孤影の城

誤魔化

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1章 救世のユミル

7話 記憶 ②

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 苦笑して頬を掻きながら、親友殿が機嫌を直すように、ユミルが亜空間から彼の好物を取り出した。いつもこれでコロっと忘れてくれるので、流石に学習した方がいいのではないか、と逆に心配になってくる。

『ほら、オストロ、つまみにブリーグルの肉もあるよ』
『お!!』

 先ほどまでのしなしな具合はどこへやら。スクッと立ち上がったオストロが、何事もなかったかのように戻ってきて座る。

『焼きか?』
『これはさっきギルド長が差し入れしてくれたんだ。ハーブと特製ソースの蒸し焼きだって』
『美味そう!!』

 すっかり元気になったオストロが素早く齧り付くのを見て、シモンも手に持っていた物を前に出す。

『これも先ほど、マリアンヌという娘から貰った』

 その手には、そこらでは手に入らないような高級酒があった。

『…マリアンヌ?』

 誰かと首を傾げるユミルに、ニーアが補足する。シモンは口数が多い方ではないのだ。

『前回の依頼主のご令嬢。確か依頼の魔物を倒した後、その魔物から呪いを受けてた彼女も解呪された、とか言ってた。そのお礼らしいよ』
『あー、領主のとこの。けどこれ、結構良い代物じゃない?』

 大瓶には、”リングランド産・アリア8番”と記されている。

 確か世界に10本しかないという噂の、超お高いやつである。このまえ帝国の大規模オークションで、そのアリア3番とやらがとんでもない値段で落札されたとか言う噂を耳にした。辺鄙な街の一傭兵魔導士団には勿体無さすぎる代物なのではないか。

『…アリア8番?』

 そこで、ブリーグルの肉料理を4人分全て食べ終わったオストロが、ニョキッと頭を出して瓶を覗き込んだ。

『とんでもなく高い酒だよ』
『まじ?いくら?』

 好奇心に目を輝かせているオストロの耳に、オークションでの最終落札額をコソコソと耳打ちする。

 オストロはとても飛び上がった。

『ッ、ナぁぁッーー!』

 冷静な三名が、高く飛ぶオストロを見つめ、降ってくるオストロを見つめた。

 愉快な親友に笑うユミルの肩を揺さぶり、盗られる前に今すぐ飲もうぜ!と叫ぶオストロに、ニーアが首を傾げる。

『そんな上等なモノ、特別な時に取っとかなくていいの?戦果を上げた時とか、祝い事の場でとか…今でいいの?』

 その言葉に、オストロもハッと目をひらく。

『確かにッ!』

 それほどの酒だ。

 今消費するのはあまりにももったいないというのは当然の話だった。


『…そうだ!…10年後、今から丁度10年後にこの場所で飲もうぜ!』


 名案だと言わんばかりに立ち上がったオストロが三人を見回した。

『何で10年?』
『キリがいいだろ。こういう約束は男の浪漫だし』

 まあ団長が楽しそうならいいか、というのが結局の俺たちの心情だ。

『まあ、素敵かもね。私は良いと思うよ』
『うん。ルカとかも割とこういうの好きだしね』
『賛成だ』

『よっしゃー!』

 三人の同意を勝ち取ったオストロが、剣の柄を使ってせっせとその場に穴を掘り始める。

『じゃあ、10年後のこの日、他の三人も引っ張ってきて全員で酒盛りな!リリアナは可哀想だから、その日だけは酒も解禁で!』

 機嫌良くニコニコと笑っているオストロがいつまで経っても少年のようで、肩をすくめたユミルも笑みを滲ませながら穴を掘るのを手伝った。

『でもさ、リリアナが飲むならストッパー役は誰がやるんだよ。ルカもその日くらいはちゃんとゆっくり飲みたいだろうに』
『うっ、ま、まあ…10年後ならちょっとは改善されてるだろ』
『…それは、…想像つかないな』


 その頃には、オストロとリリアナの関係性も変わっていたりするのだろうか、などと考えながら酒瓶を見つめる。ちょっと想像がつくような。まったく想像できないような。

『…やっぱりさ、リリアナの件は焦らなくてもいいんじゃない?』
『え?』

 横で既にいつものツマミと酒を楽しみ始めているシモンとニーアが、興味をひかれたのかこっそり視線を送ってくる。

『オストロなら大丈夫だと思うな。…やりたいように、…自分のペースでやりなよ』


 二人とも幼馴染で親友だが、可愛い弟分と妹分のような存在だ。

 焦って関係を変えようとするのは、やはり彼らには似合わないのかもしれない。

 ゆっくり変わっていく二人が、そしてこの魔導士団が成長していく過程にこそ、とんでもない価値がある。



 ユミルは、10年後、再びこの酒瓶を拝む日が楽しみだと笑って、柔らかい土を覆せた。


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