コミュ障なのにコミュ力MAXで困ってます

西東キリム

文字の大きさ
59 / 95

第59話 突然の家飲み

しおりを挟む
 ボーリングにビリヤード、そしてダーツと、スポーツパーク・ワンダフルでの時間はあっという間に過ぎ去った。気がつけば、窓の外は茜色に染まり、夕暮れの帳が降り始めていた。

「わー、もうこんな時間だ!」

 結菜が、楽しかった一日の終わりを惜しむように声を上げた。小西くんも、名残惜しそうにダーツボードを見つめている。

「じゃあ、そろそろ行くか」

 イズミの言葉で、四人はスポーツパーク・ワンダフルを後にした。夕食は、近くの駅ビルにあるフードコートで済ませることになった。賑やかなフードコートで、四人はそれぞれ好きなものを注文し、他愛のない会話をしながら一日を振り返った。

 食後、結菜は電車で帰るため、サイトウとイズミ、小西くんの三人で駅まで送り届けた。

「今日はありがとうございました! とっても楽しかったです!」

 結菜は、にこやかに手を振り、改札へと消えていった。小西くんは、その姿が見えなくなるまで、じっと見送っていた。

「さーて、俺たちも帰るか」

 イズミがそう言って歩き出すと、サイトウもそれに続いた。だが、ふとイズミが隣を歩く小西くんの方を振り向いた。

「おい、小西。お前は帰り道こっちじゃないだろ?」

 小西くんが、サイトウとイズミと同じ方向へ歩いていることに気づいたのだ。小西くんの顔は、少し緊張しているように見えた。

「え、あ、はい! あの……」

 小西くんが言いよどむと、イズミは眉をひそめた。

「なんだよ、まさか、ついてくる気か?」

 イズミの怒声が、静まり始めた駅前の通りに響いた。小西くんは、ビクリと肩を震わせたが、意を決したように言った。

「あの! 明日は日曜なんだし、今日は三人でサイトウ先輩の家で家飲みしませんか!? 俺、サイトウ先輩とイズミ先輩と、もっとお話したいんです!」

 小西くんは、なぜか前のめりになって、とんでもない提案をしてきた。サイトウは、突然の展開に困惑し、小西くんとイズミの顔を交互に見る。イズミは、小西くんの勝手な提案に呆れた顔をしていたが、次の瞬間、ある考えが閃いたようだ。

(ちょうどいい……!)

 イズミの顔に、ニヤリとした笑みが浮かんだ。

「ほう、家飲み、だと? 面白いじゃねぇか。いいぜ、今日はとことん付き合ってやるよ、小西」

 イズミは、普段のクールな表情からは想像もつかないほど、獲物を狙うような目で小西くんを見た。サイトウは、イズミの変貌ぶりに困惑する。

「え、イズミ? 大丈夫か? なんだか、すごくいやらしい顔してるけど……」
「ああ、最高の機会だ。ユナに手を出さないように、しっかり言い聞かせてやるからな……!」

 イズミは、サイトウではなく、小西くんの方を真っ直ぐ見据えて不敵に笑った。小西くんは、イズミのただならぬ雰囲気に、少し後ずさりしている。

 かくして、サイトウの家で急遽、男三人での家飲みが決定した。イズミの承諾を得た後、三人は最寄りのスーパーに立ち寄り、酒と肴を買い込んだ。サイトウは、こんな展開になるとは夢にも思っていなかったが、どこか浮かれた様子のイズミと、緊張しきった小西くんを見て、呆れつつも少しだけ面白く感じていた。

 そして、サイトウの家。
 ビールやチューハイ、唐揚げや枝豆、ポテトサラダなどがテーブルに並べられ、ささやかな宴が始まった。酒が進むにつれ、イズミの口調はさらに大胆になっていく。

「おい、小西! お前、俺の妹に変な気を起こしたらただじゃ済まさねぇからな! お前みたいなサイトウフリークに可愛い妹は絶対渡さねぇ!」

 イズミがドスの利いた声で言い放つと、小西くんの顔はみるみるうちに真っ赤になった。サイトウは、そんな小西くんの様子を見て、アルコールのせいかと勘違いしている。

「小西くん、酔っぱらうの早いな。まだ一杯目だよ?」

 サイトウが呑気なことを言う傍らで、小西くんは慌てふためいて否定した。

「お、俺は別にそんなこと……お、思ってたりしませんよ!」

 小西くんは、顔を真っ赤にしたまま、必死に手を振って否定する。だが、その顔は正直だった。

「……確かに結菜さんはとても可愛かったですが……」

 小西くんは、イズミから視線を外し、恥ずかしそうに小声で付け加えた。その言葉を聞いたイズミの眉がピクピクと動き、顔に苛立ちの色が浮かんだ。
 イズミと小西くんがギャーギャーと言い合いながら、楽しそう(?)に酒を飲んでいる。その様子を、サイトウはビール片手に眺めていた。

(なんだかんだ言って、こういうのも、楽しいものだな)

 普段はコミュ障で人と深く関わることを避けていたサイトウだが、目の前で繰り広げられる、騒がしくも温かい光景に、じんわりと心地よさを感じていたのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...