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会いたい3
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「でももう目的は果たしたはずです。
公務にお戻りください」
「いや、もう一つ。
だがその前に、足の治療をさせてくれ」
「結構です。
治療なら、もう済んでますので」
「そうではなく、魔法で完全に治してもらう。
一緒に王宮魔術師の部屋に行こう」
ーー王宮魔術師っ?
そんな存在がいたのね……
そこでヴィオラは、ピンと閃く。
王太子妃なのに知らなかったという事や、わざわざこちらから出向くという事から、特別な存在だという事が窺えたため。
「足を痛めているのに、歩かせる気ですか?
その者を呼びつけてください」
そう見下して、ここぞとばかりに悪妃に扮したのだ。
「そうしたいところだが、手間が掛かるのだ」
そう、ヴィオラの侍女たちはその部屋を知らないため、ウォルター卿を介す必要があり。
そうなると「公務が滞っている」等の理由で、すんなり事が進むとは思えなかったのだ。
さらに、出向く理由は他にもあった。
「だから、俺が抱えて連れて行く」
それなら否応なく、愛する妻に触れられるといった下心もあったわけだが。
ーー抱えてっ?
殿下とずっと密着するなんてっ……
ヴィオラは胸が、嫌悪感ではない騒めきに襲われる。
「っ、結構です!
一瞬たりとも触れぬようにと言った事、お忘れですかっ?」
「……ではどうして、ランド・スピアーズはいいのだ?」
「……それは私が、この者には心を許しているからです。
いつも守ってもらえば、1番に信頼するのは当然でしょう?」
苦渋の思いで、作戦通りの言葉を告げると。
サイフォスは考え込むように黙りこんだ。
「……何かご不満でも?」
居た堪れなくなって、強気で尋ねると。
「いや……
この慣れない王宮で、頼れる味方が出来てよかった」
そう視線を落として、寂しげに微笑むサイフォスに。
ヴィオラは胸を突き刺される。
ーーこの人は本当に、どこまで私の事をっ……!
これほどまでに夫を蔑ろにした、それどころか王太子を侮辱した発言にもかかわらず。
しかもその寂しげな笑顔から、深く傷付いている事が窺えるにもかかわらず。
一言の不満も口にせず、ただただヴィオラを思いやるサイフォスに……
心が握り潰されて、どうしようもなく揺さぶられるヴィオラ。
一方ラピズは……
噂とは違う、王太子の言動に。
そして手にとるようにわかる、ヴィオラの心情に。
ショックと焦りを感じていた。
「っ、では私が妃殿下をお運び致します」
ランド・スピアーズの申し出に、サイフォスは……
夫である自分は触れる事すら許されず、我慢しているのにと。
これ以上、自分の妻に他の男が触れるのは許せないと。
ましてや抱きかかえて密着するなど、耐えられないと。
そんな苦悶の思いに苛まれながらも。
早くヴィオラの足を治してあげたい一心で……
「……わかった、頼む」
苦し紛れに拳をぐっと握りながら、そう告げた。
ヴィオラは、そんな様子を見逃さず。
なるべくこちらを見ないようにして、寂しそうに歩くサイフォスの後ろ姿に……
申し訳なさで、泣きそうになっていた。
それを隠すために。
抱きかかえているランド・スピアーズの胸に、顔を埋めると。
チラと様子を伺ったサイフォスは……
まるで想いを寄せ合う恋人のような姿に、胸を切り裂かれたのだった。
公務にお戻りください」
「いや、もう一つ。
だがその前に、足の治療をさせてくれ」
「結構です。
治療なら、もう済んでますので」
「そうではなく、魔法で完全に治してもらう。
一緒に王宮魔術師の部屋に行こう」
ーー王宮魔術師っ?
そんな存在がいたのね……
そこでヴィオラは、ピンと閃く。
王太子妃なのに知らなかったという事や、わざわざこちらから出向くという事から、特別な存在だという事が窺えたため。
「足を痛めているのに、歩かせる気ですか?
その者を呼びつけてください」
そう見下して、ここぞとばかりに悪妃に扮したのだ。
「そうしたいところだが、手間が掛かるのだ」
そう、ヴィオラの侍女たちはその部屋を知らないため、ウォルター卿を介す必要があり。
そうなると「公務が滞っている」等の理由で、すんなり事が進むとは思えなかったのだ。
さらに、出向く理由は他にもあった。
「だから、俺が抱えて連れて行く」
それなら否応なく、愛する妻に触れられるといった下心もあったわけだが。
ーー抱えてっ?
殿下とずっと密着するなんてっ……
ヴィオラは胸が、嫌悪感ではない騒めきに襲われる。
「っ、結構です!
一瞬たりとも触れぬようにと言った事、お忘れですかっ?」
「……ではどうして、ランド・スピアーズはいいのだ?」
「……それは私が、この者には心を許しているからです。
いつも守ってもらえば、1番に信頼するのは当然でしょう?」
苦渋の思いで、作戦通りの言葉を告げると。
サイフォスは考え込むように黙りこんだ。
「……何かご不満でも?」
居た堪れなくなって、強気で尋ねると。
「いや……
この慣れない王宮で、頼れる味方が出来てよかった」
そう視線を落として、寂しげに微笑むサイフォスに。
ヴィオラは胸を突き刺される。
ーーこの人は本当に、どこまで私の事をっ……!
これほどまでに夫を蔑ろにした、それどころか王太子を侮辱した発言にもかかわらず。
しかもその寂しげな笑顔から、深く傷付いている事が窺えるにもかかわらず。
一言の不満も口にせず、ただただヴィオラを思いやるサイフォスに……
心が握り潰されて、どうしようもなく揺さぶられるヴィオラ。
一方ラピズは……
噂とは違う、王太子の言動に。
そして手にとるようにわかる、ヴィオラの心情に。
ショックと焦りを感じていた。
「っ、では私が妃殿下をお運び致します」
ランド・スピアーズの申し出に、サイフォスは……
夫である自分は触れる事すら許されず、我慢しているのにと。
これ以上、自分の妻に他の男が触れるのは許せないと。
ましてや抱きかかえて密着するなど、耐えられないと。
そんな苦悶の思いに苛まれながらも。
早くヴィオラの足を治してあげたい一心で……
「……わかった、頼む」
苦し紛れに拳をぐっと握りながら、そう告げた。
ヴィオラは、そんな様子を見逃さず。
なるべくこちらを見ないようにして、寂しそうに歩くサイフォスの後ろ姿に……
申し訳なさで、泣きそうになっていた。
それを隠すために。
抱きかかえているランド・スピアーズの胸に、顔を埋めると。
チラと様子を伺ったサイフォスは……
まるで想いを寄せ合う恋人のような姿に、胸を切り裂かれたのだった。
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