孤影の城

誤魔化

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1章 救世のユミル

6話 記憶 ①

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『ーーユミル!』

 いつもの丘を、目に涙を浮かべたオストロが駆け上がってくる。

『聞いてくれよ、リリアナのやつがまた俺の影口をギルドで喋ってたんだ!』

 丘の頂上に着くなり崩れ落ちたオストロに、ユミルは呆れたように横にしゃがみ込む。

『そんなに落ち込むなら、もう少しリリアナにも優しくしてやったらいいのに。街の女の子たちにはあんなにキラキラした笑顔でさっむいセリフ囁いてるけど、リリアナ限定で否定から入るところをまず直したら?』
『え、待ってそんな寒いのか!?』

 温厚なユミルの言いように驚愕したオストロが、ガバッと顔を上げて真っ青になる。

『さあ、リリアナは路上の虫を見るような目を向けてた気がするけど、ウケは良くないんじゃない?』
『そんなぁ』

 幼い頃から全く変わらない彼らの関係性が微笑ましくて、思わず笑ってしまう顔を隠しながら、オストロの分の酒をグラスに注ぐ。

『まあ飲みなよ。…リリアナも嫌いな奴と長く一緒にいるような性格じゃないだろ?思い切って気持ちを伝えてみないと状況は変わらないし、ゆっくりしてると他の人に取られるかもね』
『ほッ、他のやつって、例えば!?』

 動揺する様子が面白くて、悪戯心が湧いたユミルが目を細めて街の方を見る。

『そりゃあ、リリアナは人気が高いから。ギルドでも競い合って話しかけに行く連中は多いし、リリアナ行きつけのカフェの店員とか、花屋の手伝い、雑技団の若連中に、それから宿屋のカールも、この前は微笑みかけられて頬を染めてたよ。ま、可能性はどこにでも転がってるさ』
『そんなにモテてるのか?』

 普段リリアナと言い争ってるオストロは、破天荒で攻撃的なリリアナの性格を多く見ているため、女性としての人気が高い様子は想像していなかったのだろう。

『俺だって、天真爛漫で笑顔が可愛いリリアナは魅力的に思うよ』
『ユミルッ!?』
『あはは、冗談だって』

 本気で焦ったようで、青い顔に涙を浮かべたオストロがゆるゆるとうなだれる。

『そういえば、この前ルキウスがさぁ、寝落ちしたリリアナを横抱きで部屋まで運んで、そぉぉっと毛布をかけてやってたんだ。…あれって好きってことなのか??なあ!?』

 ユミルが見る限り、ルキウスがリリアナに抱く好意は少なからずそちらに近いと感じているが、オストロがこんな感じなのはリリアナ以外は知っているし、ルキウスもオストロを応援しつつ、どうやらそういうのには疎いようで、自分の件には無自覚であるらしい。ルキウスの気持ちがしっかりと育つ可能性も低くはないだろうが、それを今ここで言って聞かせるほど無粋ではない。

『ルカの真面目な気質はよく知ってるだろ。俺だってその場面に遭遇したら同じことをやったよ』
『…確かにそうか』

 ルキウスは元貴族の出だからか、面倒見がよく真面目で、魔導士団のオカン的な存在だ。オカンと言ったら凄く怒られるが。

 仲間内にあまり不和が起こるのは嫌だが、みんなに幸せになってほしいし、人生経験は多いに越したことはない。誰がいつ死ぬかわからない仕事をしていることもあって、今その時を全力で生きることが我々の掟だ。

『取りあえず、リリアナと喧嘩せずに一日を終わらせることが当面の課題かな』
『うぐっ』
『はやく状況を変えたいんなら、プレゼントでも用意してみたら?』
『それは…、花とかか?』

 頬を染めて斜め下を向いたオストロに、ユミルは目を見開いて満面の笑みを浮かべた。

『あはは、オストロって存外、ロマンチックなとこあるよね!うんうん、気持ちが籠もってて凄く良いと思うなぁ』
『はぁ!?プレゼントって普通花束なんじゃないのか!?他に何かあるのか?』
『ふふ、いや、花束以外にないよ。これ以上ないね、フフッ、うん。素敵だなあ』
『あ!?おい、笑うなッ、だ、誰にも言うなよッ??』

 笑い転げるユミルと、焦るオストロの背後から、また聞き慣れた声が降ってくる。


『…何を誰にも言うなって言ってたの?』

 丘に上がってきたのは、同じく魔導士団所属のニーアとシモンだった。

『何でもない!』
『あ、ねぇ二人とも聞いてよ、オストロったらさぁ…』
『ッダァァァァァァァァ!!!くっそぉ』

 丘中を転げ回る勢いで悶え出したオストロがあまりにも面白いのだが、揶揄いすぎたか、と笑いすぎで滲んだ涙を拭って手招く。

『ほら、せっかく二人も来たし、四人で飲もう』

 そんなに早く切り替えられるか、と恨みがましい目でこちらにブスくれているオストロを見て、ニーアが肩をすくめてユミルを嗜める。

『一応は団長なんだから、明日の仕事に支障が出ないよう、ほどほどにしなよね』
『うん。ついやりすぎたかな、気を付けるよ』

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