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その後1

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 生家に戻ったヴィオラは、シュトラント公爵に手厚く迎え入れられ……

「さすがは私の娘だ!
望まぬ結婚を自らの手腕で、望み以上の結果に変えたのだからっ。
しかも何のお咎めもなく、これほどの恩恵を受けるとは……
いや本当に大したものだ!」
そう賛辞と歓喜の言葉を浴びせられた。


 しかしヴィオラの心は、ずっと塞ぎ込んだままで……
別れを受け入れた日から、毎日部屋で泣き伏せ。
王宮から去る日は、馬車の中で泣きじゃくり。
戻ってからも、涙を流さない日はなかった。

ーーああ、サイフォス様に会いたい。
会いたくて、会いたくてたまらないっ……

 時が解決してくれると思っていたが、想いは募る一方で……
王宮を去るまでは、サイフォスに罪悪感を感じさせないように。
生家に戻ってからは、周りに心配をかけないように。
なるべく平静を装ったり、頑張って食べてはいたものの。

 サイフォスがいない人生など、何の意味もないと……
辛くてもう、何もする気力が起きず。
食事もほとんど、喉を通らなくなっていた。


 一方ラピズは……
ヴィオラから事の顛末を聞かされた時は、焦りや混乱をきたしたものの。
サイフォスに呼び出されて謝罪をした際は、逆に爵位や莫大な慰謝料の授与を言い渡されたため。
己を恥じ、深く謝意を抱き。
本来の姿に戻ってからは、ヴィオラに求婚するための準備を進めていた。

 というのも、それらの恩恵を授かる際……
「これで俺の代わりに、ヴィオラを幸せにしてやってくれ」
そうサイフォスに頼まれからでもあり。
それにより、土地を購入して屋敷を建てたり、環境や身の上を整えたりしていたのだった。

 もちろんシュトラント公爵からも、事前に婚姻の許可を得ていたが……
公爵の方は、日に日にやつれていくヴィオラを前に、早まったと焦りを感じていた。

 というのも公爵は、与えられた南部公領に、本拠地を移す事にしていたため。
現在のシュトラント家は、ヴィオラとラピズに管理を任せようと考えていたのだ。

 しかし2人が結婚しなかった場合。
今のヴィオラは任せられる状態ではない上に、そんな娘を残して移転するわけにもいかず……
現状を改善しようと、憂慮していた事を投げかけた。

「今朝も、食事を摂らなかったそうだな。
こうも望み通りになったというのに、どうしてそんなに塞ぎ込んでいるのだ」

「……王宮生活の疲れが出ているだけだと、言ったはずです。
なのでお父様は、引き続き移転の準備を進めてください」

「そうしたいところだが……
本当にそれだけか?
塞ぎ込んでいる理由は、他にあるのではないか?」

「どういう意味ですか?」

「……お前は殿下を、愛してしまったのではないか?」

 その言葉に誘発されて。
必死に諦めようとして押し殺してきたその気持ちが、ぶわりと涙になって溢れ出す。

「やはりそうか……
だったらどうして、見限られるほど悪妃に扮したのだ」

「……後悔、しています」
とだけ答えるヴィオラ。
いくら父親でも、暗殺や伝説魔法の事などを言うわけにはいかなかったからだ。
ましてや、酔って口を滑らせるような相手には尚更の事。

「だが後悔したところで、今さらどうにもならんだろう!
それにお前には、ラピズがいるではないか」

「私の心にはもう、サイフォス様しかいませんっ」

「だが所詮!他の女に心変わりするような男ではないかっ。
その点ラピズは、お前が他の男に嫁いでもなお、一途に愛してくれてるのだぞっ?」

「でもサイフォス様だけなんですっ!
私はあんなにも、大切にしてもらったのにっ……」
と言って、泣き崩れるヴィオラ。
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