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番外30.αの王子様とΩの眠り姫(パラレルオメガバース・山口視点)
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某月某日、某居酒屋にて。
Kカンパニーが誇るエリート集団である、本社第一営業部が勢ぞろいのいつもの飲み会では、最近特に目撃することの増えたある光景が、第三課第二グループ担当である山口憲一の目の前で繰り広げられていた。
王子様が、眠り姫をお膝抱っこ。
からの、羽交い絞めに近い後ろからのハグ。
おい藤堂。お姫様が顔真っ赤に染めて嫌がってるから、やめてやんなって。
ホントまあ、あれがKカンパニー第一営業部が誇る高潔王子様の姿かと思うと、父ちゃん情けなくて、涙でてくらぁ!
……じゃなくて。
Kカンパニー本社第一営業部のプリンスと名高い藤堂隆一の同僚であり、先輩である山口は、心の中で自らにツッコミをいれつつ、目の前の後輩の姿に大きくため息をついた。
全くこいつはホントに、あの人が絡むと人格が変わるというか本性が丸出しになるというか。
とにかく、プリンス感が台無し。
「瀬川さん、もう遅いし、俺と一緒に帰りましょう?ね?」
「やだよ!だって藤堂、いつも俺にエッチなことしようとするもん!」
「しません。今日はしませんから」
「そんな事言って、いっつも触りまくるし、首噛もうとするし!」
「今日は絶対噛まないから!ね?」
藤堂の腕の中で身を捩って暴れ、そこから逃れようとしているのは、4月の異動で事業部から鳴り物入りでやってきた第一営業部主任、瀬川冬夜その人だ。
長い腕の牢獄に囲われ、頬をピンクにそめてイヤイヤするその姿には、その辺のグラドルちゃん顔負けのいろっぽかわいさが漂っている。
対し、その彼を腕に留めようとする藤堂はといえば、上品王子の仮面がごっそり剥がれ落ち、まるで、捕らえた獲物を逃さんとする野生の獣さながら。
プリンス藤堂ともあろうものが、なんともなさけない、とは思うがしかし、その気持ちはわからないでもない。
αの男なら誰でも、瀬川に惹かれずにはいられない。
誰もがひれ伏す美貌の持ち主で、高い仕事能力もある。なのに、超のつく天然ぶりを披露して周りを和ませるかわいさ。
その上彼は、エリート集団である第一営業部では非常にめずらしい、Ωでもある。
この世には、男と女という性別の他に、α、β、Ωという種別がある。
まあこの辺のみなさんお詳しいと思うので説明は省略するとして。
とにかく、αが多い第一営業部の中で、Ωは瀬川ただ一人。
読者の皆様はもうお察しになられていらっしゃるだろうが、藤堂はもちろんαである。
αの中でもトップクラスの能力を持つ藤堂は、山口が知る限りでも、男女問わず数多くのΩ性を引き寄せては言い寄られ続けていた。
本人はそれに辟易している様子だったし、過去にはそのわずらわしさからか、「Ωと番うつもりはありません」ときっぱり言い切っていた時期もあった。
それが、どうだ。
瀬川が着任の挨拶に来た時に見せた、藤堂の飢えた肉食獣のような目。
藤堂が瀬川の姿を捕らえたあの瞬間を、山口は今でも忘れられない。
「あーあ。瀬川主任随分お酒飲んじゃったみたいだし、藤堂くんも必死よね」
憐れなαの男の姿に、隣に座る鎌田がコロコロと笑っている。
「まあなぁ。ほっとくとどこの馬の骨に歯形つけられるか、わかったもんじゃないからな」
あんな麗人が、よくぞ今まで誰の番にもされずに無事にいられたものだ、と、山口はその奇跡に感動すら覚える。
酔って体温の上がった瀬川からは、αの自分たちを虜にする、たまらなくいい匂いが漂っている。
おそらく藤堂は、やさしく瀬川をなだめているように見せていても、その実必死に理性を保ち、なんとかして瀬川を守ろうとしているに違いない。
自分から。
そして、同僚のα達から。
藤堂は瀬川の体を胡坐の間に入れ込み、どこにも逃がさぬよう、後ろから囲うようにして瀬川を抱え込んでいる。
そうでもしておかないと、ど天然のあの主任は、お酒をついでくれるα狼たちの所へ危機感なくフラフラと寄って行ってしまうのだ。
自分が、どれだけ男を誘う匂いを振りまいているかも知らないで。
それでも実は、瀬川以外の誰もが知っている。
彼が、藤堂のものであることを。
今までどんな美男美女にも興味を示さなかった藤堂が、瀬川だけに執着し、必死に自分のものにしようとあがいている姿を見て、誰もが「これは仕方がない」と思っているに違いない。
強烈に惹かれ合う運命の相手という者が存在することを、今、第一営業部の全員が思い知らされている。
「んーーーっ!あー!藤堂っ!イヤだってば!首噛まないでって!」
「ベルトの上からなら、いいでしょ?」
「ぎゃっ!今度は耳噛んだぁ!」
「首は噛んじゃダメだと言われましたけど、耳はダメって聞いてませんよ」
いちゃいちゃしているようにしか見えない二人のやりとりに、山口と鎌田は顔を見合わせて、やれやれと肩をすくめる。
「なあ。あれ、公然猥褻だろう」
「そうねぇ。まあ、服脱いでるわけじゃないし、いいんじゃないかしら?」
毎回うるさいから、早く番ってくれないかな、と、飲み会の度に部の全員が思っているなんてことは、当人たちだけが知らぬ事実だ。
「瀬川さんも素直じゃないねぇ。早くガブリとやられちゃった方が、楽になるのになあ」
「もうちょっとじらしたいお年頃なんじゃないの?」
同僚二人にそんな風に野次られてしまう瀬川と藤堂だったが……
ある日突然、「番になりました」と恥ずかしそうに二人そろって皆に報告していた。
という未来がやってくるのは、もうちょっとだけ先のことである。
Kカンパニーが誇るエリート集団である、本社第一営業部が勢ぞろいのいつもの飲み会では、最近特に目撃することの増えたある光景が、第三課第二グループ担当である山口憲一の目の前で繰り広げられていた。
王子様が、眠り姫をお膝抱っこ。
からの、羽交い絞めに近い後ろからのハグ。
おい藤堂。お姫様が顔真っ赤に染めて嫌がってるから、やめてやんなって。
ホントまあ、あれがKカンパニー第一営業部が誇る高潔王子様の姿かと思うと、父ちゃん情けなくて、涙でてくらぁ!
……じゃなくて。
Kカンパニー本社第一営業部のプリンスと名高い藤堂隆一の同僚であり、先輩である山口は、心の中で自らにツッコミをいれつつ、目の前の後輩の姿に大きくため息をついた。
全くこいつはホントに、あの人が絡むと人格が変わるというか本性が丸出しになるというか。
とにかく、プリンス感が台無し。
「瀬川さん、もう遅いし、俺と一緒に帰りましょう?ね?」
「やだよ!だって藤堂、いつも俺にエッチなことしようとするもん!」
「しません。今日はしませんから」
「そんな事言って、いっつも触りまくるし、首噛もうとするし!」
「今日は絶対噛まないから!ね?」
藤堂の腕の中で身を捩って暴れ、そこから逃れようとしているのは、4月の異動で事業部から鳴り物入りでやってきた第一営業部主任、瀬川冬夜その人だ。
長い腕の牢獄に囲われ、頬をピンクにそめてイヤイヤするその姿には、その辺のグラドルちゃん顔負けのいろっぽかわいさが漂っている。
対し、その彼を腕に留めようとする藤堂はといえば、上品王子の仮面がごっそり剥がれ落ち、まるで、捕らえた獲物を逃さんとする野生の獣さながら。
プリンス藤堂ともあろうものが、なんともなさけない、とは思うがしかし、その気持ちはわからないでもない。
αの男なら誰でも、瀬川に惹かれずにはいられない。
誰もがひれ伏す美貌の持ち主で、高い仕事能力もある。なのに、超のつく天然ぶりを披露して周りを和ませるかわいさ。
その上彼は、エリート集団である第一営業部では非常にめずらしい、Ωでもある。
この世には、男と女という性別の他に、α、β、Ωという種別がある。
まあこの辺のみなさんお詳しいと思うので説明は省略するとして。
とにかく、αが多い第一営業部の中で、Ωは瀬川ただ一人。
読者の皆様はもうお察しになられていらっしゃるだろうが、藤堂はもちろんαである。
αの中でもトップクラスの能力を持つ藤堂は、山口が知る限りでも、男女問わず数多くのΩ性を引き寄せては言い寄られ続けていた。
本人はそれに辟易している様子だったし、過去にはそのわずらわしさからか、「Ωと番うつもりはありません」ときっぱり言い切っていた時期もあった。
それが、どうだ。
瀬川が着任の挨拶に来た時に見せた、藤堂の飢えた肉食獣のような目。
藤堂が瀬川の姿を捕らえたあの瞬間を、山口は今でも忘れられない。
「あーあ。瀬川主任随分お酒飲んじゃったみたいだし、藤堂くんも必死よね」
憐れなαの男の姿に、隣に座る鎌田がコロコロと笑っている。
「まあなぁ。ほっとくとどこの馬の骨に歯形つけられるか、わかったもんじゃないからな」
あんな麗人が、よくぞ今まで誰の番にもされずに無事にいられたものだ、と、山口はその奇跡に感動すら覚える。
酔って体温の上がった瀬川からは、αの自分たちを虜にする、たまらなくいい匂いが漂っている。
おそらく藤堂は、やさしく瀬川をなだめているように見せていても、その実必死に理性を保ち、なんとかして瀬川を守ろうとしているに違いない。
自分から。
そして、同僚のα達から。
藤堂は瀬川の体を胡坐の間に入れ込み、どこにも逃がさぬよう、後ろから囲うようにして瀬川を抱え込んでいる。
そうでもしておかないと、ど天然のあの主任は、お酒をついでくれるα狼たちの所へ危機感なくフラフラと寄って行ってしまうのだ。
自分が、どれだけ男を誘う匂いを振りまいているかも知らないで。
それでも実は、瀬川以外の誰もが知っている。
彼が、藤堂のものであることを。
今までどんな美男美女にも興味を示さなかった藤堂が、瀬川だけに執着し、必死に自分のものにしようとあがいている姿を見て、誰もが「これは仕方がない」と思っているに違いない。
強烈に惹かれ合う運命の相手という者が存在することを、今、第一営業部の全員が思い知らされている。
「んーーーっ!あー!藤堂っ!イヤだってば!首噛まないでって!」
「ベルトの上からなら、いいでしょ?」
「ぎゃっ!今度は耳噛んだぁ!」
「首は噛んじゃダメだと言われましたけど、耳はダメって聞いてませんよ」
いちゃいちゃしているようにしか見えない二人のやりとりに、山口と鎌田は顔を見合わせて、やれやれと肩をすくめる。
「なあ。あれ、公然猥褻だろう」
「そうねぇ。まあ、服脱いでるわけじゃないし、いいんじゃないかしら?」
毎回うるさいから、早く番ってくれないかな、と、飲み会の度に部の全員が思っているなんてことは、当人たちだけが知らぬ事実だ。
「瀬川さんも素直じゃないねぇ。早くガブリとやられちゃった方が、楽になるのになあ」
「もうちょっとじらしたいお年頃なんじゃないの?」
同僚二人にそんな風に野次られてしまう瀬川と藤堂だったが……
ある日突然、「番になりました」と恥ずかしそうに二人そろって皆に報告していた。
という未来がやってくるのは、もうちょっとだけ先のことである。
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