欲情プール

よつば猫

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侵食の体温4

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 今回も、きっと誰もが手一杯で……
プレゼンまで寝ない気か?って言われた程の作業を、1人で無理してたんだと思う。

 少しでも、専務の力になりたかったのに……
これじゃ逆に、負担を増やしただけじゃない!

「専務をサポートするのが、私の役目なのに……
悔しいですっ。
それに、1人で無理されて、こんな風に隠されたら。
信頼されてないようで、悲しいです」

「……茉歩。
俺はお前から、充分サポートしてもらってる。
それに、プロジェクトも含めて俺の我儘で増えた仕事だし。
従業員あってこその会社だと思ってるから、周りに必要以上の無理はさせられない。
何より。
信頼してる相棒だからこそ、茉歩には無理をさせたくなかった」

「っ、間違ってます!
私なんて最近現れた存在で、それまでは秘書が居なくてもやって来れたんですよね?
つまり秘書なんてその程度で、代わりはいくらでも居るんです。
でも専務の代わりは誰にも出来ません!
第一、その我儘のおかげで業績が格段に伸びて来たんだし、それは従業員にも還元されてるって聞きました。
そんな専務の方にこそ、もう無理はさせられません!」

 専務は、少し面食らってすぐ。
「頼もしいなっ」って、柔らかく笑った。

「笑い事じゃありません。
本気で心配してるんですよ?
だいたい、頑張り過ぎたり弱みを見せないのは、専務の方じゃないですかっ。
そんなんじゃ、いつか潰れるって言ってましたよね?
ほんとに相棒だと思ってくれてるなら、もっと甘えて下さい!」

「っ……
わかった!
わかったよ茉歩っ。
今度から小出しで甘えてく」
何がおかしいのか、懲りもせずまた笑う。

「いいえ。
今日からフルでサポートします」
変更作業は私が増やした業務だから、ここは絶対譲れない。
強い意志を込めて表明すると。

 漸く専務は真顔になって、まっすぐに私を見つめた。

「今日は深夜になるけど?」

「そのつもりです」

「これからは残業が増えるよ?」

「それが何か?」

「離婚の危機なんだろ?」

「そんな時だからこそ、引いた方が効果的なんですよね?」

「引き過ぎは逆効果だ」

「その時は……
専務に助けを求めます。
必ず離婚を阻止してくれるんですよね?」
そう挑発すると。

 専務は諦めたように苦笑いを吐き零した。

「わかった。
それは俺に任せてくれ。
じゃあ改めて、」
そう手を差し出して来た専務が……

「いや、とりあえず作業を進めよう」
それを戻して、すぐさまプレゼン準備に取り掛かった。

 この時その手に触れてれば、専務の体調に気付けた筈なのに……



「茉歩」

 不意に呼ばれて、返事をすると。

「ありがとう。
凄く、助かるよ……」

 視線はPCに向けたままだったけど。
その声はすごく気持ちが込もってて……
心にじわり、染み込んだ。


ー「必ず離婚を阻止してくれるんですよね?」ー
まさかこの言葉が、これからの慧剛を縛り付ける事になるなんて、思いもよらずに。





 プレゼン準備の全作業が終わったのは、予想通り深夜だった。
とはいえ、常務に突かれる隙もないくらい完璧に仕上げたし。
専務1人だったら徹夜になってたと思うから、今度こそサポート出来て嬉しかった。

 少しでも長く睡眠時間を確保する為か、そのまま泊まる専務を残して。
ひとまず家に帰った私は……
短い睡眠をとって、いつもより早く出社した。

 すると……

「専務!」
昨日のままの姿で、デスクにうつ伏せて眠ってる専務を目にして。
忙いで駆け寄る。

 すごい寝汗……
シャワーもまだだよね?

「専務!起きて下さっ」
早く来て正解だったと思いながら、その身体を揺さぶると。

「熱っ……」
シャツ越しの体温に驚いた。

 慌てて額に触れると、すごい熱で……

 どうしよう!
とりあえず病院に……
それからプレゼンは、延期連絡?
とにかく、誰かの助けを呼ぼう!

 1人じゃ動かす事も出来ないと思って。
専務のデスクに備えられてる電話で、内線に繋ごうとすると。
バシッとその手が掴まれる。

 突然のアクションと、肌を覆った熱い体温に、息を呑むほど驚くも。
すぐに、それをしてる専務に視線を向けた。

「おはよう、茉歩っ……
シャワー浴びてくるから、プレゼンの準備に取り掛かってくれっ」
強い視線を返して。
少し荒い呼吸で、ゆっくりと身体を起こす専務。

「ふざけないで下さい!
そんな身体でプレゼンなんてっ……
とにかく、今から病院に行ってもらいますっ」

 掴まれたままの手を解こうとするも、その手が更にぐっと掴まれる。

「茉歩。
これは命令だ。
準備に、取り掛かってくれ」
有無を言わさぬような制する目で、私の意見を一蹴する。

「っ……
出来ません。
まずは病院に行って下さい。
それが嫌なら救急車を呼びます」

 例えクビになっても、こんなに高熱の専務を見過ごす訳にはいかなかった。
折れないと踏んだ専務は、困ったように溜息を吐き捨てる。

「頼む、茉歩。
病院には、プレゼンが終わったら必ず行く。
今に始まった事(熱)じゃないんだ。
あと数時間、待ってくれ。
じゃなきゃ、今日まで無理した意味がない!」
そう訴えて。

 デスクの引き出しからドリンク剤と錠剤を取り出して、それを口に放った。

 恐らく、その熱は過労が原因なんだと思った。
だとしたら激しい頭痛も伴ってる筈で、その錠剤はきっと痛み止めだろう。
前の職場では、同じような状態を何度も目にした。

「……それで取り返しのつかない事になったら、それこそ一番の無意味だと思います」
強い口調で言い放った。

 過労が長期に渡れば、命の危険があるからだ。

「だったら!
そうならないように、茉歩がサポートしてくれ」

 思わぬ切り返しに、大きくした目を返した。

「これからはフルサポート、してくれるんだろ?
だったら俺が最小限の無理で済むように、最大限のサポートをしてくれ」

「そんなっ……
私には無理ですっ」
荷の重過ぎる役目と、これ以上少しの無理もさせたくない状況に、断りを告げると。

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