ある友人について

miki

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彼と付き合い始めてから数ヶ月。今のところ特に変わったところはない。休日にたまに二人で遊びに行くし、部活の終わりにはみんなでぐだぐだと部室で過ごす。付き合う前と変わらない日々に僕は安心しきっていた。
しかし、変わらないはずはなかったのだ。

部活がないある日。学校にはこれ以上用はないので、僕はいつものようにすぐに家に帰ろうとしていた。
帰りの準備をしているとTが僕の机の前にやってきた。

「今日僕の家にこない?親もいないからさ」

彼にそう誘われるのは初めてだった。
別に僕は断る理由もないので素直にうける。でも帰りが遅くなりすぎると家族が心配するかな。
「たぶん18時くらいまでしかいられないと思うけど」
僕がそう言うと彼はうなずく。
「帰る準備してくるからちょっと待ってて」
彼はそう言い残すと足早に自分のクラスへと戻っていった。


彼の家は僕の家とは真反対の方向だった。
彼は最寄りの駅から歩いてすぐのマンションの7階に住んでいた。
大きさはそこまで大きくない。僕は一軒家に住んでいたので、当然といえば当然だが少し狭く感じた。

彼はゲームソフトを何本か出してきて、何がしたい?と聞いてきたので、僕はレーシングゲームを選んだ。僕の家族は僕がテレビゲームをすることをあまりよく思っていなかったので、普段あまりゲームをしていなかった。
そのためか、ゲーム自体はやったことがなく下手くそだったが、友達と一緒にゲームをする、この状況自体がすごく楽しかった。


二人ともそろそろ飽きてきたころだった。
「僕の部屋見てみたい?」
彼がそう尋ねて、普通に興味のあった僕はうん、と肯いて彼の部屋に案内された。

彼の部屋には机があり、ベッドがあり、クローゼットがあり、とごく一般的な部屋だった。
「あ、飲み物もってくるから適当なところ座ってて」
そう言って彼は部屋から出ていく。

僕はベッドにもたれかかるように床の上に座る。
ざっと部屋を見回してみても、きれいに整理整頓されていて、机の上さえぐちゃぐちゃになっている自分とは大違いだなと思う。

彼は麦茶の入った二つのグラスを持ってきて、片方をはい、と僕に手渡す。ありがとう、と言って僕は一口それを口に含む。自分の家の麦茶とは違う味がした。

彼も僕と同じように僕と向かいあいように床に座って、しばらくはたわいもない話をした。僕は基本話すのがあまり得意ではないので、彼が話すことに対して相槌を打ったり、つっこんだり終始聞き役になっていた。


時計をみるといつの間にか18時10分前になっていた。
「そろそろ帰らなきゃ」
僕は立ち上がり、帰り支度をはじめようとする。そこを彼に止められる。

「あのさ、帰る前にちょっとお願いがあるんだけど…」

彼らしくなく、少し弱気なお願いだった。どうしたの?とその続きを促す。

「キスしてほしい」

彼はまっすぐに僕を見て言った。
へ?
僕は彼を見たまま硬直してしまう。
そんな僕を見て、だめ?と彼は続けて聞く。

「あまりしたくはないかな」
僕はそう答える。
「君が僕としたくない、っていう気持ちもわかるんだけど、付き合ってくれるって言ったじゃないか」
「でも形式としてでしょ?」
「君が僕のものだって安心したいためにしたいんだ。一回だけでいいからお願い。」

僕は頼みごとを断るのが苦手だった。
たとえ自分がしたくないことでも少し自分が我慢すれば相手の要望を叶えられるなら、僕は自分が我慢する方を躊躇なく選ぶ。

「わかったよ。いいよ」

僕はTの望みを叶えることにした。

「じゃあするね」

彼の身長は私より15cmくらい高い。彼は上半身を屈めるようにして僕の唇に唇を合わせる。
彼のザラザラとした唇の感触を感じる。特に感情というものはわいてこなかった。

彼は唇を離すと、ありがとうと一言だけ言った。
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