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1章 救世のユミル
3話 黒い噂の有名人
しおりを挟むそんな二人の会話より、聞き流せない、と言うようにダニエルがユミルに青い顔を向けた。
「なあ、流石に学生だから…様をつけろとまでは誰も言わないと思うけど、四公家の若君に向かって君付けはやめといた方が良いと思うぞ。せめて、先輩とか、さんとか…」
周りを見渡して怯えるように、両手でバツ印をつくって首を振るダニエルに、ユミルは今思い至った様子でうなずく。
「たしかに!ありがとうダニエル。気を付けるよ」
「ああ。…ゼクトラ様は恐い噂だってあるんだから、せっかく出来た友達が早々に首を切られでもしたらって考えると…うぅ」
その時、一年生塔前の芝生広場が途端に騒がしくなった。
先ほどまでの騒々しさとは一転、皆が何かひとつの場所に注目するように雰囲気が変わる。
ユミル、エリン、ダニエルの三名は首を傾げながら騒ぎの中心に身体を向けた。
コソコソと囁き合う者、興奮で周囲を押しのけて身を乗り出す者、頬を染めて一心に見入っている者など、皆の反応は様々だ。
「…待って、ゼクトラ様って聞こえた!今いるの!?」
かく言うエリンも、先ほどの迷惑になりたいわけではないという言葉はどこへやら、その名が聞こえた途端に大声で騒ぎ出し、ひと目見ようと渾身のジャンプを始める。
「ちょっと前に行ってみるか?」
「うんッ」
首が外れんばかりの肯定をした瞬間に動き出したエリンを追うように、ユミルとダニエルも急いでついていった。
少しずつ人と人の合間から、騒ぎの中心の人物が見え始める。
「あれが!!」
興奮するエリンの方には目も向けず、ユミルとダニエルも件の人物に目を奪われた。
「確かに、……美しいね」
思考が、思わず口をついて出る。
そこにいたのは、正真正銘の美丈夫だった。
青く光を反射する、濡羽のような黒髪に、神聖さを感じさせる神々しい黄金の瞳、白い肌は絹のようにきめ細かく、全てのパーツが完璧な形であるべき位置に納まっていた。
その中性的な美貌とは裏腹に、少年と青年の狭間である期間のアンバランスな魅力が、彼の微動だにしない無表情から増幅される。
神の最高傑作、噂の中でそう称されていたが、誇張でも何でもないのだろう。
かつて500年前に3国を滅亡に追い詰めた、傾国の王妃シルヴィアを見た時以来の衝撃だった。
「あんな圧倒的な顔面で来られると、嫉妬するような輩すらも湧かないだろうな。…あれはもう一種の暴力だろ」
隣でボヤくダニエルに笑みを送って、肩に手を置く。
「俺はまだ今日会ったばかりだけど、人への配慮や、率先して自分から動くことができるダニエルはとても良い男だなって感じたよ。ダニエルの良いところも彼に負けず、しっかり輝いてると思う」
急に褒めに入ったユミルに、ダニエルが涙ぐみ、たまらずといった風にガバッと抱きついた。
「ユミルよぉおおお!!なんて良いヤツなんだお前は!女の子だったら結婚したかったぜッ」
「あはは、それは遠慮しとこうかな」
「急に冷たい!」
そんな風に盛り上がっていると、少しだけ前の方でゼクトラを見ていたエリンが、驚き顔でこちらに走ってくるのが目に入った。
「ねぇちょっと!ゼクトラ様、あなたたちのこと見てない?!」
え?と二人で視線を戻すと、金色の瞳を驚愕に見開いているように見える、圧倒的な美貌の持ち主と目が合った。
「なんだ?」
お互いに困惑した表情で見つめ合う時間が結構な間続く。
「なんか、俺たちっていうより、ユミルのこと見てね?」
そう言われ、しかしあんな知り合いがいた覚えはないな、と後ろを確認してみたりもする。
ゼクトラに視線を戻しても、変わらず己のことを見ているのが伝わるので、いよいよ首を傾げた。
「顔に何かついてる?」
「…いや、目と鼻と口くらいしかついてないと思う」
しかし、ダニエルに質問をしてから顔を戻すと、ゼクトラはもうこちらから視線を切って歩き出していた。
彼は元の無表情に戻っており、すぐにその姿は校舎端の扉の奥へと消えて行く。
知り合いに似ていたけど違った、とかだろうか。
そのタイミングで、ちょうど待っていた教員たちが広場に到着したため、この場の事態はこれで一応終わりということになった。
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