欲情プール

よつば猫

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拾った専務と拾われた秘書2

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 だけど家に帰れば、辛辣な現実が突き刺さる。

 今日も、まだ帰って来てないか……
彼女の側に寄り添ってるんだろうけど、いいの?
そんなんじゃ逆効果で、ますます離婚する気が失せちゃうよ?
もう知らないっ。

 とにかく私は、それどころじゃないし。
大崎不動産の全業務内容や役員・従業員・取引先を把握したり、専務のスケジュールを管理したり……
仕事に慣れるまで、覚える事は山積み。

 でも今は、それくらい頭の中が忙しい方が救われるのかもしれない。
それに……
尽く居場所を失ってた私は、専務のおかげで仕事という居場所を取り戻せて。
少し、落ち着けた気がする。

ー「良かったら、俺の所に来ませんか?」ー
ふと、思い出して。
まるでナンパみたいだと、思わず笑った。

 だけど……
どんどん沈んでた私を、闇から拾ってくれた専務には、精一杯仕事で返したい。
さっそく私は、持ち帰った資料を広げて読み漁った。




 それから数日後。
ここ最近の聡にしては、珍しく早く帰って来たと思ったら……

「……茉歩、ほんとにごめん!
俺、お前の涙見たら、どーしていいか解らなくなって……
だって、俺の事なんか大して執着してないと思ってたから。
でも、あれからもう2週間近く経つし、彼女がもう限界なんだっ!
なぁ頼むよ、お願いしますっ……」

 そろそろ来ると思ってた、離婚の催促。
優しくて、私の要望ばかり聞いてくれてた聡の、唯一譲れない要望が離婚なんて……

「……いいよ」

「っ、えっ?」

 急にすんなり承諾した私に、拍子抜けした様子の聡。

 ここに来て漸く、とりあえず承諾するという策略に踏み切れたのは……
仕事を得た事で、ほんの少し余裕が出来たからかもしれない。

「え……
ほんと、に?」

「ん……
聡をそうさせた私にも、原因はあると思う。
良い妻になれなくて、ごめんねっ……」
悲しみを浮かべながら痛切に訴えて、健気さを取り繕ってはみたけど……
その気持ちも嘘じゃない。

 だって……
ー「俺の事なんか大して執着してないと思ってたから」ー
その言葉が、聡をどれだけ寂しくさせてたか物語ってる。

 仕事を優先して来た自分も、クールに接して来た自分も……
今さらになって、恨めしくて堪らない。

「だけど、ね?聡……
私なりに、ちゃんと愛してたんだよっ?」

「っっ!
ごめんっ……
ごめん、茉歩っ。
ほんとにごめん……
茉歩は良い妻だったよっ!
ほんとに良い妻だった!
なのに俺がっ……
ごめんなっ?
なのに、ありがとうっ……」

 瞳いっぱいに涙を溜めた私を、聡は泣きながら抱きしめて来た。
久しぶりに聡の体温を感じて、思わず抱き返そうとしたけど……
グッと留めて、ゆっくりその手を下ろした。

 この体温は、愛じゃない。
情けの抱擁は、余計胸を八つ裂いた。

 ねぇ聡、泣きたいのは私の方だよ!
これから、どうなるんだろう……




 とりあえず、これからは慰謝料とか今後の話を進めて。
その折り合いが着いたら、お互いの両親に話す事になった。

 策略は功を成しそうもなくて……
今後の不安に押し潰されそうになりながら、次の日の終業を迎えた。

「茉歩、メシに付き合ってくれ」
用もなく、専務から夕食のお誘い。

「……仕事とプライベートは、きっちり分けてくれる筈じゃ?」

「そのつもりだったけど、そんな塞ぎこんだ顔で仕事されたんじゃ敵わない。
気晴らしに、美味いもんでも食いに行こう」

 塞ぎこんだ顔?
聡に離婚を突きつけられた翌日の、張り裂けそうな気持ちでも。
そんな心中、誰にも見破られなかったのに……

ー「人を見る目だけは長けてるんで」ー
この人ほんとに、洞察力が鋭いのかもしれない。

「……すみません。
明日からは気を付けるので、」
誰かと食事に行く気分じゃなくて、やんわり断ろうとしたのに。

「なに食いたい?
あ、焼き肉とか元気でるんじゃないか?
焼き肉でいい?」
と、私の言葉を遮ってまで質問しといて。

 そのくせ答えは聞かずに、すぐさま予約の電話を始めた。

ー「我儘だから、覚悟しといた方がいいよ?」ー
思い出して、ため息が零れた。





「いい店だろ?
肉もヤバいから、焼くのは俺に任せていっぱい食えよ?」

「ありがとうございます。
でも専務、今後はこういった気遣いは無用です。
そしてこれからは、専務が気持ち良く仕事が出来るように、ちゃんと徹するので、」

「上司との食事は面倒くさい?」

「そーゆう訳じゃっ……
ただ、せっかくのプライベートなので、ご自分の為に使って下さい」

「自分の為に使ってるよ?
俺が茉歩と食いたい」
楽しそうに肉を焼きながら、サラッと告げられた言葉に。
思わず反応して、一瞬戸惑う。

「友達とか彼女とか、居ないんですか?」
その所為でつい、失礼な質問をしてしまった。

「居ないと思う?」
だけど気にした様子もなく、いつものやんちゃな笑顔で質問返し。

「いえっ、寧ろたくさん居そうだと思ったので」
上手く取り繕ったつもりだったけど。

 彼女がたくさん居そうなのは、ある意味失礼だと。
すぐに気付かされる羽目になる。
とはいえ、そう思うのも当然で……
専務はかなりの、いわゆるイケメンで。
ワイルドさを演出する力強いつり目に併せて、逞しい身体つきの高身長。
その上、男らしさと男の色気を備えた低音ヴォイス。

 なにより、リッチで御曹司で仕事も出来るなんて。
女が放っておく訳がない。
この一週間でも、玉の輿を狙ってる女子社員達の話を、それはもう本当によく耳にした。

「残念な事に、沢山は居ないかな。
友人と思える相手も少ないし、女も……
こう見えて一途なんだ」

「あ……すみませんっ」
失礼な発言を謝罪しつつも。

「でも、だったら尚更。
プライベートの時間は、私じゃなく彼女さんに使って下さい」

「別れたんだ、少し前に」

 私の提案をすかさず打ち消した言葉に、再び戸惑う。

「込み入った事を、すみません……」
失礼続きな自分に焦ったのと。

 別れたという言葉が、今後の自分を連想させて……
ドキリと敏感に反応してしまってた。

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