コミュ障なのにコミュ力MAXで困ってます

西東キリム

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第49話 喫茶店の対面

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 堂島さんからの電話から数日後。指定された日時の午後二時、サイトウとイズミは、会社からほど近い、少しお洒落な喫茶店の前で立ち止まっていた。

「ここか……」

 サイトウは、店の入り口を見上げ、緊張でごくりと喉を鳴らす。普段あまり足を踏み入れないような、落ち着いた雰囲気の店だ。

「おいおい、そんなビビってたら、店に入る前から堂島に食われるぞ」

 隣でイズミがニヤニヤしながら、サイトウの肩を軽く叩いた。その言葉に、サイトウは余計に胃がキリキリする。

「だ、だって、いきなり『個人的に話がある』なんて言われても……」
「大丈夫だって。万が一の時は、この俺様が守ってやるから」

 イズミはそう言って、胸を叩いた。そのおどけた態度に、サイトウは少しだけ緊張が和らぐのを感じた。イズミが一緒で本当に良かった。
 深呼吸をして、二人は喫茶店のドアを開けた。店内は、午後の落ち着いた時間帯ということもあり、さほど混み合ってはいない。窓際の席に目をやると、そこに、目的の人物はすでに座っていた。

 堂島玲だ。

 彼は、サイトウたちに気がつくと、スッと立ち上がった。その姿勢は、モデルのように完璧で、周囲の客の視線が自然と彼に集まる。

「サイトウさん。お越し頂きありがとうございます」

 堂島は、サイトウに向かって軽く頭を下げた。その顔には、相変わらず感情の読めない、しかし完璧な笑みが浮かんでいる。そして、サイトウの隣に立つイズミに視線を移すと、彼の眉がわずかにピクリと動いた。

「イズミさんもご一緒でしたか。これはどうも」

 驚きはしたようだが、すぐに冷静さを取り戻し、「想定内」とでも言うかのように表情を整える。イズミは、そんな堂島の視線を真っ向から受け止め、軽く会釈を返した。
 サイトウたちが勧められた席に着くと、堂島はすぐに話し出した。

「まずは、ナンデモフーズの内製化の件、おめでとうございます。まさか、私が負けるとは夢にも思っていませんでした」

 堂島の言葉は、サイトウの耳には、心からの祝福というよりも、むしろ探るような響きに聞こえた。そして、「負ける」という言葉を、まるで何か重大な謎を解き明かしたいかのように、ゆっくりと発した。

「つきましては、サイトウさん。お伺いしたいことがあります。一体、どんな手を使ったんですか?」

 堂島の視線は、サイトウの目を真っ直ぐに捉えていた。その視線は、まるでサイトウの心の奥底を見透かそうとしているかのようだ。サイトウは、その問いの真意が掴めず、思わず固まってしまった。

(え? どんな手って……。まさか、俺が何か、裏で卑怯な手を使ったとでも思ってるのか!?)

 コミュ障ゆえに、相手の真意を読み取るのが苦手なサイトウは、堂島の言葉をそのまま受け取ってしまった。顔色を真っ青にし、慌てて否定しようと口を開く。

「い、いえ! そんな! 俺は、そんな卑怯なことなんて、何もしてません!」

 サイトウは、身振り手振りを交えながら、必死に潔白を主張した。だが、その焦りは、余計に「何か隠している」かのように見えてしまう。堂島の顔に、微かな笑みが浮かんだような気がした。
 その時、これまで黙って二人のやり取りを見ていたイズミが、冷静な声で口を挟んだ。

「堂島さん」

 イズミの声は、静かだが、場の空気を一変させる力を持っていた。堂島の視線が、サイトウからイズミへと移る。イズミは、腕を組み、堂島をまっすぐ見据えていた。

「人を詮索する前に、ご自身のことをまず話された方がよろしいんじゃないですかね?」

 イズミは、堂島の挑発的な問いかけの意図に、すでに気づいていた。堂島が知りたいのは、サイトウが使った「技術的な手段」ではない。堂島の『扇動力』を凌駕した「何か」の正体を探ろうとしているのだと、イズミは直感していた。
 堂島の完璧な表情が、一瞬だけ固まったように見えた。イズミの言葉が、彼の核心を突いたことを示していた。喫茶店に、微かな緊張感が漂う。サイトウは、目の前で繰り広げられる二人の静かな攻防に、ただただ戸惑うばかりだった。

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