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XX外伝 ――継ぐべき者たち――

継ぐべき者たち 2

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「お待ちください、柊様。今、誰かに案内を――」
 磨き抜かれた長い廊下を歩く中、盲目とは思えない足取りで先を行く柊に、伊吹が言った。
「いい。母の部屋は覚えている。――おまえはそこで待っていろ」
 柊は言い、初めて、父である十六夜秀隆のいない《イースター》で、制限なく母に会える時間に、足を急かせた。
 そう。今までは父たる十六夜秀隆の監視のもとでしか、会うことを許されてはいなかったのだ。そのために、地上のどこかへ連れ出されてしまった妹のことも、何一つ訊くことが出来なかった。
 妹……。どこかにいるはずなのだ。柊が母と引き離された後に、ここで生まれ育った妹が。年も名前も、何も解らない妹が。
 だが、十六夜秀隆はその妹さえここから連れ出し、癌を発症して死ぬかも知れないリスクを知りながら、実験動物のように地上で生活をさせている。
 その妹を探し出すためには、十六夜秀隆の監視なしで、ここへ来れるようになることが何より大事なことだったのだ。
 しかし、やっと単独でここに来ることが出来たものの、その妹に関しての記録は何処にもなく、手がかり一つ残されてはいなかった。《イースター》の研究施設の人間たちも、十六夜秀隆に言い含められているはずで、柊や伊吹が訊いたところで、口を割るとは思えない。――いや、そんなことを柊が尋ねようものなら、すぐに十六夜秀隆に連絡が行ってしまうだろう。
 あとは、自分で事実を掴むしか、ない。
 柊の妹が、確かにここで生まれた、というその事実を……。
 そして今日は、その事実を確かめるために、ここへ来たのだ。
 この頃はまだ、弟として十六夜に連れて来られた小さな子供が、本当は〈XX〉であり、柊の妹であるなどとは、知りもしなかったのだから。
 そんなことを考えながら歩いていたために、柊は、誰かが廊下の向こうから歩いて来ることに、ほんのすぐ側に来るまで気が付かなかった。
 静かな衣ずれの音と、人がいることで変わる空気の流れ――。柊はぶつかる寸前に足を止め、相手がどちらに避けようとするのか読み取るために、少し待った。
 だが、相手も茫としていたのか、それとも、見たことのないサングラスをかけた青年が歩いて来るのに驚いたのか、動けないように立ち尽くしている。
「失礼。前を塞ぐつもりはなかったが、この通り、目が見えないもので、気付くのが遅れた。私が掻取かいどり(打掛)の裾を踏まずに済むよう、どちらかに寄ってもらえるとありがたい」
 柊は言った。
 すると――。
 不意に、目の前の人物が倒れ込み、意識を失うように凭れかかった。
「――!」
 正面にいたため――そして、柊のすぐ側で倒れたため、何とか支えることは出来たのだが、目が見えない状況では、何が起こったのかも判らない。
「どうした? 気分が悪いのか?」
 地上の人間への嫌悪と違って、この《イースター》の人間には、親近感とも言うべき、自分に近いものだ、という感情しか湧いて来なかった。突き放して、放っておくことは出来なかった。
「申し訳……ありません……。気分がすぐれず……」
 若い娘の声だった。
「伊吹――いるか?」
 柊が声をかけると、
「ここに」
 少し離れた後方で、声がした。
「医者を呼んで来い」
「かしこまりました」


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