欲情プール

よつば猫

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侵食の体温1

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 大崎不動産で、専務の秘書として働き出してから……
残業も少なく、前職より帰宅時間が早くなってた。

 あれから数日、聡の帰宅も早くなってて……
少しずつ、離婚に向けた話を進めてる。

 だけど。
離婚が承諾されて浮かれてるのか、それとも最後だからなのか。
私への接し方は、今まで以上に優しくて。
まるで、何事もなかったかのように朗らかだった。
もしかしたら離婚話が無くなるんじゃないかって、僅かな期待を抱かせるほど……






「ごちそうさま。
相変わらず、聡の作るオムライスは絶品だねっ。
楽させてもらった上に大満足させてもらったから、明日は聡の好きなもの何でも作るよ?何がいい?」

 今日は早く帰ったからって、夕飯作りを買って出てくれた聡に。
感謝を告げながら、後片付けを始めると。

「ああっ、いいよ!片付けも俺がするから。
それより、明日は茄子と豆腐の揚げ出しがいいなっ。
茉歩の揚げ出しはプロレベルだからなぁ!」

「褒めすぎ。
聡の好みに合わせてるだけだって」
そう返しながらも、何度褒められても嬉しいもので。
遠慮された片付けも、さりげなくサポートを続けた。

 すると、しんみりした様子で……
「……そうなんだよな。
ここ最近はともかくとしても、茉歩は忙しくても料理の手を抜かなかったし、そんな風にいつも俺目線で作ってくれてた。
ちゃんと俺の事を考えてくれてたのに、俺はいつからか自分の寂しさばっかりで……
ほんとは、今になって後悔してるんだ」

 後悔!?
その2文字に、思わず期待が湧き起こる。
だったら今からでも考え直せないっ?
そう口から出そうになって……
ぎゅっと、食い止めた。

 きっと逆効果だ。
だから、敢えてここは……

「……私も後悔してる。
もっと色んなものを作ってあげたかったって。
もっと聡との時間を優先するべきだったって。
ごめんね……
じゃあ、後片付けは甘えます。
……おやすみなさい」

 名残惜しいけど、辛いから……
そんな雰囲気で、その場を後にした。

 ねぇ……
あっさり引かれると、追いかけたくなるでしょ?
もっと後悔すればいい。






 じわじわと策略の効果も出てるんじゃないかと、そんな期待もしつつ……
さっそく今日は揚げ出しの材料を買って来て、4階のフロアに到着した。

 その直後、上から降りてきたエレベーターの扉も開いて。

「っ、茉歩!
あっと、早かったんだなっ?」

「聡……
うん、聡はラウンジにでも行ってたの?」

 このマンションの最上階には、スカイラウンジが併設されてた。
聡にとってお気に入りの場所らしく。
私の帰りが遅い時は、いつもそこで時間を潰してたらしい。

「うんまぁ、ちょっと飲みたくなってさっ」
少し焦った様子に……

 嫌な推測が働いてしまう。

「……1人で?」

「う、うん!」
さらに焦った様子に……

 不倫相手のコも一緒だったんじゃないかと、憶測に胸が痛んだ。

 まさか私の住むマンション施設で、一緒に居ないよね?
そんな堂々と、デリカシーのない事しないよねっ?
もし2人で居る所を見てしまったら……
そんなの耐えられない!

「それより茉歩っ、最近仕事終わるの早いんだなっ?
例のビッグプロジェクト、終わったんだ?」

「え……
うん、終わったよ。
それに仕事も……変わったんだ」

「えっ?
え、変わったって?」

 玄関でのカミングアウトに、廊下を進んでた聡が立ち止まって振り返る。

「うん、今までの会社ね?先月いっぱいで辞めたの。
今は新しい会社で働いてる」

「え、それって……
もしかして、俺の所為?」

「……違うよ。
ただ、聡の為ではあったかな。
あ、揚げ出しの材料買って来たから、今から作るねっ」

「待って茉歩!
俺の為って、それどーゆう……」
横を通り過ぎようとした私の、腕を掴んで。
困惑を露わにする聡。

 絶好のタイミングだと思った。
そう、ずっと伝えたかった。
ちゃんと聡の事を考えてるって、こんなに愛してるって……
そんな自分の想いを伝えずに、無駄にしたくなかった。

 だけど自ら伝えると恩着せがましくなって、逆効果だから。
こうやって聞かれるのを待ってた。

「……ん。
これからは家庭に落ち着いて、子作りに専念しようかなって……
喜ばせようと思って、サプライズ報告するつもりだったんだけど、意味なくなっちゃったねっ。
でも新しい会社もすぐ決まったし、何の問題もないから、聡は気にしないで?
じゃあ、ごはん作るね?」

 腕を掴んでる手をそっと押すと、その手はボトンと力無く落ちて……
聡は黙ったまま俯いてた。


 だけど、出来上がった夕食を食べ始めた時。

「美味い!
美味いよ、茉歩っ。
やっぱり茉歩の作る揚げ出しは最高だっ。
俺、ほんっと!
ほんっと……
ほんとにごめん茉歩っ……」
そう言って、泣き出してしまった。

 ねぇ、聡……
泣くくらいなら戻って来てよっ。
それとも、もう戻れないから泣いてるの?
伝えた想いは、ほんの少しも……
離婚の足止めには、ならないのかな?






 そんな日々の中。

「茉歩、メシに行くぞ?」

「……またですか」

 あの焼肉を食べに行った日から……
塞ぎこんでなくても、頑張り過ぎてなくても、3日に1度のペースで食事に誘って来る専務。

「そう嫌がるな」

「嫌がってません。
それで、今日は何ですか?」

 この前は……
専務の苦手なお得意様のお店へ、付き合いで顔出しするに当り。
そのフォローを頼まれたけど、特に役にたった覚えはない。

 その前は……
新規プロジェクトについて、食事しながら説明を受ける筈だったけど。
すぐに終わって、ほぼ雑談だった。

「今日は何も。ただの俺の我儘だ。
茉歩の気に入ってたイタリアンに行こう」

「………」
呆れて返す言葉を失くしたけど。
実際、専務との食事は嫌じゃない。

 寧ろ……
この人には弱ってる所を何度も見られたし。
洞察力の鋭い人の前でカッコつけても、無意味だろうし。

ー「相棒の俺には、もっと甘えろ?」ー
そう言ってくれた専務と過ごすのは、心地良かった。


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