はっきりとイズミに伝えることができなかったのだ。

 イズミは、サイトウの言葉を黙って聞いていた。そして、サイトウの顔が、ほんの少し赤くなっていることに気づいた。

「……それで? それ、なんていうか知ってるか?」

 イズミがそう尋ねると、サイトウは、驚いたようにイズミを見た。

「なに……?」
「それをな、恋って言うんだよ」

 イズミの言葉に、サイトウはハッと息をのんだ。そして、自分の胸に手を当てた。そこには、先日からずっと感じていた、温かくて、苦しくて、少しだけわくわくするような感情があった。

「……俺、宮内さんのことが……」

 サイトウは、自分の感情が何なのかを、初めて自覚した。それは、コミュ障の自分には縁のないものだと思っていた「恋」という感情だった。

 イズミは、サイトウの動揺を静かに見守っていた。親友の初めての恋心に、イズミは少しだけ胸がチクリと痛むのを感じたが、それ以上に、自分の言葉がサイトウの背中を押せたことに、安堵のような気持ちを覚えていた。

「小学生でも知ってるぞ」

 イズミがいつものようにからかうような態度で笑って言った。
 サイトウは、自分の感情を自覚し、初めての恋に胸を焦がし始めるのだった。
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