欲情プール

よつば猫

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侵食の体温3

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「茉歩それ、詳しく話してくれ」

「はい、このツールなんですけど。
操作性に優れてて、ものすごく使い易いのが1番の利点で、まずは……」
と、一通り説明を流すと。

「なるほど、な。
それなら労働力もコスト削減出来て、常務の指摘してた問題点もクリア出来るな」

 常務の指摘……
実は、誰も専務に不満を持ってなさそうとは思ったものの。
常務は例外だ。

 それもそのはず。
常務は元々、創業以来の専務で。
社長と一緒に会社を築き上げて来て、時期社長とまで思われて来た人らしいのに。
いきなり社長の息子に役職を奪われ、常務に降格させられたとなれば。
その息子、大崎専務を快く思わないのも無理はない。

 だからこそ。
その常務からの問題点をクリア出来るなら、私も嬉しい。

「でかした茉歩!
こんな凄いツール、よく制作したなっ」

「その制作プロジェクトに、全てを掛けてましたから」

 おかげで家庭の崩壊を招いてしまったけど……

「ただ今から変更となると、それに伴う手続きや諸作業等が発生しますが」

「構わない。
メリットの方がバカでかい」

「良かったです。
ではこの件に関する諸作業等は、全て私に任せてもらえますか?」

「プレゼンまで寝ない気か?
茉歩は前社と、そのツール導入の段取りだけ進めてくれ。
他の作業は俺が周りに振り分ける」

「大丈夫なんですか?」
周りの誰もが、既に手一杯に見えるけど……

「大丈夫。
今、茉歩に振り分けたように、上手く振り分けるから」

 なるほど……
いくら作業を増やした張本人だからとはいえ。
助けられた気分にされられて、こうも鮮やかに振り分けられてたなんて。

「専務の手腕、ある意味惚れ惚れします」

「茉歩に惚れられたら、もっと嬉しいけどね」

 またこの人は!
どうしてそんな、戸惑わせる発言ばかりするんだろうっ……

「……前から思ってたんですけど。
専務って、発言は女たらしですよね」

「そうかな。
でも俺は、誰にでも言ってる訳じゃない。
茉歩だから言ってるんだけど?」

 危ない!
この人ってば、ほんとに危ない……
危うくまた動揺のドツボに送り込まれる所だった。

 要は、クールな私なら真に受けないって解ってるから言える。
そう言う事ですよね?
だったら……

「光栄です。
じゃあ私も専務だから言います。
もうとっくに惚れてますよ?」
部下として上司に。
軽い発言に合わせて、そう仕返すと。

 専務の、驚いて固まる姿が目に映る。

「え……
ええっ!
違いますよっ?部下としてって意味ですっ」

 ドン引きの専務に焦りながらも。
慣れない発言はするもんじゃないと、後悔した。

 遅れながらも「それは残念!」って、専務が乗ってくれたから救われたけど……





 そうして、プレゼンを明後日に控えた日の深夜。
明日の予定を確認しようとして、会社にプライベート手帳を忘れて来た事に気付く。

 ここ数日、プレゼンの事で頭がいっぱいだったから……
だけど明日、大事なプライベートの予定があったような?

 気になって仕方なく。
会社がこんな至近距離で良かったと思いながら、すぐに取りに向かった。


 大崎不動産は……
1階に店舗を構えていて、そこに社員デスクや応接室等があって。
2階は住居仕様を改造した、社長室や専務室・会議室等になっていた。

 ちなみにスカイラウンジの下階には、オーナーズルームやゲストルームがあって。
専務はそこに住んでるらしい。

 4階から2階への短い移動を終えて。
オートロックになっている専務室の鍵を開けて、中に入ると。

 え、電気!
それが点いている状態に驚いた。

 どうやら専務はまだ残ってるようで……
今はシャワーを浴びてる様子だった。
というのも、この部屋には住居仕様だった名残で、浴室やベッドルーム等が備わってた。

 それより、出て来た時に鉢合わせたら気まずい。
誰も居ないと思って、裸だったりしたら尚更。
そう思って急ぎながらも、視界に入った専務のデスクに気を奪われる。

 いつも綺麗に整理されてるそのデスクは、資料や書類で乱れてて……

 これは!
つい覗いて、目にした状況に唖然とする。

 だけどその時、浴室から扉が開く音がして。
慌ててその場を後にした。


 結局、プライベートの予定は来週だったから良かったものの。
目にした状況についての追究は、翌日へ持ち越す事に。






「んっ?……どうした?」

 朝の伝達後。
早々と仕事に取り掛かった専務は、意味深な視線を投げ続けてる私に気付くと。
2度見で軽く驚いて、でもすぐに優しい眼差しで問い掛けて来た。

「専務。
忙しい時に申し訳ないんですが、私の相談に乗ってもらえますか?」

「もちろん……
どうした?
旦那と何かあったのか?」

 もうっ、今から怒ろうとしてるのに。
しかもプレゼン前日の追い込みで、それどころじゃない筈なのに。
そんな心配そうに、優しくしないでよっ。

「実は……
相棒だと思って信頼してた上司に、裏切られたんです」

 途端、専務はキョトンとして。

「……それは、俺の事か?」

「そうですね。
実は昨日の夜、ここに忘れ物を取りに来たんです。
その時、専務の散らかったデスクが気になって……
勝手に覗いてしまった事は、謝ります。
ですが、あれでは私の立場がありません!」

 周りに上手く振り分ける、と言っていたプレゼンの変更作業は……
確かに多少は振り分けたんだろうけど、状況的に殆ど専務が賄ってる様子で。
それだけじゃなく。
私の知らない業務や、しなくていいと言われた通常業務も沢山あった。

ー「人を使うのが得意だからね。
こんなにプライベートが取れるのも、仕事を上手く周りに割り当ててるからなんだ。
ずるいだろ?」ー
なんて。
実際に上手く割り当ててる所を見て来たし、人を使うのが得意なのは間違いないけど。
決して誰かに無理はさせず、それを1人で背負い込んでたんだ。

 ずるいどころか、専務のプライベートは仕事だらけだった筈だ。

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