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1章 救世のユミル
8話 黒毛の狐
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入学式の翌日。
学園での初めての授業も終わり、昼休憩後の余りの時間に、少し構内を見て回って来ようと思い至り、エリンとダニエルと別れ一人になったユミルは、迷路のように入り組んだ木々の道が続く中庭に足を踏み入れた。
基本的にはこの国でよく見る品種の花や草木が多いのだが、時たまここの気候では自生が難しい花などが並ぶ一角もあり、見ていて非常に楽しい場所だ。
「ん?」
数メートル先の植え込みが急にガサリと動いた。
人ほどの高さはなく、足元に近い位置しか動いていない。
この学園はたしか魔物や家畜の飼育は禁止で、例外である生物学塔の管理システムは、生徒の安全のためにとても厳しく管理されていると聞いたのだが。
しばらくガサガサと植え込みが動いたあと、ひょっこりと黒い毛並みの動物が頭を出した。
「…あれ?」
前と後ろの手足をプルプルと振って、付いた木の葉を落としながらそれが全身を現す。
「君は、いつぞやの」
見覚えのある、黒い狐だった。
3年ほど前だったか、転生したユミルが育った田舎町の森の中で魔物に襲われていた子だ。あの田舎町からこの学園はとんでもない距離があるはずなのだが、世の中不思議なものである。
見る限り狐はあの頃より少々成長したようだが、いまだ身体のサイズは猫ほどの大きさだ。
(…いったい、なんて言う生物なのか)
この500年の間に新しい種でも生まれたのか、とも思うが、今世でもこんな生き物は見聞きした覚えがない。
その黒狐は、ユミルの前にちょこんと座ったあと、くりっとした金色の目で見上げてきた。
「?…こんにちは。お久しぶりですね」
どうしたのだろうと首を傾げて挨拶してみるが、当たり前に狐は言葉を返さない。
「その後もお元気そうで何より」
ひとまず、狐の前にしゃがんで右手を差し出してみる。
「ここの誰かに飼われてるの?」
狐は少し戸惑ったあと、鼻先でちょんっと指の背に触れた。
「おや?拒まない」
どうやら受け入れてくれるらしい、と遠慮なく頬から顎へと撫でてみる。
狐も最初は固まって微動だにせず手を受け入れていたが、次第に目を閉じて呼吸も緩やかになる。
「相変わらず、綺麗な毛並みだなぁ」
よーしよしと撫でながら、もふもふでふわふわな毛並みを堪能する。
魔導士団時代、小動物愛好家のリリアナ、シモン、ニーアに連れられてよく森に入っていたことを思い出した。
彼らは小動物が好きだが、愛情の強い彼らよりも、ユミルとルキウスがいる時は殆どがこの二人の周りに集まるのだ。逆にオストロとアドレビットがいると、動物たちは全くと言って良いほど寄り付かなくなる。ユミルに加えて、ルキウスまでいると戦力過多で三人の方に回ってこないからと、比較的暇なユミル一人が捕獲されて森に連行されるのが常だった。
そこで鍛えた撫での技術。けっこう魔法と同じくらいに自信がある。
既に、この黒い毛並みの狐も、目をトロンと細めて頭を預けていた。
「ーーあれ、新入生?道に迷ったの?」
すると、背後から歩いてきていた3年生らしき女生徒二人組に声をかけられる。
「いえ、散歩中なんです。大丈夫ですよ」
「…そう?ならいいのだけど」
ニコッと笑って返すが、女生徒らはしゃがみ込んでいるユミルを不思議そうに見つつも通り過ぎていった。
ユミルは首を傾げる。
「他の人には君の姿が見えてないんだね?」
しかしいつの間にか、黒狐はすでにその場でスタッと立ち上がり、こちらに背を向けて顔だけで振り返っていた。
その目は付いてこいと言っているように感じられる。
「…何か、案内してくれる所があるのかな」
不思議な再会もあるものだ。
親友の名を冠したこの学園は、なんとも奇妙で楽しい場所であるらしい。
学園での初めての授業も終わり、昼休憩後の余りの時間に、少し構内を見て回って来ようと思い至り、エリンとダニエルと別れ一人になったユミルは、迷路のように入り組んだ木々の道が続く中庭に足を踏み入れた。
基本的にはこの国でよく見る品種の花や草木が多いのだが、時たまここの気候では自生が難しい花などが並ぶ一角もあり、見ていて非常に楽しい場所だ。
「ん?」
数メートル先の植え込みが急にガサリと動いた。
人ほどの高さはなく、足元に近い位置しか動いていない。
この学園はたしか魔物や家畜の飼育は禁止で、例外である生物学塔の管理システムは、生徒の安全のためにとても厳しく管理されていると聞いたのだが。
しばらくガサガサと植え込みが動いたあと、ひょっこりと黒い毛並みの動物が頭を出した。
「…あれ?」
前と後ろの手足をプルプルと振って、付いた木の葉を落としながらそれが全身を現す。
「君は、いつぞやの」
見覚えのある、黒い狐だった。
3年ほど前だったか、転生したユミルが育った田舎町の森の中で魔物に襲われていた子だ。あの田舎町からこの学園はとんでもない距離があるはずなのだが、世の中不思議なものである。
見る限り狐はあの頃より少々成長したようだが、いまだ身体のサイズは猫ほどの大きさだ。
(…いったい、なんて言う生物なのか)
この500年の間に新しい種でも生まれたのか、とも思うが、今世でもこんな生き物は見聞きした覚えがない。
その黒狐は、ユミルの前にちょこんと座ったあと、くりっとした金色の目で見上げてきた。
「?…こんにちは。お久しぶりですね」
どうしたのだろうと首を傾げて挨拶してみるが、当たり前に狐は言葉を返さない。
「その後もお元気そうで何より」
ひとまず、狐の前にしゃがんで右手を差し出してみる。
「ここの誰かに飼われてるの?」
狐は少し戸惑ったあと、鼻先でちょんっと指の背に触れた。
「おや?拒まない」
どうやら受け入れてくれるらしい、と遠慮なく頬から顎へと撫でてみる。
狐も最初は固まって微動だにせず手を受け入れていたが、次第に目を閉じて呼吸も緩やかになる。
「相変わらず、綺麗な毛並みだなぁ」
よーしよしと撫でながら、もふもふでふわふわな毛並みを堪能する。
魔導士団時代、小動物愛好家のリリアナ、シモン、ニーアに連れられてよく森に入っていたことを思い出した。
彼らは小動物が好きだが、愛情の強い彼らよりも、ユミルとルキウスがいる時は殆どがこの二人の周りに集まるのだ。逆にオストロとアドレビットがいると、動物たちは全くと言って良いほど寄り付かなくなる。ユミルに加えて、ルキウスまでいると戦力過多で三人の方に回ってこないからと、比較的暇なユミル一人が捕獲されて森に連行されるのが常だった。
そこで鍛えた撫での技術。けっこう魔法と同じくらいに自信がある。
既に、この黒い毛並みの狐も、目をトロンと細めて頭を預けていた。
「ーーあれ、新入生?道に迷ったの?」
すると、背後から歩いてきていた3年生らしき女生徒二人組に声をかけられる。
「いえ、散歩中なんです。大丈夫ですよ」
「…そう?ならいいのだけど」
ニコッと笑って返すが、女生徒らはしゃがみ込んでいるユミルを不思議そうに見つつも通り過ぎていった。
ユミルは首を傾げる。
「他の人には君の姿が見えてないんだね?」
しかしいつの間にか、黒狐はすでにその場でスタッと立ち上がり、こちらに背を向けて顔だけで振り返っていた。
その目は付いてこいと言っているように感じられる。
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