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よつば猫

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拾った専務と拾われた秘書3

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「いや、全然いいよ。
寧ろお互い、プライベートもある程度把握しといた方がいいし。
それに、たまにはグチ零したり?こうやって聞いてくれる相手がいると助かる」

「そんな……
私で良ければ、いくらでも聞きます」

「ありがとう。
実はさ、俺、婚約者が出来たんだ」

「……は?
あ、それで彼女さんと別れたって事ですか?」
いくらでも聞きますに対して、さっそく打ち明けられた話に面食らうも。
なんとか話の繋がりを手繰り寄せた。

「そ、いわゆる政略婚ってヤツ?
まだまだ内々にしてる話だけど。
ウチの会社、それなりに儲かってるとはいえ。
まだ若い会社だから、業界での力が弱いんだ。
そこで、この業界で力を持ちつつも、経営難に陥ってる大手と手を組もうって。
その為の人身取引ってとこかな」

「お立場、色々と大変なんですね……
お察しします」

「いや、俺は全然。
大崎家に生まれて、自分で選んだ道だから。
寧ろ……
愛し合った彼女を捨てて仕事を選ぶなんて、最低な男だろ?」
そう自虐的に笑う専務。

 最低な男、とまでは思わない。
でも聡に愛を裏切られた私は、同じく愛を裏切られた彼女さんの気持ちとリンクして……
酷い男だ、とは思った。

 とはいえ。
「当事者じゃない私には、何とも言えません」
そう誤魔化した。

 最低な男だと笑ってた専務は、どこか悲しそうで……
専務も辛かったんだと思ったから。

 すると専務は一瞬キョトンとした後、楽しそうに笑い始めた。

「茉歩はほんとクール、っていうかドライだな!
普通は、そんな事ないですとかって、上司をフォローしたりするもんだけどっ」

 私の心情からすれば、これでもフォローした方です。
と内心訴えながらも。

「フォローして欲しかったんですか?
でも事実、専務にしか解らない事情もあると思うので、私には何とも」
そう切り交わした。

「いや、フォローはいいよ。
そーゆう茉歩が、俺は好き」
なんて、やんちゃな笑顔で……

 そんな事を軽はずみに言わないで欲しい。
また戸惑ってしまうし、どこで誰に聞かれてるかわかったもんじゃない。

 そう警戒するのも……
実は既婚者の私にまで、専務目当ての女子社員から嫉妬の視線が向けられてるからだ。
といっても、専務室で業務する私には、そこまで影響はないんだけど。
そう思った所で、ハッとした。

 既婚者って……
既に崩れそうなその肩書きに、改めてショックを受ける。

「ほら、もっと食え?」

 ポンポン、っと。
強張ってた私の頭に、専務の大きな手が降ってきた。

「ーーーっ、」

 クールな私は、今までそんな事をされた記憶があまりなくて。
必要以上に動揺が沸き起こる。
しかも、今それをする関連性がわからない。

「っ、セクハラになりますよ?
むやみにしない方がいいと思います」

「嫌だったら訴えていいよ」

 それは、やめる気がないって事ですね……
またしても我儘な専務に、ショックも吹き飛んで溜息が零れた。
その矢先。

「旦那さんと、何かあった?」

 不意の問い掛けを受けて、言葉を失くした。

 雇用手続や今日までの会話で、それなりのプライベートを知られてるとはいえ。
何でそう思ったんだろう?
そう不審に思ってすぐ、涙目を見られてた事を思い出す。

 あんな早朝に、家を出てすぐのエレベーターから、泣いた痕跡を残して現れたら……
一緒に暮らしてる相手と何かあったって、わかっちゃうよね。
今は世帯状況も知ってて、そのうえ洞察力の鋭い専務なら、尚更。

 もしかして、それで頭ポンポンっ?
今日の塞ぎ込んだ顔とか、今の強張ってた私を察知して?
ふわっと、心が綻んだ。

 実際ポンポンのおかげで、ショックが吹き飛んだのも事実だ。

 そこでふと、前にもこんな事がと……
「味見」と、私のスプーンからセミフレッドを食べた専務が、頭に浮かぶ。
確かその時も、それで胸の痛みが消されてた。

 ひょっとして専務は……
わざと子供っぽくしたり我儘ぶる事で、相手をさりげなくフォローしてたのかもしれない。
そう思って、思わず笑顔が零れた。

「あれ、笑うとこ?」

「いえ、なんだか専務に絆されてっ」

「なら良かった。
だったら尚更、グチでも何でも。
俺で良ければ、いくらでも聞くよ?」

「それ、私のセリフのパクリですか?」

「バレた?」

 そこで笑い合う私達。
そして……

ー「たまにはグチ零したり?こうやって聞いてくれる相手がいると助かる」ー
そう言って先に心を開いて話してくれた専務に、いつしか感化されてたのか。

「実は、今ちょっと離婚の危機で」
正直に、さっきの質問に答えた。
ただし重たい空気にしたくないから、この明るい雰囲気に紛れてサラッと。

「……それけっこう、深刻だな。
原因は?」

 夫の不倫です、なんて。
そこまで情けない事を言える程には、弱みを曝け出せなくて。
苦笑いで答えを濁した。

「……まぁ、俺に出来る事があれば力になるよ。
必要なら、腕のいい弁護士も紹介する。
大丈夫、いざとなったら……
俺に助けを求めてくれば、必ず離婚を阻止してやる」
力強い目で、言い放つ専務。

 正直、夫婦の問題に他人は介入出来ないと思う。
だけどそう言ってくれた専務の心意気が嬉しかったし、心強く感じた。

 何より。
誰にも相談出来なかった事を話せて、心が少し軽くなった気がした。

「……ありがとうございます。
専務って、ものすごく面倒見がいんですね。
私、専務に拾われて良かったです」

「拾われて?
じゃあ俺は、ものすごい逸材を拾えて幸運だな。
正直、驚いてるんだ。
仕事が出来るとは睨んでたけど、一週間でここまでマスターするとは思わなかったし。
すごく助かってるよ、ありがとう」

「そんな!褒めすぎですっ。
それに、まだまだこれからです」

 でも仕事を評価されるのは、素直に嬉しい。
しかも、そんな風に感謝の言葉を貰えると……
今の弱ってる私には、余計心に染み込む。

「だけどな、茉歩。
茉歩は頑張り過ぎたり、クールに装ったり、極力弱みを見せないだろ?
そんなんじゃいつか潰れるし……
相棒の俺には、もっと甘えろ?」
とても優しい眼差しで、続いた言葉に。

 心が揺さぶられて、思わず泣きそうな気持ちになった。
そんな私に、さらなる追い打ち。

「実はさ。
今日のメシは、頑張った茉歩への労いでもあったんだ。
だけどお前の事だから、遠慮心で逆に気が引けるだろ?
だから言わなかったんだけど、これを逆手に取る事にした!
頑張り過ぎたら、俺も気遣ってメシに連行するから。
これからは程々にな?」

 そう言ってまた、私の頭をポンポンする専務は……
きっとやんちゃな笑顔で笑ってて。

「今の私の(辛い)状況で……
専務の優しさと洞察力、ズルいですっ……」
俯いて泣いてる私には、そう返すのが精いっぱいだった。

 人前では泣かない私が……
前職の退職時といい、聡の所為で形無しだ。
でもそれだけじゃなく。
専務には既に涙目を見られてるからなのか、何の抵抗もなく心が溢れてた。

「茉歩。
拾ったからには、俺が責任を持って守るから。
明日からまた、よろしくな?」

 専務の優しい声と、撫で撫でに変わった体温が……
グルグルと包帯みたいに、私を心を包んでた。



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