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第一章 目覚めの音
2.黒波燦の目覚め
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声に恋する、なんて笑い話だと思ってた。
穏やかで体温を感じる、それでいて甘くてどこか色気がある。奥にはきっと眠っている熱さがあるんだろうと思わせる響き。
こんな声は初めてだった。
感情に気づくよりも先に耳が欲しがった。曲を最後まで再生し終わったところですぐにループ再生。もっと聞かせて欲しい。もっと。もっと。
何度も同じ曲を繰り返し聞いて、やっと我に返ったのはだいぶ時間が経った頃。
間違いなく俺の耳は、脳は、心は、彼の声に支配されてしまった。
あるいは、もう恋と呼んでいいのかもしれない。
黒波燦、といったら自分で言うのもおこがましいが「時の人」だ。
名前を聞けば「大河に出てた」「あのCMの」「ああ、あきさんね!」「男前ランキング一位の」「映画のあの役良かったよね」と反応がもらえる位には俺の存在はお茶の間になじんでいる。
「アキ坊!オッス!!」
「わっ」
有名音楽メーカーのビルのエントランスで突然顔を覗き込まれて、ぎょっと立ち止まる。今日の仕事の相手である女性音楽プロデューサー、天音透子さんだった。
でかいバッグを下げた長身の彼女は、ショートヘアのすっぴんに年齢不詳の人懐っこい笑みを浮かべていた。俺は急いで仕事用の顔に切り替える。天井の照明は右から。一番映える角度で。
「透子さん、おはようございます。あの、アキ坊って俺のことで……俺のこと?」
お互い敬語禁止と言い渡されていたのを思い出して言い直したが、透子さんはぶはっと吹き出した。
「もう笑っちゃうほどイケメンだね、相変わらず。透子でいいって。こないだアキ坊って呼ぶって断ったじゃん。燦だからアキ坊。え? 聞いてない? あっはっは! ごめんて!」
入り口のゲートを通り、地下を目指す。このビルには音楽スタジオや録音ブースも併設されている。
なので豪快な透子さんの笑い声は壁の防音材に吸収される。だからばしばしと叩かれた俺の背中は響かない音の割に痛い。
「あきさんとはよく呼ばれるけど、アキ坊は初めてです……初めてだ。しかも元『シュガーホワイト』の天音透子さんに。俺、大ファンだったんです」
嘘じゃない。十年前に動画サイトに降臨し、鮮やかに世界を変えた女性ユニット『シュガーホワイト』。一気にスターダムを駆けあがり、ワールドスポーツの主題歌まで手掛け、人気絶頂のまま電撃解散。まさに伝説だ。
天音透子はその片割れ。実質的なリーダーだった。
華やかな見た目に似合わず力強い歌声と軽妙なトークで人気を博し、深夜帯ながら冠番組も持った。だが解散後は表舞台から姿を消し、今は裏方として名だたるアーティストを手掛ける敏腕プロデューサーとして活躍している。
「『空飛ぶ魚』『ドリーミン』特に『白金草』なんて」
「あたしだって君のドラマは相当詳しいよ? 『スクール愛$マジック』『そしてわたしは途方に暮れる』そうそう先週の『スパイラル・ファミリー』に出てた冷徹な役。最高だった! 表情が動かないのに温かみがある。アキ坊の計算し尽くされた演技。痺れたねえ……。そうだあたしの古い友人が君のファ」
畳みかけられて、俺は慌てて透子さんに手のひらを向けた。
「ちょ、ちょっとやめてください」
尊敬している人にうっかり褒められて、どんな顔をしていいのかわからない。役者として人を見ることに慣れているが、尊敬する人だけは別だ。
透子さんは「百戦錬磨の人たらし」だの「稀代の女トリックスター」だの言われている。素がこれなら納得するしかない。
ヒット作ではなく、デビュー作とマイナー良作と最新作のタイトルをあげられてしまったら、役者なら誰でも心を開いてしまうだろう。
出会う前は女性の活躍しにくいこの業界でのし上がっていった胆力を思い、正直会うのが怖かった。けれど実際は、親切で陽気で、押しつけがましさのない姉御だ。まさに、人たらし。
俺は透子さんとスタジオブースに入る。ナレーションの収録ではなく、音楽の現場として。
長い芸能キャリアの中で、俺は今回初めて歌の仕事をする。
「お互い一緒に仕事ができるのは幸せだってことだね。まあ座って」
機械の立ち並ぶ狭いブースで、小さな椅子を一つすすめられた。自慢のつもりのない長い脚を折りたたんで、低い椅子におっかなびっくり座る。
透子さんはカバンの中から缶コーヒーを二本取り出し、一本を俺に渡した。
「まずは、おめでとう。君の新たなる門出に乾杯だ。歌手デビュー予定なんだろ?」
「強制歌手デビューだよ。おめでとうなんてやめてくれ。こっちは貧乏くじ引かされた気分なんだ」
かつんと缶と缶をぶつけあってから、肩をすくめる。
発端は、とある刑事ドラマだった。
主人公の敵役、ネジの外れた犯罪者役を演じた俺は、登場するたびにアドリブで童謡をドラマティックに歌っていた。
ドラマの人気が上がるごとに、なぜか俺の歌も注目され、ちょっとしたブームにもなってしまった。
確かに喋る声は低くて甘い。が、学生時代の音楽の成績は並以下。だから俺は今まで舞台はストレートプレイばかりで、歌う仕事は頑なに避けていた。
それなのに、気づけば『歌手デビュー』の予定まで決まっていた。芸能界は恐ろしいところだ。
目の端に映る録音ブースの楽器やマイクが、処刑台のように光って見える。
「OK、そっちに戻ろう。ボイトレでもすればなんとかなるもんだけど、売れっ子の君には時間がないもんねえ。まさか二回目に会えるのが一月後だとはこっちも予想外だったよ」
言われるまま軽く声出しをした後、ピアノから離れた透子さんが笑いながら大きなカバンを開け、薄いノートPCを引っ張り出す。
「だから、悪いけどこっちで勝手に曲を書かせてもらったよ。一か月もあったから歌詞はコンペで募集する余裕まであったんだよ?」
ほら、とカバンからベラっと紙を取り出して俺に渡す。一番上に『colorless/colorful』とある。歌詞らしい。
「曲ってそんなに簡単に書けるもんなのか?」
「あっは、あたしの力量あってこそだよ。歌いやすいように音少な目で音域も狭くかつ今時の旋律をパク……旋律ルールに則った天音透子カラーの曲。名曲だよ? お風呂で思いついて、お風呂上がりの全裸でPCの前に座ってメインの旋律はニ十分で書き上げたさ。お陰で風邪引いたけどね!」
あっはっは、と綺麗な顔をくしゃくしゃにして大口で笑う。全裸。これはセクハラなんだろうか。ただ無神経……もとい豪快なだけなんだろうか。俺が額に指をあてて判断に迷っていると、透子さんは「あっそうだクッキーあるんだ。食べな」とカバンから金属製の黒い箱を取り出し蓋をぱかりと開けた。全然次の行動が読めない人だ。
PCを開き、細い指がタッチパッドを滑る。ソフトが立ち上がって見たこともない画面が広がった。
「時間がありすぎて仮歌も入れたよ」
「仮歌?」
「歌を歌いなれてなきゃ、歌詞をすぐ曲に乗せて歌えないだろ? だからお手本を作っとく」
「へえ。透子さんが歌ってくれたの?」
「いや。男声のほうがイメージわくから、センスがある野郎に頼んだ。うまいやつは書いた人間よりうまく歌うもんなんだよ」
「透子さんなら何でもできそうに見えるけどなあ」
すると透子さんは、眉を寄せた。
「ありがと。でも世の中、あたしにとっちゃ苦手だらけだからね。お酒も飲めないし紫外線もだめな虚弱体質。これはトップシークレットだけど、実は読み書きが得意じゃないんだ。漢字なんて壊滅的。文字の少ない英語の方がまだまし」
「文字!? じゃあ、番組の司会なんてどうやって……」
「マネージャーにフリガナふってもらって暗記。番組中のプロンプトには泣かされたよ」
あっけらかんと笑っている。だけど俺は次の言葉を失った。
透子さんは頭がいい。美人だし喋りも上手いし歌もうまい。曲作りの才能なんてずば抜けてる。
そんな人に弱点があるなんて思いもよらなかった。
「驚いた? とんでもない社会不適合者だよ。ま、君だって完璧スーパーマンに見えるけど、実は歌が苦手なんて思わないだろ」
透子さんの努力を想像して、声も出なくなった。
「俺も……」
だから、つい口が勝手に動いてしまった。
「あまり公表してないけど、光過敏症なんだ。撮影の時のライトなんて地獄だ。サングラスが手放せない」
「そりゃ……」
透子さんが大きな目をさらに見開いた。
俺も苦手を覆い尽くせるほど自分の得意分野を努力して伸ばしてきた。芸能界は、才能を持ち、更に努力してきたものが生き残る。
透子さんに、君も努力したんだね、と優しく微笑まれた。不便を抱えて努力した者同士として、ほんの少しだけ、このスーパースターとわかりあえた気がした。
「ほら、聴いてみろ。君の歌だ」
大きなカバンからヘッドフォンを取り出して俺に渡す。次から次へと物が出てくる様子はまるで四次元ポケットで、思わず吹き出す。多分次には大きなドアでも出てくるのだろう。
「タイトルはそこにもあるけど『colorless/colorful』。もしMVを作るとしたらモノクロ画面が基調になるだろうね」
俺がヘッドフォンをつけたのを確認して、透子さんがいたずらっぽく笑う。タッチパッドに軽く触れた途端、色鮮やかな白黒が溢れた。
おお、さすがかっこいい、なんて呑気に構えていた。
続けて歌が流れてきた。
時が止まった。
息の仕方を忘れた。
身体じゅうに電流が走った。
一瞬の出来事。歌、違う、声の響き? 声そのものだろうか。耳から鼓膜を伝い、脳に響いて心を貫いて、そして。
俺は、その声に撃ち抜かれた。
穏やかで体温を感じる、それでいて甘くてどこか色気がある。奥にはきっと眠っている熱さがあるんだろうと思わせる響き。
こんな声は初めてだった。
感情に気づくよりも先に耳が欲しがった。曲を最後まで再生し終わったところですぐにループ再生。もっと聞かせて欲しい。もっと。もっと。
何度も同じ曲を繰り返し聞いて、やっと我に返ったのはだいぶ時間が経った頃。
間違いなく俺の耳は、脳は、心は、彼の声に支配されてしまった。
あるいは、もう恋と呼んでいいのかもしれない。
黒波燦、といったら自分で言うのもおこがましいが「時の人」だ。
名前を聞けば「大河に出てた」「あのCMの」「ああ、あきさんね!」「男前ランキング一位の」「映画のあの役良かったよね」と反応がもらえる位には俺の存在はお茶の間になじんでいる。
「アキ坊!オッス!!」
「わっ」
有名音楽メーカーのビルのエントランスで突然顔を覗き込まれて、ぎょっと立ち止まる。今日の仕事の相手である女性音楽プロデューサー、天音透子さんだった。
でかいバッグを下げた長身の彼女は、ショートヘアのすっぴんに年齢不詳の人懐っこい笑みを浮かべていた。俺は急いで仕事用の顔に切り替える。天井の照明は右から。一番映える角度で。
「透子さん、おはようございます。あの、アキ坊って俺のことで……俺のこと?」
お互い敬語禁止と言い渡されていたのを思い出して言い直したが、透子さんはぶはっと吹き出した。
「もう笑っちゃうほどイケメンだね、相変わらず。透子でいいって。こないだアキ坊って呼ぶって断ったじゃん。燦だからアキ坊。え? 聞いてない? あっはっは! ごめんて!」
入り口のゲートを通り、地下を目指す。このビルには音楽スタジオや録音ブースも併設されている。
なので豪快な透子さんの笑い声は壁の防音材に吸収される。だからばしばしと叩かれた俺の背中は響かない音の割に痛い。
「あきさんとはよく呼ばれるけど、アキ坊は初めてです……初めてだ。しかも元『シュガーホワイト』の天音透子さんに。俺、大ファンだったんです」
嘘じゃない。十年前に動画サイトに降臨し、鮮やかに世界を変えた女性ユニット『シュガーホワイト』。一気にスターダムを駆けあがり、ワールドスポーツの主題歌まで手掛け、人気絶頂のまま電撃解散。まさに伝説だ。
天音透子はその片割れ。実質的なリーダーだった。
華やかな見た目に似合わず力強い歌声と軽妙なトークで人気を博し、深夜帯ながら冠番組も持った。だが解散後は表舞台から姿を消し、今は裏方として名だたるアーティストを手掛ける敏腕プロデューサーとして活躍している。
「『空飛ぶ魚』『ドリーミン』特に『白金草』なんて」
「あたしだって君のドラマは相当詳しいよ? 『スクール愛$マジック』『そしてわたしは途方に暮れる』そうそう先週の『スパイラル・ファミリー』に出てた冷徹な役。最高だった! 表情が動かないのに温かみがある。アキ坊の計算し尽くされた演技。痺れたねえ……。そうだあたしの古い友人が君のファ」
畳みかけられて、俺は慌てて透子さんに手のひらを向けた。
「ちょ、ちょっとやめてください」
尊敬している人にうっかり褒められて、どんな顔をしていいのかわからない。役者として人を見ることに慣れているが、尊敬する人だけは別だ。
透子さんは「百戦錬磨の人たらし」だの「稀代の女トリックスター」だの言われている。素がこれなら納得するしかない。
ヒット作ではなく、デビュー作とマイナー良作と最新作のタイトルをあげられてしまったら、役者なら誰でも心を開いてしまうだろう。
出会う前は女性の活躍しにくいこの業界でのし上がっていった胆力を思い、正直会うのが怖かった。けれど実際は、親切で陽気で、押しつけがましさのない姉御だ。まさに、人たらし。
俺は透子さんとスタジオブースに入る。ナレーションの収録ではなく、音楽の現場として。
長い芸能キャリアの中で、俺は今回初めて歌の仕事をする。
「お互い一緒に仕事ができるのは幸せだってことだね。まあ座って」
機械の立ち並ぶ狭いブースで、小さな椅子を一つすすめられた。自慢のつもりのない長い脚を折りたたんで、低い椅子におっかなびっくり座る。
透子さんはカバンの中から缶コーヒーを二本取り出し、一本を俺に渡した。
「まずは、おめでとう。君の新たなる門出に乾杯だ。歌手デビュー予定なんだろ?」
「強制歌手デビューだよ。おめでとうなんてやめてくれ。こっちは貧乏くじ引かされた気分なんだ」
かつんと缶と缶をぶつけあってから、肩をすくめる。
発端は、とある刑事ドラマだった。
主人公の敵役、ネジの外れた犯罪者役を演じた俺は、登場するたびにアドリブで童謡をドラマティックに歌っていた。
ドラマの人気が上がるごとに、なぜか俺の歌も注目され、ちょっとしたブームにもなってしまった。
確かに喋る声は低くて甘い。が、学生時代の音楽の成績は並以下。だから俺は今まで舞台はストレートプレイばかりで、歌う仕事は頑なに避けていた。
それなのに、気づけば『歌手デビュー』の予定まで決まっていた。芸能界は恐ろしいところだ。
目の端に映る録音ブースの楽器やマイクが、処刑台のように光って見える。
「OK、そっちに戻ろう。ボイトレでもすればなんとかなるもんだけど、売れっ子の君には時間がないもんねえ。まさか二回目に会えるのが一月後だとはこっちも予想外だったよ」
言われるまま軽く声出しをした後、ピアノから離れた透子さんが笑いながら大きなカバンを開け、薄いノートPCを引っ張り出す。
「だから、悪いけどこっちで勝手に曲を書かせてもらったよ。一か月もあったから歌詞はコンペで募集する余裕まであったんだよ?」
ほら、とカバンからベラっと紙を取り出して俺に渡す。一番上に『colorless/colorful』とある。歌詞らしい。
「曲ってそんなに簡単に書けるもんなのか?」
「あっは、あたしの力量あってこそだよ。歌いやすいように音少な目で音域も狭くかつ今時の旋律をパク……旋律ルールに則った天音透子カラーの曲。名曲だよ? お風呂で思いついて、お風呂上がりの全裸でPCの前に座ってメインの旋律はニ十分で書き上げたさ。お陰で風邪引いたけどね!」
あっはっは、と綺麗な顔をくしゃくしゃにして大口で笑う。全裸。これはセクハラなんだろうか。ただ無神経……もとい豪快なだけなんだろうか。俺が額に指をあてて判断に迷っていると、透子さんは「あっそうだクッキーあるんだ。食べな」とカバンから金属製の黒い箱を取り出し蓋をぱかりと開けた。全然次の行動が読めない人だ。
PCを開き、細い指がタッチパッドを滑る。ソフトが立ち上がって見たこともない画面が広がった。
「時間がありすぎて仮歌も入れたよ」
「仮歌?」
「歌を歌いなれてなきゃ、歌詞をすぐ曲に乗せて歌えないだろ? だからお手本を作っとく」
「へえ。透子さんが歌ってくれたの?」
「いや。男声のほうがイメージわくから、センスがある野郎に頼んだ。うまいやつは書いた人間よりうまく歌うもんなんだよ」
「透子さんなら何でもできそうに見えるけどなあ」
すると透子さんは、眉を寄せた。
「ありがと。でも世の中、あたしにとっちゃ苦手だらけだからね。お酒も飲めないし紫外線もだめな虚弱体質。これはトップシークレットだけど、実は読み書きが得意じゃないんだ。漢字なんて壊滅的。文字の少ない英語の方がまだまし」
「文字!? じゃあ、番組の司会なんてどうやって……」
「マネージャーにフリガナふってもらって暗記。番組中のプロンプトには泣かされたよ」
あっけらかんと笑っている。だけど俺は次の言葉を失った。
透子さんは頭がいい。美人だし喋りも上手いし歌もうまい。曲作りの才能なんてずば抜けてる。
そんな人に弱点があるなんて思いもよらなかった。
「驚いた? とんでもない社会不適合者だよ。ま、君だって完璧スーパーマンに見えるけど、実は歌が苦手なんて思わないだろ」
透子さんの努力を想像して、声も出なくなった。
「俺も……」
だから、つい口が勝手に動いてしまった。
「あまり公表してないけど、光過敏症なんだ。撮影の時のライトなんて地獄だ。サングラスが手放せない」
「そりゃ……」
透子さんが大きな目をさらに見開いた。
俺も苦手を覆い尽くせるほど自分の得意分野を努力して伸ばしてきた。芸能界は、才能を持ち、更に努力してきたものが生き残る。
透子さんに、君も努力したんだね、と優しく微笑まれた。不便を抱えて努力した者同士として、ほんの少しだけ、このスーパースターとわかりあえた気がした。
「ほら、聴いてみろ。君の歌だ」
大きなカバンからヘッドフォンを取り出して俺に渡す。次から次へと物が出てくる様子はまるで四次元ポケットで、思わず吹き出す。多分次には大きなドアでも出てくるのだろう。
「タイトルはそこにもあるけど『colorless/colorful』。もしMVを作るとしたらモノクロ画面が基調になるだろうね」
俺がヘッドフォンをつけたのを確認して、透子さんがいたずらっぽく笑う。タッチパッドに軽く触れた途端、色鮮やかな白黒が溢れた。
おお、さすがかっこいい、なんて呑気に構えていた。
続けて歌が流れてきた。
時が止まった。
息の仕方を忘れた。
身体じゅうに電流が走った。
一瞬の出来事。歌、違う、声の響き? 声そのものだろうか。耳から鼓膜を伝い、脳に響いて心を貫いて、そして。
俺は、その声に撃ち抜かれた。
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