コミュ障なのにコミュ力MAXで困ってます

西東キリム

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第61話 家飲みの朝と新たな予感

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 重い頭痛と、見慣れない天井。小西くんは、うっすらと目を開け、自分がサイトウの家のリビングで寝ていたことに気づいた。昨夜の家飲みの記憶が、断片的に脳裏をよぎる。

 イズミ先輩に煽られ、結菜さんへの想いを語り……。

(うわあああああああ! 何てことをしてしまったんだ、俺は!!)

 恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じながら、小西くんはブランケットにくるまって身悶えた。

 そうこうしていると、リビングの奥の部屋から、のそのそとイズミとサイトウが起きてきた。二人とも、まだ寝ぼけ眼だ。

「お、おはようございます……」

 小西くんが蚊の鳴くような声で挨拶すると、サイトウが少し眠そうに目を擦りながら答えた。

「おはよう、小西くん」

 イズミは、小西くんの顔を一瞥し、ニヤリと口角を上げた。

「おー、おはよう。昨日はずいぶん気持ちよさそうにしゃべってたな? 覚えてんだろうな?」

 イズミの言葉に、小西くんの顔はみるみるうちに真っ赤になった。

「じ、自分、何言いましたっけ!?」

ととぼけようとするが、真っ赤な顔で言われてもバレバレだ。イズミは、そんな小西くんの様子を面白そうに眺めながら、心の中で呟いた。

(こいつ……悪いやつじゃないってのはわかってんだよな……真面目で真っ直ぐのバカ野郎……)

 イズミは、一呼吸置いて、真剣な眼差しで小西くんを見据えた。

「小西。これだけは言っておく。ユナは大事な俺の妹だ。おかしなことだけはするんじゃねえぞ」

 その言葉に、小西くんの目が大きく見開かれた。顔の赤みがさらに増し、期待と興奮が入り混じったような表情になる。

「それって……結菜さんとの交際を認めてくれるってことですか!?」

 小西くんは、前のめりになってイズミに詰め寄った。イズミは、そのあまりの勘違いっぷりに、呆れを通り越して怒りを覚える。

「お前は本当にバカだな! 認めるも何もお前とユナは何も始まってねえ!」

 イズミの怒声がリビングに響き渡る。サイトウは、二人のやり取りを微笑ましく見守っている。

「それはそうなんですが……イズミ先輩! これからは兄貴って呼ばせてください!」

 小西くんは、イズミの怒りなど意に介さず、さらに図々しいことを言い出した。イズミは、頭を抱えて唸る。

「はぁ!? なんでそうなるんだよ!」

 朝からギャーギャーと言い合っているイズミと小西くんを見て、サイトウはなんだかホッコリとした気持ちになっていた。

「あー、もう、うるせえうるせえ、朝から騒ぐな。それより腹減っただろ。準備するから待ってろ」

 イズミはそう言いながら、みんなの分の朝食を準備し始めた。簡単なトーストと目玉焼き、コーヒーだが、イズミの手際の良い動きで、あっという間に食卓に並べられた。三人はそれを美味しく平らげてから、小西くんは恐縮しきった様子でサイトウの家を後にした。

「あ~やっとゆったり過ごせるぜ」

 小西くんを見送った後、イズミはソファに深く身を沈め、大きく伸びをした。

「大変な休みだったよね。でも俺はイズミやみんなと騒げて結構楽しかったかも」

 コミュ障のサイトウにしては珍しい感想を口にすると、イズミは「フン」と鼻を鳴らしたが、その表情はどこか満足げだった。二人はソファでダラダラとテレビを見たり、雑誌を読んだりして、残りの休日を過ごした。

 夕食も二人で簡単に済ませ、休日の終わりが近づいた頃。サイトウのスマートフォンの画面が光り、メールの通知が入った。差出人は、なんと国木田社長だ。
 サイトウは、恐る恐るメールを開くと、そこには短いながらも重々しいメッセージが記されていた。

『明日出社したら、社長室まで来てくれ』

 その内容を見たサイトウの顔は、みるみるうちに顔面蒼白になった。社長直々、しかも休日終わりにこんなメールが来るなど、前代未聞だ。何か重大な問題を起こしたのか、それとも……。

 サイトウのただならぬ様子に、イズミが気づいた。

「どうした? 死んだ魚みたいな顔して」

 サイトウは、震える手でスマホをイズミに見せた。イズミはメールの内容を一読し、目を丸くした。

「すげーな、社長直々にメールかよ。なんかすごい話でもあんじゃねえか?」

 イズミは茶化すように言ったが、サイトウの顔はますます青ざめるばかりだった。

 コミュ障なのにコミュ力MAXで困っているサイトウ。不安な兆しを残し、サイトウの休日は終わっていくのだった。
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