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1章 救世のユミル
13話 恋愛ブーム
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それから2ヶ月後。
若くなると時が経つのも早いもので、すっかりと学園生活に慣れたユミルは、今日も例に漏れず、黒狐の待つ秘密基地へと向かった。
「たっだいま~!」
この2ヶ月の間、小屋の元の持ち主である狐が特に難色を示さないのをいいことに、ユミルはどんどんと小屋に物を増やして、しっかりと自分が過ごしやすい部屋に仕立てていた。
絨毯から始まって、たくさんのクッションや植物、果ては、住人が狐だけなら絶対に必要ないであろう緻密な模様のカーテンまで増えている。趣味は完全に500年前のいい年したおっちゃんのセンスだが、流行遅れも何周か回ればセーフだろうという目論見だ。別にユミルはセンスが悪い方ではなかった(と思う)し、これらも亜空間の中で持て余していた物だが、最高級品ばかりなので大目に見てほしい。
なので、今や入室の挨拶は「お邪魔します」や「こんにちは」ではなく、「ただいま」だ。
本当のところ、寮の自室よりも断然こちらの方が「ただいま」感があるので、親密度としても、狐殿ともけっこう仲良くなれたのではないかと思っている。
部屋に入って早々、モフモフで愛らしい狐殿に軽いハグで挨拶し、嫌がられる前にパッと離れて、今日の土産を机に載せる。
元々こうして自分から距離を近づけていくタイプではなかったのだが、おそらく新鮮で楽しい学園生活に浮かれているのだろう。
ユミルは最初の笑顔から一転、少し疲れた様子でドサリとソファーに腰を下ろす。
「なあ、聞いてくれよ。ダニエルのやつ、エリンが好きなのに、まったくと言っていいほどアプローチの才能がないんだよ」
首を横に傾けて、くたびれたようにため息を吐き出すユミルの膝に、らしくないなと驚いた黒狐が登って来る。
「好きな女の子の見てる前で、他の女生徒をデートに誘うのは流石にないよなぁ…」
何が駄目かって、エリンにも、その女生徒にも失礼だし、それじゃあダニエルの恋路が成功することはなさそうなので、誰も幸せにならないという部分が一番駄目だ。
そのくせ、恋愛相談を持ちかけているユミルに対しても、想像力を働かせて”エリンはユミルのことが好きなのではないか”などと考えて、大げさに泣いて落ち込むのだ。寮の部屋に引きこもって授業にこなかった日もある。
「ダニエルの良いところは、細かいところまで人を思いやれる人格なのに、あれじゃあエリンが気づく前に暴走するんじゃないかな…」
彼は最初の印象よりも随分、恋愛方面において不器用な男だった。
エリンの性格は強かで、人のこともよく見ているが、ダニエルに対しては友人として気を許しているのか、向けられた好意には気づいていない様子なのだ。
なんとなく、昔の親友オストロの、長年のリリアナへの恋慕を相談され続けていた思い出と似ているような気がする。
ユミルの勘だが、あれは結構長引くぞ…、と経験則が言った。
「…やっぱり、14歳の学生ってだいぶ若いのなぁ」
学園は今まさに、恋愛ムード真っ只中。
どこもかしこも出来立てカップルや告白イベント、人気者の取り巻きに、意中の相手を取り合う喧嘩など、色恋沙汰で溢れかえっていた。
最近では、流行に乗じて「恋が絶対に叶う!イチコロ惚れ薬」なるものを無断で販売して、教員たちに連行されて行った生徒も見かけたほどである。
ユミルも最初の方は、微笑ましい幸せな空気感だと頬を緩ませていたのだが、流石に若い熱気に当てられすぎたのか、環境の変化による精神的な疲労は少し溜まっているかもしれない。
しかし、せっかくここに来て、愚痴紛いのことだけ喋っていくのも狐に失礼というものだ。
ユミルの膝の上で、やれやれと話を聞いてくれていた黒狐を撫で、癒される格別な時間に全力で集中する。
「あ、君は気になる子とか、ツガイとかいないの?」
ここ最近の事もあって、やはり話題は恋愛話に行ってしまう。
ワクワクと目を輝かせて狐の顔を覗き込んだユミルを、一瞬だけチラリと見上げて、呆れたようにプイッとそっぽを向かれてしまったので、答えは分からずじまいだった。
いつか、この狐がパートナーを連れてくる日も来るのだろうか…、などと考えながら、この日ユミルが昼寝に入ったからか、その時の夢には、黒狐がパートナーを紹介すると言って、軍馬ほどのサイズの、変な赤い魚を連れてきた、謎すぎる悪夢を見たのだった。
若くなると時が経つのも早いもので、すっかりと学園生活に慣れたユミルは、今日も例に漏れず、黒狐の待つ秘密基地へと向かった。
「たっだいま~!」
この2ヶ月の間、小屋の元の持ち主である狐が特に難色を示さないのをいいことに、ユミルはどんどんと小屋に物を増やして、しっかりと自分が過ごしやすい部屋に仕立てていた。
絨毯から始まって、たくさんのクッションや植物、果ては、住人が狐だけなら絶対に必要ないであろう緻密な模様のカーテンまで増えている。趣味は完全に500年前のいい年したおっちゃんのセンスだが、流行遅れも何周か回ればセーフだろうという目論見だ。別にユミルはセンスが悪い方ではなかった(と思う)し、これらも亜空間の中で持て余していた物だが、最高級品ばかりなので大目に見てほしい。
なので、今や入室の挨拶は「お邪魔します」や「こんにちは」ではなく、「ただいま」だ。
本当のところ、寮の自室よりも断然こちらの方が「ただいま」感があるので、親密度としても、狐殿ともけっこう仲良くなれたのではないかと思っている。
部屋に入って早々、モフモフで愛らしい狐殿に軽いハグで挨拶し、嫌がられる前にパッと離れて、今日の土産を机に載せる。
元々こうして自分から距離を近づけていくタイプではなかったのだが、おそらく新鮮で楽しい学園生活に浮かれているのだろう。
ユミルは最初の笑顔から一転、少し疲れた様子でドサリとソファーに腰を下ろす。
「なあ、聞いてくれよ。ダニエルのやつ、エリンが好きなのに、まったくと言っていいほどアプローチの才能がないんだよ」
首を横に傾けて、くたびれたようにため息を吐き出すユミルの膝に、らしくないなと驚いた黒狐が登って来る。
「好きな女の子の見てる前で、他の女生徒をデートに誘うのは流石にないよなぁ…」
何が駄目かって、エリンにも、その女生徒にも失礼だし、それじゃあダニエルの恋路が成功することはなさそうなので、誰も幸せにならないという部分が一番駄目だ。
そのくせ、恋愛相談を持ちかけているユミルに対しても、想像力を働かせて”エリンはユミルのことが好きなのではないか”などと考えて、大げさに泣いて落ち込むのだ。寮の部屋に引きこもって授業にこなかった日もある。
「ダニエルの良いところは、細かいところまで人を思いやれる人格なのに、あれじゃあエリンが気づく前に暴走するんじゃないかな…」
彼は最初の印象よりも随分、恋愛方面において不器用な男だった。
エリンの性格は強かで、人のこともよく見ているが、ダニエルに対しては友人として気を許しているのか、向けられた好意には気づいていない様子なのだ。
なんとなく、昔の親友オストロの、長年のリリアナへの恋慕を相談され続けていた思い出と似ているような気がする。
ユミルの勘だが、あれは結構長引くぞ…、と経験則が言った。
「…やっぱり、14歳の学生ってだいぶ若いのなぁ」
学園は今まさに、恋愛ムード真っ只中。
どこもかしこも出来立てカップルや告白イベント、人気者の取り巻きに、意中の相手を取り合う喧嘩など、色恋沙汰で溢れかえっていた。
最近では、流行に乗じて「恋が絶対に叶う!イチコロ惚れ薬」なるものを無断で販売して、教員たちに連行されて行った生徒も見かけたほどである。
ユミルも最初の方は、微笑ましい幸せな空気感だと頬を緩ませていたのだが、流石に若い熱気に当てられすぎたのか、環境の変化による精神的な疲労は少し溜まっているかもしれない。
しかし、せっかくここに来て、愚痴紛いのことだけ喋っていくのも狐に失礼というものだ。
ユミルの膝の上で、やれやれと話を聞いてくれていた黒狐を撫で、癒される格別な時間に全力で集中する。
「あ、君は気になる子とか、ツガイとかいないの?」
ここ最近の事もあって、やはり話題は恋愛話に行ってしまう。
ワクワクと目を輝かせて狐の顔を覗き込んだユミルを、一瞬だけチラリと見上げて、呆れたようにプイッとそっぽを向かれてしまったので、答えは分からずじまいだった。
いつか、この狐がパートナーを連れてくる日も来るのだろうか…、などと考えながら、この日ユミルが昼寝に入ったからか、その時の夢には、黒狐がパートナーを紹介すると言って、軍馬ほどのサイズの、変な赤い魚を連れてきた、謎すぎる悪夢を見たのだった。
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