孤影の城

誤魔化

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1章 救世のユミル

5話 おさんぽ

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「入学早々、深夜に出歩く不良学生1名…。補導しますか?まったく最近の若い者はねぇ」

 認識阻害魔法をかけているため、ユミルが呑気にそんなことを独りごちながら、もう殆どの部屋が灯りを消している寮の部屋を下から見上げる。

 当たり前だが、ユミル以外に外を出歩く生徒はいない。

 皆、濃い一日の疲れを癒やすべく、既に床についているのだろう。

「さて、…適当にブラブラ探検にでも、あ、…せっかくだし、久しぶりにあそこ行ってみるか」

 思い出すのは、当時親友のオストロとしょっちゅう酒を飲み交わした、懐かしの丘だ。

「確か、あっちの方向にあったかな」

 広大なオストラント学園の敷地の中、旧校舎裏に不自然な空き地があったはずだ。それは入学時にすぐ正門前の校内地図掲示板を確認して把握していた。

 ユミルが目指す丘は、特殊な魔力波長のひずみが空間全体に発生するエリアで、ブルーという魔草以外は、草木が生えることもなく、魔法の使用も困難になるため建物も建てられていないという可能性が高い。

 当時は学園なんて建っていなかったので、見晴らしがよく絶景が拝める穴場スポットだったのだが、今はもうそれも無いのだろうか。

(…500年も、経っちゃってるもんなぁ)

 当時、とても良い酒が手に入ったから、飲むのは10年後にでも取っておこうか、と酔っ払った勢いでこの地の土の中に埋めたことを思い出す。

(…あれは、…流石にもうダメになってるか?)

 行きつけの宿屋の店主から、酒は度数が高ければ何百年でも保つ、とは聞いたことがあるが、その場の勢いだったため、特に保存方法などもこだわってはいない。

(無理だろうなぁ)

 そんなことを考えながら歩いていると、早くも旧校舎の目の前にたどり着く。

 ユミルは戸惑うこともなく、そのまま無言で校舎の裏手へと回った。



(………………え、…)

 少し進んだだけで、景色がブワリと変化する。

 想像以上の衝撃に思わず、あふれんばかりに目を見開いて足を止めた。


「…ここはまだ、全くそのまま残っているのか」


 思い出の地、かつての記憶の中の丘は、当時と何ら変わりない光景でその場にあった。

 そりゃあ、建物などが無いことは既に確認済みだったのだが、500年という歳月は相当なものだ。

 地形が変わることや、環境が多少なりとも変化することは当然で、昔と同じ光景など期待もしていなかった。


 急速に駆け巡る懐かしさに、思わず唇が震える。

 まるであの頃に戻ったような錯覚に陥るが、ふと視界の端に映った自身の真新しい学生服が揺れたことによって、激しく渦巻いた様々な感情も少し落ち着いた。


 改めて辺りを見渡し、丘の中心に歩みを進める。

 そう広くない丘の真ん中には、小さな石碑がひとつ、ぽつんと鎮座していた。


「あはは。…なんだ、こんなとこに居たんだね。…二人とも」

 あまりに大きなサプライズの連続に、眉も目尻も口角も、一度だらしなく緩んでからは戻る気配を見せない。

 その石碑はあまりにも質素で、加工どころか、ただの丸い石に、刃物で文字だけが刻まれた様子で、しばらくは人の手入れも入っていないようだった。

 しかし、文字が潰れず最低限墓石の原型をとどめているのは、ひとえにこの土地の特性ゆえなのだろうか。

 そしてそこには確かに、こう刻まれていた。


『ーー我らが誇り高き魔導士団の戦士、魔剣聖オストロと賢人リリアナ、この地に眠る』


 何だかんだ、生まれ変わってからは前世のことにこだわるまいと心掛けてきた。

 旧友たちの墓参りなどと、先に死んだ身でする発想も頭にはなかったし。

 彼らは、墓に挨拶に来ないからと怒るような連中ではなかったが、何よりも謝るべきは、”10年後にここでまた飲もう”という約束から、500年という大遅刻をしてしまったことだろう。

 ユミルは一度墓石の前から少し離れ、あの時に埋めた酒瓶を探す。

「確かこのへんに…、あ、あった」

 魔草を引っこ抜いて、土に手を触れ、魔法で掘り起こす。この丘は魔法が使いにくいが、ユミルならば直接接触すれば問題はなかった。

「やっぱりまだ残ってるか」

 掘った穴に片手を突っ込み、出てきた分厚い大瓶の土を払う。

 もう殆ど読めなくなっているが、書かれているのは『リングランド産・アリア8番』。間違いなくあの時に埋めたものだった。

 ユミルは酒瓶の蓋を開け、チビっと口に含んだ。

「うん…。まあ、セーフと言えばセーフかな」

 首を傾げつつも笑ってうなずき、再び墓石のもとに歩いて、胡座をかいてドサっと座る。

「再会にはぴったりのモノだろ。ちょっと風味が落ちてるのは我慢してくれよ」

 そう言って、トクトクと墓石に酒を注いだ。

 俺たちの故郷は滅びたが、そこでは酒好きの墓にはたっぷりと酒を注いでやるのが風習だった。

 リリアナの方はめっぽう酒癖が悪かったため、面倒見のいいルキウスから全力で禁止されてからは、猛反省して控えていたのだが、ここで酒盛りをする俺たちを羨ましそうに見てムクれていたのを思い出す。

 まさかこうして、自分が懐かしむような機会が巡ってくるとは。

 瓶の中に半分ほど残った酒をグイッと呷り、あの頃のようにプハァっと息を吐き出す。

 自分たちが魔力と聖力を併せ持つ体質になってからは、酒も毒も一緒くたに勝手に浄化されて、まったく酔えない身体になってしまったのだが、何よりも大事なのは気分と雰囲気だ。


「来るのが遅くなってごめん。…俺今けっこう元気でやってるよ」

 ユミルは、最高の気分でニカッと笑って、まだこの丘からも見える、星の輝く夜空を見上げた。

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