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追及2

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「殿下を殺すよ」

 苦しそうに吐き出された、その言葉に。
今度はヴィオラが目を見開いた。

「っっ……
なに、言ってるの?
っ、馬鹿な事言わないで!」

「馬鹿な事じゃない!当然だろうっ!?
ずっとヴィオラと生きてきて、ヴィオラを守る事が生き甲斐で、ヴィオラが俺の全てだったのにっ……
突然それを奪われて。
それでもせめて、側にさえ居られればっ。
心さえ繋がっててれば耐えられたのに!
それすら奪われたら……
奪った奴が、殺したいくらい憎くなって当然だろうっ!」

「っだからって!
殿下が何も悪くないって事はっ、わかってるでしょう!?」

「……殿下がどうだろうと、俺にとっては同じだよ。
むしろ、そうやって殿下を庇うほど……
余計殿下が憎くなるよっ!」

 そう言われて、返す言葉をなくすヴィオラ。
それでもどうにか宥めなきゃと、動転しながら模索する。

「……お願い、ラピズ。
そんな事怖い事言わないでっ?
いくら人払いしているとはいえ、何度も声を張り上げてたら……
不審がられて、聞き耳を立てられるかもしれないし。
盗み聞きされてる可能性だって、ないとは言い切れないわっ。
そしたらあなたの方が、反逆罪で処刑されてしまうのよっ?」

「……そうだな、殺る前に殺られるわけにはいかないな」

「ラピズ!」

 まだそんな事を!と思った矢先。
「心配いらないよ」と打ち消されて、ホッとするも。
続いた言葉に、さらなる衝撃を受けるヴィオラ。

「殺るのはランド・スピアーズで、俺が処刑される事はないから」

 そう、ランド・スピアーズは偽りの存在であるため。
サイフォスを殺した後、その伝説魔法を解除すれば……
ラピズ自身が刑に処される事はないからだ。

 ただそうなると、もう護衛騎士として側に居る事は出来なくなるが……
ヴィオラがサイフォスを好きなったのなら、どのみち側には居られないため。
もうその身分を維持する必要もなくなるのだ。

「っっ……
待ってラピズ、本気なのっ?」
ガタガタと慄くヴィオラ。

 このような完全犯罪の考えがまとまっているとなると……
思い付きや脅しだとは考えにくく。
今の身分であれば……
妃殿下がお呼びですと、ひと気のないところに呼び出す事も可能なうえに。
ラピズの腕前なら……
不意打ちの暗殺くらい、難なく実現出来るからだ。

「……本気だ、って言ったら?」

「駄目よ!そんなのっ……
っ、間違ってるわっ!」

「間違ってるのはこの世の中だろう!
どうして俺みたいな平民は、ちょっと逆らったくらいで、不敬な態度を取ったくらいでっ、簡単に殺されるのに!
王族は何をやっても……
殿下は俺の全てを奪っても、簡単に許されるんだよっ!
もしも立場が逆だったら……
人の女に手を出した、殿下はとっくに殺されてたよっ!
だから、そうしたいと思ったり……
それが可能なら、やろうとするのは当然だろうっ?」

 ラピズのやり切れない気持ちに、胸を痛めながらも……
ヴィオラはぎゅっと唇を噛んで、ゆっくりと首を横に振った。

「言い分はわかるけど……
法に則って命を奪うのと、個人的な怨恨で命を奪うのは、訳が違うわ。
第一、そんな事をして何になるの?
ラピズならきっと、後で後悔して苦しむはずよっ?」

「……そうとも限らないよ」

「っ、どういう事っ?」

「いや……
その時にならなきゃ、わかんないだろ?」

 ラピズは、サイフォスを殺せばヴィオラを取り戻せると思っていた。
しかし今はそれを否定されると思い、言葉を濁した。

「ラピズっ……
ねぇお願い、やめてっ?
あなたにはそんな愚かな事、してほしくないっ」
必死の思いに、涙が滲むと……

 ラピズは切なげに目を細めて、ヴィオラの頭を優しく撫でた。

「分かってる、しないよ」

「本当にっ?」

「うん。
だってヴィオラは、殿下を好きじゃないんだろ?」

 そう言われて、ヴィオラは背筋を凍らせた。
なぜならそれは、好きになったら殺すと言っているようなものだからだ。

 かといって、この流れでそれを止めれば……
好きにならなければいいだけだと。
その自信がないのかと。
かえって不審の目を向けられると思い。

 もうこれ以上、殿下に心を動かされないようにしなければと。
ヴィオラはきつく自戒しながら、コクリと頷いたのだった。



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