コミュ障なのにコミュ力MAXで困ってます

西東キリム

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第30話 親友の休息と、静かな朝の気遣い

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 社員旅行から帰ってきてから、特に大きなドタバタもなく、平和な日々が続いていた。会社では、サイトウの能力が引き起こした様々な出来事(ナンデモフーズ、社長とのゴルフ、田中くんと藤原さんのこと、そして社員旅行での「活躍」)により、サイトウへの評価はさらに高まっているようだったが、サイトウ自身はそれに慣れることもなく、相変わらず人との関わりに困惑しつつも、以前のような極端な騒動は落ち着いていた。

 しかし、最近はイズミの担当している仕事が忙しいらしく、イズミの帰宅時間が遅い日が続いていた。終電を逃したり、徹夜で会社に泊まったりすることも珍しくない。そのため、サイトウは家で一人で夕食を食べる日が増えていた。イズミがいる時は、イズミが美味しい料理を作ってくれるので、サイトウにとって一人での食事は少し寂しい。

 イズミは元々タフな方だが、さすがに深夜帰宅や徹夜が続くとキツイようだ。顔色が少し悪かったり、目の下にクマができていたりするのをサイトウは心配していた。サイトウは、イズミに何かできることはないかと思っていたが、イズミの仕事を手伝うこともできないし、気の利いた言葉をかけて励ますのも苦手だ。ただ、イズミが帰ってきた時に「おかえり」と言ったり、温かい飲み物を用意したりすることくらいしかできなかった。

 土日は休めるようで、今日の土曜日はイズミはまだ寝ている。普段なら朝早くに起き出してくるイズミにしては珍しく、もう9時を回っているのに、イズミが部屋から起きてくる気配がない。

(疲れてんだろうな……)

 サイトウは、イズミのことを思って胸が痛くなった。いつも自分を助けてくれて、世話を焼いてくれるイズミ。能力のせいでトラブルに巻き込まれる自分を、いつも隣で支えてくれるイズミ。そんなイズミが、仕事で疲れてぐったりしている。サイトウは、イズミに何かしてあげたいと思った。

 そうだ。朝食を作ってやろう。

 サイトウは料理があまり得意ではない。イズミのように手際よく何品も作るなんてできないし、味もイズミには及ばないだろう。でも、イズミのために何か作りたい。サイトウは、イズミのために頑張ろうと決心した。

 サイトウは静かにベッドルームから抜け出し、台所へ向かった。冷蔵庫を開けて、食材を確認する。簡単なものしか作れないが、イズミが喜んでくれるようなものを作ろう。サイトウは、フライパンや鍋を取り出し、料理を始めた。トーストに目玉焼き、サラダくらいならできるだろうか。あるいは、イズミが風邪を引いた時に作ってくれたような、優しい味のおかゆが良いだろうか。サイトウは、イズミの寝息を邪魔しないように、なるべく音を立てないように、不慣れな手つきで料理を進めた。
 卵を割ってフライパンに落とす。サラダ用にレタスを洗う。サイトウは、イズミが料理をしている時の手際の良さを思い出しながら、一生懸命に作業をした。

 それからしばらくして、サイトウがトーストを焼き終え、目玉焼きをお皿に乗せようとしていると、背後から眠そうな声が聞こえてきた。

「……おはよう」

 サイトウは、その声に気づき、振り返った。イズミが、部屋から出てきたところだった。髪は少し乱れていて、眠そうに目をこすっている。いつものクールな雰囲気は鳴りを潜め、ただ疲れた様子のイズミがそこにいた。

 サイトウは、イズミが起きてきたことと、その疲れた様子を見て、心配になったが、朝食がもうすぐできることを伝えようと、明るく声を掛けた。

「おはよう、イズミ! 起きたんだね!」

 サイトウは、少しだけ声が上ずった。

「朝食、もうすぐできるから! 座って待っててよ!」

 サイトウは、イズミが料理をしている自分を見て、少し驚いていることに気づいた。普段、サイトウが朝食を作ることはほとんどないからだろう。イズミは、まだ眠そうな目をしながらも、サイトウが作った料理が並べられたテーブルを見た。

「おお……なんか、いい匂い……サイトウが作ってくれたのか……?」

 イズミは、少しだけ驚きと、かすかな感謝の気持ちが混じったような声で尋ねた。

「うん! ちょっと簡単なのしか作れないけど……イズミ、最近仕事忙しそうだから……」

 サイトウは、照れながら答えた。
 イズミは、サイトウの言葉を聞いて、フッと優しい笑みを浮かべた。そして、サイトウが作った朝食が並べられたテーブルに、ゆっくりと腰を下ろした。

「ありがとうな、サイトウ……助かるよ」

 イズミのその一言が、サイトウには何より嬉しかった。イズミのために何かしてあげられたという満足感。
 サイトウは、少し不格好かもしれないが、心を込めて作った朝食をテーブルに並べた。トースト、目玉焼き、簡単なサラダ。そして、インスタントだが温かいスープ。豪華ではないが、サイトウにとって、イズミへの感謝と気遣いが詰まった朝食だ。
 イズミは、サイトウが作った朝食を見つめながら、再びサイトウを見た。その目は、先ほどの眠たげな目ではなく、サイトウへの感謝と、温かい気持ちが宿っているように見えた。

「……いただきます」

 イズミが静かに手を合わせ、朝食を食べ始めた。サイトウも、イズミの隣に座り、自分が作った朝食を食べる。イズミは、美味しいとは言わないが、静かに、そして丁寧にサイトウの作った朝食を食べてくれた。

 サイトウは、朝の光が差し込む台所で、イズミの隣に座り、自分が作った朝食をイズミが食べているのを見ながら、心満たされていた。イズミが疲れているのは心配だが、こうしてイズミのために何かしてあげられることが、サイトウには嬉しかった。
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