コミュ障なのにコミュ力MAXで困ってます

第60話 酔いどれ小西の本音

　サイトウの家での家飲みは、ビールやチューハイが次々と空になり、賑やかさを増しており、イズミと小西くんの結菜を巡る攻防は続いていた。

「ほう？　ユナが可愛かった、だと？　おい小西、お前、さっきから随分と口が滑らかになってきたじゃねぇか」

　イズミは、さらに小西くんを煽るように、ニヤリと笑った。小西くんは、イズミの言葉にビクリと肩を震わせる。

「イ、イズミ先輩、そんな……！」
「そんなことない、って顔じゃねぇな。図星だろ？」

　イズミの追及に、小西くんは言葉に詰まった。彼は、グラスに残ったビールを一気に煽ると、勢いよくテーブルに置いた。

「ぐっ……！　もう一杯ください！　サイトウ先輩！」

　小西くんは、なぜかサイトウに助けを求めるように、グラスを差し出した。サイトウは、困惑しながらも、言われるがままにビールを注いでやる。小西くんは、それをまた一気に飲み干した。

「はぁ～～～～！　いやぁ、サイトウ先輩とイズミ先輩とこうして飲めるなんて、本当に夢のようです！」

　小西くんは、顔を真っ赤にして、呂律が回らなくなってきた。明らかに酔いが回ってきている。

「サイトウ先輩は、俺の人生の目標です！　仕事もできて、人望も厚くて、それでいて謙虚で……！」

　小西くんは、突然サイトウへの尊敬の念を語り始めた。サイトウは、褒められ慣れていないためか、照れたように頭を掻いている。

「いや、そんなことないよ、小西くん……」
「そんなことありますよ！　俺、サイトウ先輩みたいになりたくて、私生活まで観察しに来たんですから！」

　小西くんは、身振り手振りで熱弁を振るう。

（……そう言えばそうだったな……）

　サイトウとイズミは、小西くんの言葉に、今日の最初の来訪目的を思い出し、互いに顔を見合わせ苦笑した。
　その後、イズミは、また何か話し出しそうな小西くんの様子を冷めた目で見ていた。

「……そして、結菜さん……」

　小西くんの声が、急にしおらしくなった。イズミは、その言葉にピクリと反応する。サイトウは、相変わらず小西くんの様子を温かく見守っている。

「結菜さんは……本当に、天使のようでした……」

　小西くんは、うっとりとした表情で、遠くを見つめるように呟いた。イズミの眉間のシワがさらに深くなる。

「あの笑顔……あの優しさ……俺、あんなに素敵な女性に会ったのは初めてです……」

　小西くんは、まるで夢見る乙女のように、結菜への想いを語り始めた。その言葉は、イズミの神経を逆撫でする。

「おい小西、いい加減にしろ！」

　イズミが咎めるが、小西くんはもうイズミの声など聞こえていないようだ。

「俺……俺、結菜さんのこと……」

　小西くんが、さらに言葉を続けようとした、まさにその時だった。

「……すぅ……すぅ……」

　小西くんは、突然、ガクンとテーブルに突っ伏し、そのまま深い寝息を立て始めた。完全に酔いつぶれてしまったのだ。

「……寝た」

　イズミが呆れたように呟いた。
　サイトウは、小西くんが風邪を引かないようにと、近くにあったブランケットをそっとかけてあげる。

「小西くん、確かに今日は頑張ってたしね」

　サイトウが苦笑しながら言うと、イズミはそんなサイトウの鈍感さに再びため息をついた。しかし、泥酔して眠る小西くんの顔を見て、イズミの表情は少し複雑だった。

（……まさか、あそこまで本気だったとはな……）

　兄としては、妹に近づく男は全て敵だが、小西くんの純粋な（そして、ちょっと残念な）想いを目の当たりにし、イズミの心には、ほんの少しだけ、彼に対する見方が変わったような、複雑な感情が芽生えていたのだった。